文具メーカーの営業マン宮本浩(池松壮亮)は前歯が抜けて腕にギブスした痛々しい姿で営業に出ており、営業部長から説教される。しかしこういう姿になったのには深い理由があった。宮本は元先輩社員で今は別の会社に勤務している中野靖子(蒼井優)と夜路上で偶然顔を合わせ、靖子の招きでアパートで御馳走になっている時、靖子の元彼・風間が来て強引に部屋に入ってきたのを宮本が諫める立場になり「中野は俺が守る」と言ってしまう。それは本気だった…。

 

 90~94年まで『週刊モーニング』に連載された新井英樹作画の漫画『宮本から君へ』。連載当時は漫画読みだった俺だが残念ながらこの漫画は読んだ事はなかった。連載終了から14年後の18年にまずテレビ東京で深夜ドラマとして放映され、その時の監督、主演コンビがそのまま映画版にも起用されている。TVドラマ版とは全く別な、ヒロインの中野のエピソードを膨らませたストーリーらしい。熱血青年・宮本の猪突猛進な行動を描く熱血青春映画? TVドラマ版に出演していた松山ケンイチ、井浦新といった主役級俳優が脇で出演。その他ピエール瀧、佐藤二朗などに加えTVドラマにも出演してた原作者の新井英樹も役者として登場する。

 

 風間が出て行った後貪る様に体を求め合った二人はその夜から恋人関係に。ある日宮本と中野は営業先の部長・馬淵に気に入られ、彼に連れられ呑み屋で大騒ぎ。宮本は馬淵らが結成しているラグビーチームに入団する事になり、羽目をはずして泥酔。歩けなくなったので馬淵は名門大学ラグビーで鳴らした息子・拓馬(一ノ瀬ワタル)を呼んで宮本と中野を車で送らせる。意気投合したに見えた拓馬だがアパートに着き宮本が爆睡しているのを見て豹変、中野に襲い掛かり強引に体を奪ってしまう。翌日目を覚ました宮本は中野の様子がおかしい事に気付き問い詰めると、中野は激怒しつつ事のあらましを白状。怒った宮本は報復を決意…。

 

 主人公・宮本のキャラクターが強烈。曲がった事が大嫌いでガチな喧嘩では絶対適いそうもない相手でも向かっていき、ボコボコにされても挫ける事はない。実はこういうキャラクターは大昔の漫画やテレビドラマなんかでは珍しくもなかったが、体制ぐるみの「長い物には巻かれろ」的な保身が罷り通る現実を嫌という程見せつけられてる身にすれば却って新鮮に映ったりする。池松壮亮と蒼井優は青春映画の出演経験は豊富だが、他の作品のやや繕った演技と本作の昔のアングラ演劇みたいな演技とは大変な落差があり、そういう点でも面白く観れた。クライマックスの決闘シーンではかなりデンジャラスな演出もあり、文字通りの体当たり演技。

 

作品評価★★★★

(宮本とのガチ喧嘩で圧倒的に優勢だった拓馬が下半身モロ出しにされた途端ひるむ姿には、思わず笑ってしまった。実力差がある相手にはまず金蹴りが有効ってか? ケツ丸出しで非常階段にぶら下がっている光景が滑稽で、そのシーンだけ繰り返し観たくなってくるぐらい)

 

映画四方山話その640~蒼井優

 池松壮亮も熱演だったが蒼井優も一瞬本人だと分からないくらいの大熱演で、凌辱シーンなんか本作が初めてではないかな? 相手役が年下設定という事で姉御肌ぽい雰囲気もあり、本作で従来の演技とは違った一面を見せてくれた。

 蒼井優と聞くとどうしても「あおい」繋がりで宮崎あおい(二人とも同じ1985年生まれ)を連想してしまう。ほぼ同時期に映画出演を開始、若い頃は鳴り物入りの話題作よりも小品的な作品の演技が記憶に残っているのも宮崎あおいと共通項がある。ただ宮崎あおいは作品重ねる毎にどんどん大物女優化していき、無難ぽい作品しか出演しなくなっていった感がある。

 

 蒼井優も『フラガール』(06)みたいな誰が観ても「いい話」と思えそうな作品でヒロインを演じたケースも多々あるが、それでも『百万円と苦虫女』(08)みたいな何を考えているのか今一つ分からない女の子や、イケメン男によろめくちょっと…否、かなり身持ちが悪い女を演じた『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)など、一風何かが欠落した様な女性を演じてる方が楽しそうに映る。脇役だが自分の好きな男が年上の女に惹かれているのにも関わらず、二人の関係を応援する立場に回ってしまう『人のセックスを笑うな』(07)も印象的だった。

 若いと思っていた彼女も今では30代半ば…という事で、これからは「大人の女」みたいな役柄が多くなっていくんだろうが、映画では一度しか共演経験がない宮崎あおい(その時は宮崎が主演、蒼井優は脇役)との再共演みたいなプランはないのかしら…というか、この二人の仲ってプライヴェートではどうなの?と勘繰りたくなってしまうなあ。選んだ夫からしてタイプが全く違うので(笑)性格的にもあまり相性が良くないのかも。