アメリカ南西部の村リオ・アリバ。明日この村で銀行強盗を働き捕まった四人組の処刑が行われる事になっていた。そんな村にダグラス(グレゴリー・ペック)という男が現れる。ダグラスは保安官に四人の処刑を見に来たと告げる。留置場に案内されたダグラスは四人を凄い形相で睨むが四人に心当たりはない。処刑人のシムズが到着。しかし偽者で実は悪党の一味。彼は保安官に射殺されたが手引きで四人は脱獄に成功、若い娘エマを人質に取り馬を奪って逃げる…。

 

 人気を博した勧善懲悪スタイルの西部劇も、60年に近づいた頃には飽きられてきたという事もあったのかな? 本作は『ローマの休日』(53)などで知られるグレゴリー・ペック主演。二枚目かつ紳士的な役柄が多かった彼が本作では癖がある男役に挑んでいる。1915年に監督デビューしてグレゴリー・ペック主演作を多く手掛け、この時点で既に大ベテラン監督だったヘンリー・キングが演出を手掛け、主人公の元恋人役に英国からハリウッドに転出したショーン・コリンズ、『ベン・ハー』(59)の悪役や『ミクロの決死圏』(66)で知られるスティーヴン・ボイドなどの共演。マカロニ・ウエスタンスターのリー・ヴァン・クリーフも銀行強盗犯の一員役で出演。

 

 村人で追跡隊が結成されダグラスもその一員に加わった。やはりこの村を訪れていた元恋人のジョセフ(ショーン・コリンズ)と再会したが、ダグラスには若き日の明朗さはなかった。ダグラスはジョセフに自分が経営する牧場で件の四人に妻は犯されたあげく殺されたのだと告白。四人が脱獄した事で自らの手で復讐する機会を得た事になる。その通りダグラスは追跡隊の先頭に立ち、やがて単独行動で犯人を一人ずつ射殺していく。残ったのはメキシコ人のパラルだけだ。パラルはダグラスの隣人バトラーを相棒のザッカリー(スティーヴン・ボイド)が射殺した際、バトラーが手にしていた金の入った麻袋を懐に入れ妻子がいる家に辿り着く…。

 

 主人公の心を占めるのは正義感ではなく妻の怨みを晴らす復讐心のみ。慎重に行動する追跡隊とは離れ一人で残酷な手段で悪党たちを殺めるのだが、最後の一人を仕留めようとした際に自分の思い込みが誤っていた事を知る。妻殺しに関しては無実だった人間を殺してしまった事への罪悪感に囚われた主人公は、村へ帰ると直ぐ教会に懺悔しに行くのだが、そういう事情を知らない村人たちは悪人たちを始末してくれた上に人質を取り戻してくれた事に感謝し主人公の帰還を熱烈歓迎。複雑な心情を抱えた彼を癒せるのは妻の忘れ形見の娘と元恋人。いつか彼の心も晴れるだろうという予感を孕ませるラストシーンはハッピーエンドだが…。

 

作品評価★★★

(良心の呵責という旧来の西部劇では殆ど描かれなかった感情を描いているのが新味であろうが、それを大作仕様ではなくコンパクトな語り口で描いている所に演出者の職人気質を感じる。今の視点で観ればラストのハッピーエンドは違うんじゃ…と思ってしまう気持ちもあるが)

 

映画四方山話その657~映画評論家への逆襲

荒井晴彦×森達也×白石和彌×井上淳一のトークが活字化、発売記念 ...

 もうかなり前の事だが、とある映画監督が「映画ベスト・テンがあるなら俺たちも『映画評論家ベスト・テン』をやろうじゃないか」と提言した事があった。結局その様な動きがあった形跡はなく掛け声だけに終わってしまったみたいだが、アイディアとしては面白い。ベストテンというからには作り手側には映画評論の良しあしの基準があるという事だろう。そういう忌憚のない意見を聞いてみたかった。

 若い頃映画製作を志す人間と話をした時「映画評論家なんて悪口書いて飯のタネにしている、ダニ同然の人種」と、あまりにステロタイプな評論家批判に面食らった事がある。確か前千葉県知事の森田健作もそれと似た様な事を言っていたな。

 まあ誰しも悪口を言われるのはいい気持ちがしないだろうとは思うけど、もし映画業界に映画評論家という職種が存在せずヨイショばかりする「映画雑文家」だけだったとしたら、作り手に緊張感がなくなり「いい作品」が殆ど登場しなくなってしまうのでは…と思ったりするのだ。

 尤もとある出版社からシリーズとして出ている「日本映画をけなす」をテーマにした本をチラ読みした時は、件の映画製作志望者と同様の事を思ってしまった。賛否両論ありそうな問題作をまな板に上げるのではなく、観る前から突っ込みどころがいっぱいありそうな作品ばかりチョイスして重箱の隅を突っつく様に欠点を数上げて指摘しこきおろすスタイルは、映画評論というよりも80年代前半に「新人類」と称する人たちがやっていたTV番組弄りに近い物で、これでは「悪口を飯のタネにしている」と言われても仕方ないだろう。

 そういう不埒な連中とは別に『映画評論家への逆襲』という本が出版された。新型コロナウイルス禍で危機に瀕したミニシアターを盛り上げようという主旨に連動して行われたオンライントークショーを書籍化した物だ。俺自身はまだ未読ではあるが参加者の顔ぶれからして想像つくようにかなり辛口なトークが連発されているらしい。映画評論家への物言いとは、即ち映画評論家が褒めている作品の評価に対しての異議を唱えている訳で、同じ作り手側からの批判はそれこそ評論家の悪口以上に気に障るという人もいそうではあるが…。

 振り返ってみると俺も最近は映画評論の類の本には殆ど触手が動かず、インタビュー集みたいな作り手の肉声が知れる映画本ばかり好んで読んでいる。映画オタク本以上の価値を見出せる映画評論本は今どのくらい需要があるのだろうか…と根本的な問題に突き当たったりもするのだが。