所謂ブルースの巨匠的ミュージシャンは21世紀になると殆どが鬼籍に入ってしまったが、ン1924年生まれのクラレンス”ゲイトマウス”ブラウンは21世紀になっても活動を続け03年には来日までしている。同じ年代で21世紀まで活動していたのは彼とB・Bキングのみではないか。

 シカゴブルースとは全く違った出自のゲイトマウス・ブラウンの音楽は良く言えば何でもあり、悪く言えば節操もないと捉えられてもおかしくないから、正統派のブルースファンにはあまり評判は良くないのかもしれない。しかし自身自分はブルースではなく「アメリカン・ミュージック」を演っていると言ってたぐらいだから、そんな批判など馬耳東風だったんだろう。

 さっき聴いた『スタンディング・マイ・グラウンド』(89)は彼の14枚目に当るオリジナルアルバム。80年代に彼は五枚のアルバムを発表しており、ベテランミュージシャンとしては異例のハイペースである。そのペースは90年代になっても衰えず、この90年代前後が彼の絶頂期と捉える人もいるらしい。

 

 トラック1がシカゴ・ブルースの名曲『ガット・マイ・モージョ・ワーキング』から始まるというのは意表を突いている。アマチュアブルースバンドなら必ず演奏しそう、でも硬派な評論家は「今この曲を演奏するミュージシャンは信用できない」と言っていたっけ。でもシカゴブルーススタイルのアレンジではない。ゲイトマウスの弾く独特にカッティングから始まり、ホーンセクションが入ってかなりお洒落なアレンジになっている。指弾きの独特のソロ、トランペットをフィーチャーしたりと正にゲイトマウスワールドたっぷりのゴキゲン(死語)アレンジ。

 トラック2『ボーン・イン・ルイジアナ』では得意のフィドルを奏でるゲイトマウス。フィドル弾きながら唄うってスタイルはブルース界では後にも先にも彼一人だった。自分の生まれ育った故郷への想いを込めて唄うゲイトマウス。ちゃんとギターも弾いているのでお忘れなく。

 トラック3『クール・ジャズ』。1940年代のジャンプブルースを意識したメロディーのインストナンバー。ウォーキングスタイルのベースが印象的なバックのサウンドに乗って懐かしめなソロを弾くゲイトマウス。それが終わった後はまたトランペットに弾き繋がれる。

 トラック4『アイ・ヘイト・ジーズ・ドッゴン・ブルーズ』は滑らかなホーンセクションと交錯する様にゲイトマウスが唄いギターを弾く。ノイズじみた語りを挿入して都会の猥雑感を出そうとしたのかな…という感じのスローブルース。

 トラック5『シー・ウォークス・ライト・イン』は典型的ジャンプブルーススタイルでこの曲、確か『吾妻光良&スゥイギンハッパ―ズ』のレパートリーにもなってましたな。その分耳馴染みがあって聴き易い。

 トラック6『レフトオーヴァー・ブルーズ』はまたまたスローブルースで。落ち着いた大人の雰囲気(と言ってももう爺さんの年齢だったんだが)が愉しめる。ギターソロは一瞬ツインリードかと思える独特な奏法なのが特徴。

 トラック7『ルイジアナ・ザディコ』はタイトル通りルイジアナの伝統音楽「ザディコ」を意識してゲイトマウスがアコーディオンを弾きながら?唄う。でも間奏ソロはちゃんとギターで。泥臭い男性コーラスも入りローカル色たっぷりの、ゲイトマウスならではの異色ナンバー。

 トラック8『ホワット・アム・アイ・リヴィング・フォー』は『CCライダー』などのヒットを放ったR&B歌手チャック・ウィリス曲のカバー。郷愁じみた物を感じさせるメロディーでフィドルを弾きながら唄うゲイトマスス。黄昏れた昼下がりなんかに聴くとたまらない感じがします。

 トラック9『あんたのスーツケースは開けるなよ』は冒頭からホーンセクションが鳴り響きピアノが延々ソロを取り、その後でゲイトマウスのギター、トランペット、サックス…と次々とソロ回しが続くインストジャンプナンバーで〆。

 

 正統派ブルースミュージシャンみたいなアクの強さはないけど、音楽ジャンルを飛び越えるゲイトマウス・ブラウンならではの、いい意味での腰の軽さが味わえる佳作アルバム。如何にブルース好きと言えどもロバート・ジョンソンの生粋のデルタブルースや、ハウリン・ウルフのどシカゴ・ブルースばかり聴いていたのでは身が、もとい耳が疲れるという部分は否めない。こういう軟派路線の?ブルースも需要があるんだという事を、クラレンス・”ゲイトマウス"ブラウンはその長い音楽活動で証明したのである。