ニコニコ生命の保険外交員・久六(小沢昭一)は大の酒好きだが、酒が止められている顧客にそうとも知らず酒を呑ませて逝かせてしまい、部長から大目玉を喰らって地方の営業に飛ばされてしまう。禁酒を誓った久六は目的地に向かう車中で怪しげな男・半次(長門裕之)、グラマーな女医葉子(南寿美子)と知り合う。目的地の寿町は酒を百楽の長としてたしなむ老人が多い長寿の街で、久六の勧誘に首を縦に振る者など全くおらず久六は途方に暮れる…。

 

 今村昌平作品のレギュラー俳優としてお馴染みだった小沢昭一主演の日活作品。酒大好きだが禁酒を余儀なくされてしまった男が仕事先の田舎町でとんでもない騒動に巻き込まれる…。戦前から活躍し戦後は東宝で『社長』シリーズの雛形とされる『三等重役』(52)を撮り、日活専属になってからはフランキー堺と市村俊幸の『フランキーとブーちゃん』シリーズなどを撮り喜劇専門監督として活躍した春原政久が監督を担当。小沢の相手役に日活青春路線のスターとして売り出されれた長門裕之。ヒロインの南寿美子は若い頃に力道山の伝記映画で力道山の妻に扮した事があり、日活がロマンポルノ転向後も残留して脇役として活躍した。

 

 東京行きの列車も早い時間になくなり、旅館泊りになった久六はヤケクソで歌をがなっていたら、それを合図と勘違いした男たちに印刷屋に連れていかれる。社長の瀬川は寿町の大ボス・大宅の命令で東京から殺し屋を呼んだのだが、久六が勘違いされてしまったのだ。大企業の工場建設予定地に居座る「ラクダの馬太郎」殺害が目的。訳が分からない久六に半次が真相を明かす。半次こそが本物の殺し屋だったのだ。半次は途方に暮れる久六に一芝居打つ事を提案、決闘を演出して負けた久六に代わり殺しを請け負う事に。殺し屋が来訪した事が町中に知れ渡り久六の下に契約話が殺到。半次は馬五郎を仕留めようとするが…。

 

「らくだの馬五郎」という役名からも分かる様に落語噺の『らくだ』を現代流に脚色したストーリー。大酒呑みの久六や半次といった役名はそのまんま、殺す前にフグに当って死んでしまった馬五郎(元ネタでは熊五郎)に「カンカン踊り」を躍らせて大宅(元ネタでは「長屋の大家」)をビビらせる下りもそこからパクっている。と、喜劇映画監督ならではの造詣の深さで製作した一編。ついつい酒を口にした気弱男の久六が豹変し半次を手下の様にこき使う下りが本作のキモだろう。ただ当初の脚本にあったブラックな結末がまるっきり削られ中途半端なハッピーエンドで〆になってしまうのは面白くない。それが添え物作品の限界と言う事かしらん。

 

作品評価★★

(同じ年に松竹で酒乱映画の傑作『酔っ払い天国』が公開されているので、それに比べるとブラックユーモアが抜けている分だけ評価が厳しくなってしまった。ちなみに長門裕之は後に弟・津川雅彦の監督作品『寝ずの番』でカンカン踊りをさせられる死体の役をやってました)

 

映画四方山話その675~小沢昭一と俳優小劇場

 映画評論家の佐藤忠男は今回の作品の見どころを「新劇俳優(小沢)と映画育ち俳優(長門)の掛け合い演技)と評しているが、そう言われて小沢昭一って新劇俳優だったんだ…と今更ながら気付いた。確かに小沢昭一は60年に『俳優小劇場』を設立し舞台俳優として活躍したのだが、その傍ら脇役として膨大な数の映画に出演。学生時代から馴染みだった今村昌平の仲介で日活と専属契約を結んだのが発端だったらしいが、60年代に入ってからは他社作品にも顔を出す様になっていった。

 

 殆どが人間臭さが滲み出た役かコメディリリーフ的役柄で、その演技は仲代達矢や加藤剛といった手合いの新劇臭さが染みついた演技とは全く別物。川島雄三の『貸間あり』(59)の「天ぷら学生」役やエロ稼業に飽くなき情熱を傾ける男に扮して堂々主演を務めた今村の『「エロ事師たち」より 人類学入門』(67)などは彼以外の配役が想像できない程のハマり役だった…と言える。70年代以降は市井の芸能研究や野坂昭如、永六輔と組んだ「中年御三家」など役者より文化人ぽいフィールドでの活動が多くなっていったが、長寿ラジオ番組『小沢昭一的こころ』などは役者・小沢昭一の延長線上のキャラクターで構成されている感があった。

 残念ながら年代的な事もあり、俺は俳優小劇場の舞台を観ていないので小沢たちがどういう演劇をやっていたのかは良く分からないのだが、俳優小劇場が日本映画に及ぼした影響は実は大きいのだ。俳優小劇場は71年に劇団内で内紛がありこの年に解散している。そこで行き場を失った劇団員や研究生が仕事と活躍の場を求めて同じ年から製作を開始した日活ロマンポルノに出演し始めたのだ。一番の有名どころでは風間杜夫、更に『東京流れ者』(66)など日活時代の鈴木清順映画の常連俳優でロマンポルノでは悪役系のキャラクターで活躍した江角英明、初期の神代作品に出演した谷本一、粟津號、大江徹といった面々も俳優小劇場出身だった。

 男優だけでなく女優では『一条さゆり 濡れた欲情』(72)に主演しキネマ旬報主演女優賞をゲットした伊佐山ひろ子や、後にTVドラマで人気が出た岡本麗も俳優小劇場の研究生出身だった。小沢自身がエロ仕事も芸能の一部として強い関心を持っていた事とも関係するのかもしれないが、一般映画時代に新劇劇団が日活と契約を交わし劇団員が多く出演協力する事で日活映画の成功に大きく貢献したみたいな事が、ロマンポルノでも行われていた…というのは、昭和の役者マニアの俺としては大いに興味を抱く事ではあるのだが。

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