ロックシーンに登場して僅か3年余りで音楽シーンから姿を消してしまったジャニス・ジョプリン。当然ながら生前オフィシャルで遺された音源も4枚のアルバムのみで少なく、となると墓掘り人夫みたいに秘蔵音源をどこやらから発掘してきて「貴重な音源」の謳い文句でアルバム発売…。同じ様に活動期間短かくして亡くなったジミ・ヘンドリックスも死後何年も経ってからも新譜が出たりしていたけど、ジャニスも死後20以上ものアルバムが発売されていて何が何やら分からなくなってしまうのだが、それだけ「伝説度」の高いミュージシャンだったって証拠でもあろう。

 さっき聴いた『白鳥の歌』もその類の一つで彼女が亡くなって12年後に発売されている。未発表曲を集めたというのが本アルバムの売りで、ジャニスが生前に組んだ三つのバンド(『ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー』、『コズミック・ブルース・バンド』『フル・ティルト・ブギ―・バンド』)に加え、トッド・ラングレンプロデュースで『ポール・バターフィールド・ブルース・バンド』をバックに試し録りしたと思しき貴重な一曲も収録されている。

 

 アナログA面1曲目は『パール』(71)のバックを務めたフル・ティルト・ブギ―・バンドをバックに従えて唄う『テル・ママ』ライブヴァージョン。ご存知R&Bシンガー、エタ・ジェイムスの有名曲のカバーでライブでは良く唄っていた様だ。伝説的な70年のカナダ巡業ライブ『カナディアン・エクスプレスツアー』の時の収録で、オリジナルよりも加速を増して唄うジャニスの熱唱はやはり聴きものである。バックの演奏も熱っぽい。

 2曲目『マジック・オブ・ラブ』は『ビッグ・ブラザー~』在籍時ライブからの収録。別れて久しい恋人に戻って来てと哀願するジャニスの私生活を彷彿させる様な歌詞で、粗が目立つ演奏を構わず強引に唄い切るジャニスに、バックのメンバーの方が引っ張られているみたいな演奏。既に独自のヴォーカルスタイルを確立しているジャニスのグレイトさが伝わってくる。

 3曲目『ミズリー』は『ビッグ・ブラザー』のスタジオ撮り未発表曲の登場だが、噂によるとジャニスのヴォーカル以外はこのアルバム制作に当りスタジオ・ミュージシャンを起用して再録された物だとか。オリジナルヴァージョンの粗い演奏部分まで再現しているのには驚かされるが、さすがにこれはオリジナルの演奏者に非礼だろう。去っていった恋人に事を想い毎夜枕を濡らして泣いている私…って、ジャニスの曲はこんな歌詞ばっかか(笑)。ただ曲自体はサビでスローぽくなる所などいい感じで、名曲一歩手前のレベルには達している。

 4曲目『ワン・ナイト・スタンド』は前述したポール・バターフィールド・ブルース・バンドをバックに配した問題の曲。長いツアー中ささくれだった気持ちを静めるべく一夜限りでベッドを共にする男について唄った、かなり実録的な歌詞で間奏に入るポール・バターフィールドのハープ、ソウルフルなブラスセクション入りのバック演奏も素晴らしく、試し撮りレベルで終わらずこのコラボは続けて欲しかったと思わせるに十分な名曲。あっさりフェイドアウトしないロングヴァージョンで聴きたかったな。続く『ビッグ・ブラザー』とお遊びでスタジオで録ったショートヴァージョンのジャム『ハリー』でA面は終了。

 

 アナログB面1曲目『レイズ・ユア・ハンド』は『コズミック・ブルースを歌う』(69)でバックを務めたコズミック・ブルース・バンドをバックに従えての、ドイツでのライブからの収録。R&Bを強く意識した歌唱&演奏で、ジャニスのブラックミュージックへの憧れの気持ちが強く出ている。ただ型にハマり過ぎている演奏がジャニスには気に入らなかったのかもしれないが。

 2曲目『ファアウェル・ソング』は本アルバムの原題にもなっている、『ビッグ・ブラザー~時代のライブから。この曲は恋人との生活に限界を感じ自ら別れを告げる、珍しくポジティヴな?女について唄っている。演奏はかなりもたつきとても一流バンドとは言えないけど、そういう所も含めジャニスとは相性が良かった…という所か。ジャニスのサザン・ソウルを思わす名唱はそんな演奏をものともせずハイテンション。

 続く『アメイジング・グレイス~ハイ・ヒール・スニーカーズ』も同じく『ビッグ・ブラザー』時代のライブ収録。アカペラの酔いどれ風コーラスから明朗なブルースソングへの切り替えが鮮やかというか面白いというか。ジャニスも『アメイジング~』が愛唱歌だったのね。

 最後の曲『キャッチ・ミー・ダイ』も『ビッグ・ブラザー~』時代のスタジオヴァージョンという事は、これまた演奏のみ再録ヴァージョンなのか。ファズを使ってのギターなんかモロ60年代って感じがするけどね。ジャニスにしては珍しいロックン・ロールスタイルを取り入れた曲で、ジャニスののヴォーカルとドラムスの掛け合いがイイ…と言っても、実際には掛け合いしてないスタジオミュージシャンとの共演なんだだけどね…。

 

 と、売らんかな精神でとんでもない禁じ手を使ったのは許せないけど(あの世でジャニスも腹を立てているだろう)、ライブでのジャニスの名唱はやっぱり不世出な素晴らしさだし、『ワン・ナイト・スタンド』も発掘するにふさわしい名曲だった。未発表曲集でもレベルが落ちていないのはさすがと言うべきか。アルバムの性格上ジャニスの初心者リスナーにはおススメしかねるが、マニアックなファンには聴いて欲しいな…と思う。