母が死んだ日。一郎、二郎、三郎の三兄弟は横暴な父の首を刺し川を渡って逃げようとするが捕まってしまい厳しい折檻を受けるが、一郎は家を飛び出してそれっきり行方不明に。30年後。大物政治家だった父が亡くなり盛大な葬儀が行われた。二郎(鈴木浩介)は父の地盤を継いで市会議員となったが、三郎(桐谷健太)はヤクザに雇われてデリヘルの店長をやっている。二郎は所属会派の長、大泉が勧めているショッピングモール建設計画に関わっていて…。

 

『SR サイタマノラッパー』シリーズでブレイクした入江悠監督。その後はメジャー会社でも撮るくらいの売れっ子監督になったが、それでも依然自身の拘りを前面に出した作品も撮り続けている。自身のオリジナル脚本の映画化である本作は、入江監督の地元・群馬県深谷市でロケ撮された物だが所謂町起こし映画とは程遠い世界観(笑)。子供時代の強烈なトラウマを未だ引き摺っている三兄弟のしがらみを描いたハードなドラマ。主役の三兄弟には大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太の売れっ子俳優が扮し元『AKB48』の篠田麻里子、怪優・嶋田久作、菅田俊、ラッパーの般若などの共演。ビジランテは和訳すると「自警団」の意味。単館系で公開。

 

 二郎は所属会派の岸から父の遺産である土地の一部をショッピングモールの敷地用に売れと指示され三郎に相談。父を毛嫌いしている三郎に異存はなく事はスムーズに進むと思ったが、或る日突然一郎を名乗る男(大森南朋)が帰ってきて父の遺した家に居ついてしまう。一郎は父から遺産の全てを相続すると署名捺印された公正証書を持っており、これがある限り一郎の承諾無しで件の土地を売り捌く事は出来ない。岸の厳しい催促に悩まされる二郎。岸の息は三郎のデリヘル経営者で暴力団幹部・大迫にもかかっており、三郎も大迫から一郎の土地を何とかしろと強要され説得を試みるが、一郎は頑としてそれを承諾する気配はない…。

 

 某ルポライター曰く「最低の地域」である北関東の地方都市を舞台に欲望と暴力が交錯した陰鬱な世界が描かれる。多分街の底を這いずり回って生きてきたと想像される長男、父への憎悪故に敢えてやくざのケツ持ち仕事についたと思しき三男に比べ、次男は父に屈服して生きる生活を選んだが、その気弱ぶりに周囲の人間や妻までも彼を見下してる感がアリアリ。そんな三兄弟の思惑のズレが惨劇を呼ぶ展開はかなり短絡的な部分もあり万人が納得できる世界観とは言い難いが、排他的なネトウヨぽい「地元の有志」で結成された自警団の姿が地方都市が孕みがちな、どうしようもない保守性を暗喩していると言えるかも。力作ではある。

 

作品評価★★★

(大森南朋も桐谷健太もTV方面で人気者になっており、こういうアクの強い役柄は今となっては珍しく感じる。その意味でも貴重な作品。加えてAKB48在籍時代は飛ぶ鳥を落とす勢いだった篠田麻里子が、地味~に悪妻役を演じていた事も印象に残った。流行の変遷は早いね)

 

映画四方山話その664~麿赤兒の息子とは最初信じられなかった大森南朋

 

 

 大森南朋の一郎役はジョージ秋山漫画の映画化『捨てがたき人々』(14)の主人公と類似している。両者とも故郷に突然帰ってきて周囲の人間と軋轢を生みだす。過去にどういう生活を送っていたのか映画内では具体的に描かれないという点も共通している。そんな粗暴な、世間に背を向けたアウトローぽい役が大森南朋にはお似合いだ。

 そのパターンでのベスト演技が『ヴァイブレータ』(03)のトラック運転手役だろう。髪を金髪に染め近寄り難い外見だが、精神を病んだフリーライターの女(寺島しのぶ)の心を鷲掴みにして女はトラックに同乗、大森はそんな彼女の閉じた心を解き放つ役割を果たす。その外見とは裏腹な優しさが大森の演技に滲み出ていた。

 

 映画デビューは93年というから俺は随分前から大森南朋の姿をスクリーンで目撃していたはずだが、『殺し屋1』(01)で主演に抜擢されるまでその存在には気付かなかった。『殺し屋1』は当時絶好調だった三池崇史ならではの異端なバイオレンス作品だったが、泣き叫びながら人を殺すエキセントリックさと、大森の童顔系のイケメン顔との異化作用効果が印象的だった。

 

 その大森南朋は麿赤兒の息子だった。麿赤兒と言えば唐十郎の『状況劇場』を経て暗黒舞踏派を名乗る土方巽の弟子となり、その後前衛舞踏集団『大駱駝艦』を主宰、言わば60~70年代のアングラ文化の代表者の一人だったが、80年代からは怪優として多くの映画に出演している。二人の容貌には全く共通項がないし、芸風も全く違うので最初親子関係と聞いた時は信じられなかった。お互いの個性を尊重して親子共演は避けていそうだなと思って調べてみたら、これが意外と多かったんだな。某俳優みたいに父親との確執的な物は、この二人にはなかったみたいだ。

 粗暴な役柄を演じる一方で俳優・田口トモロヲの初監督作品『アイデン&ティティ』(03)ではバンドでメジャーデビューしてもやっていける自信がないベーシスト、篠原哲雄の傑作『深呼吸の必要』(04)では、年嵩な援農バイトのリーダー格ながら学生バイトに「年金ちゃんと払ってるの?」と小馬鹿にされ言葉が返せない万年フリーター役など、真逆な気弱系演技も印象に残っている。TVドラマで顔が売れても映画出演は変わらず多く、脇役も好んで演じていたりしていたが、去年主演したドラマの「いい人」演技で再ブレイクした今となっては、TV中心の仕事にチェンジしてスクリーンから遠ざかってしまうのでは…とちょっと心配ではある。