美しいシャボン玉で観客を魅惑する「シャボン玉ショー」。出演するのはシャボン玉城の城主シャボン玉姫と五人組の「シャボン玉ガールズ」。ショーがある当日、アンパンマンワールドの住人達は朝からその話題で持ち切り、浮き浮き気分。しかしステージ上にはシャボン玉ガールズは四人しかいない。プルン(声・水野真紀)が出演直前になって姿を消してしまったからだ。仕方なくショーはプルン抜きで上演。プルンは自分に吹くシャボン玉が大きくない事に悩んでいた…。

 

『それいけ! アンパンマン』劇場版第一作『キラキラ星の涙』が封切られたのは89年。それから30年以上が経ち32作目となる最新作『ふわふわフラリーと雲の国』が今年6月公開されるというから(去年6月公開予定が新型コロナウイルス禍によって上映延期に)、一作目のアンパンマンに声援を送っていたガキンチョも若くても今では30代後半に差し掛かっている訳だから時の流れは速いね~。さて今回観た『それいけ!アンパンマン』は07年夏休み向けに公開された第19作目。シャボン玉が上手く吹けなくて悩む少女プルンをアンパンマンワールドのが励ます。プルン役の大物ゲスト声優には当時は国会議員夫人となっていた水野真紀が扮する。

 

 公園でこっそりシャボン玉の練習をしていたプルンをパトロール中のアンパンマン(声・戸田恵子)が見つけて声をかけるが、プルンは練習している事がバレるのが厭で冷たい態度を取って立ち去る。その時シャボン玉を吹く笛を忘れていってしまった。忙しいアンパンマンはクリームパンダ(声・長沢美樹)に笛をシャボン玉城に届けて欲しいと頼む。翌日笛を忘れた事に気付いたプルンはこっそりシャボン玉城を抜け出して取りに行くが、その途中でクリームパンダと出くわす。最初は衝突していた二人だが一緒にシャボン玉城に戻る。綺麗なシャボン玉に魅惑された我儘なドキンちゃんは、ばいきんまんにシャボン玉の笛が欲しいとおねだりして…。

 

 自信をなくしているプルンを励ますのはアンパンマンに加え、クリームパンダがプルンと友情関係を結ぶ重要な役割で活躍。ゲットした笛を吹いても大きなシャボン玉が吹けないドキンちゃん(練習していないんだから当たり前)に逆切れされたばいきんまんは「ばいきんシャボン玉」を開発しアンパンマンワールドを汚れた世界に変えようと企む。このシチュエーションは「病気にならないようマメに石鹸で手洗いしなさい」というメッセージ。アンパンマンワールドの危機をプルンが吹いた、小さくても美しいシャボン玉が救う…という結末には、微力でも善が悪を駆逐する可能性を嗤っていけないという、やなせたかし先生の願いが込められてる様に感じた。

 

作品評価★★

(混迷する新型コロナウイルス禍状況を見るにつれ、この社会にアンパンマンが登場し世に救うバイキン連中を成敗とまでいかなくても懲らしめてくればいいのに…と思ってしまった。やなせたかし先生の平和への願いは、ネット社会に生まれ育った子供たちにも伝わるのだろうか)

 

映画四方山話その647~ばいきんまんとドキンちゃん

 

 毎回ハイテクな戦闘マシーンを開発、一時は圧倒的優位に立ちながら最後はアンパンマンに成敗されてしまうばいきんまん。勧善懲悪の子供向けアニメだから致し方ない役割ではあるが、自ら「蛆虫」と名乗っている俺には憎めないキャラ…『ゲゲゲの鬼太郎』の「ねずみ男」と共通のシンパシーを感じてしまう(二人とも汚い、不潔といったキャラが共通)。

 でも冷静に考えるとあれ程の天才科学者的な頭脳の持ち主のばいきんまんが、いかに勇気100倍パワーとはいえ焼きたてのパンだけがエネルギー補給のアンパンマンに勝つのはおかしい(笑)。これは俺が子供の頃観た時代劇TVドラマ『仮面の忍者・赤影』(東映制作)の宿敵である甲賀幻妖斎(天津敏)率いる『卍党』が、現代どころか近未来じみたハイテクな機器などを開発しているのに、所詮忍術しか頼る術がない赤影にわざわざ同じ忍術で挑んで壊滅させられる間抜けぶりにも通じる。

 まあそういうリアリズムな事に気付く頃が、即ちそういう子供向けアニメや子供向けヒーロー物からの「卒業」を意味している事では…と思ったりもする。俺は特にマセガキだったので、子供としてリアルタイムで『ぞれいけ!アンパンマン』を観ていたとしたら、かなり早い時期に卒業していた予感はするが。

 小悪魔キャラのドキンちゃんの原型イメージは「このおもちゃ買って」と店頭で大泣きしておねだりしてママを困らせ、結局根負けしたママに買ってもらう我儘いっぱいの女の子…て感じかな? 俺は女の子ではなかったし(笑)、俺の親父やおふくろはどんなに粘っても絶対に買ってくれないタイプだったので、ドキンちゃんにはばいきんまん程のシンパシーは湧かない。或る意味ばいきんまんより性悪キャラだと言える。

 そんなドキンちゃんだが、アンパンマンは大嫌いなのにアンパンマンの盟友「しょくぱんまん」にはメロメロで、ばいきんまんがアンパンマンを痛めつけるのは大賛成でもしょくぱんまんに対してそんな事をすると大激怒。かなりミーハーというか、俗に「ジャ二オタ」と呼ばれる女性たちとの共通項を感じる…って、しょくぱんまんてイケメンなのかね?

 個人的な話だが昔の俺の知り合いにシビアな文章を得意とする漫画家&サブカルライターみたいな女性がいて、文章では毒のある事書いてる癖にジャニーズタレントに対しては「香取クン」「岡田クン」など、全て君づけで愛着こめて呼んでいた事を思い出す。こういう言い方をするとアレだけど、女性というのは誰にも少なからずそういうミーハー的な部分があるのかもしれないなあ…とイケメンから程遠い俺はドキンちゃんを見ながらそう思うのであった。

 ちなみに長編の『それいけ!アンパンマン』と併映される短編のアンパンマン作品では、ばいきんまんもドキンちゃんも長編とは全くキャラが違う、アンパンマンたちと仲良しの無害なアンパンマンワールドの住人だったりするのだが、子供的にも違和感覚えたりしないのだろうか?