ドル箱スターだった石原裕次郎と吉永小百合がローテ―ションから身を引いた形になった60年代末の日活は渡哲也主演の『無頼』シリーズを始めとする陰鬱なやくざ物、それに続いて世に広く知られていなかった俳優たちが活躍するカーアクションテイストの『野良猫ロック』シリーズを柱とする路線を企画。前者は東映任侠映画のカタルシス性に飽き足らなくなった観客の支持を受けたが、後者はコアな若者層には歓迎されたが、既に経営が傾いていた日活の救世主になるまでには至らなかったのは至極残念。ただその作品群は今でも忘れ難い物を俺たち映画マニアに遺したと言える。

 

 さっき聴いた二枚のアルバム『日活ニュー・アクションの世界』はその作品群を音楽で追憶する…という好企画。和田アキ子主演として始まった『野良猫ロック』シリーズは音楽系プロダクション『ホリプロ』との提携として開始されただけに映画内で使用された貴重な音源がたっぷり詰まっている。冒頭60年代歌謡界の問題児だった青山ミチの『恋のブルース』(第四作『マシン・アニマル』挿入歌)のパンチの効いた歌唱からたまんねえ~。『野良猫ロック』シリーズに必ず登場したのはゴーゴー喫茶。踊り狂う若い男女、ステージではGSバンドがごきげんなサウンドを奏でる…というシチュエーションは、まあこのシリーズに限らず当時の若者をテーマにした邦画作品では必須シーンであった訳だが。『マシン・アニマル』(70)に登場したR&B系GSバンド『ズー・ニー・ブー』が唄う『ひとりの悲しみ』(トラック11)は、後に阿久悠が歌詞を書き直して尾崎紀世彦が唄う『また逢う日まで』として大ヒットする事に。

 第三作『セックス・ハンター』は米軍基地を舞台に妹の行方を捜す混血児(安岡力也)と混血児狩りを敢行する不良グループのリーダー、バロン(藤竜也)との闘いをメインにした傑作で、ふてぶてしさが売り物だった安岡力也のらしからぬナイーブな演技がスパーク! 元GSグループのヴォーカリスト出身の彼がソロ(トラック4)とヒロイン梶芽衣子とのデュオヴァージョン(トラック7)で二度歌唱する『禁じられた夜』が胸を打つ。

 最終作『暴走集団”71”』(71)はシリーズは、遂に日活も終焉迎えつつあったヤケッパチ気分を奔放な演出にぶつけたアナーキーな作品だったが、当時ホリプロ所属だった『モップス』がいきなりトラックの荷台に乗って現れ和製エスニックナンバー『御意見無用』(トラック15)を披露するシーンは強く印象に残っている。「♬(日活潰れても)いいじゃないか いいじゃないか♬」って訳でもないだろうけど…。他サントラからの劇伴を多数収録。

『無頼・殺せ』は『無頼』シリーズを始めとした渡哲也主演作品を中心に小沢啓一、澤田幸弘といったニュー・アクション作品の担い手となった監督の作品の音源を収録。やはりタイトルになった『無頼・殺せ』(69年。『無頼』シリーズ最終作)の劇中曲『君恋し』(トラック1)に止めを刺す。マジックミラーの床上は踊り場、下は事務所という奇妙な構造のゴーゴー喫茶。ステージではGSバンドがフリーキーなサウンドを奏でているのだが、事務所にいた悪玉親分が「俺の知ってる曲をやれ!」と一喝。バンドはフランク永井の『君恋し』を演奏。GS流のアレンジではあるが馴染みの曲に悪玉の表情が緩んだ瞬間、憤怒の塊と化した渡が殴り込んでくる。上では踊り狂う若者たち、下では阿鼻叫喚の流血シーンというシチュエーションが鮮烈でシリーズ最終作を飾る名場面になった。

 劇中のGSバンドは内田裕也が率いていたニュー・ロックバンド『フラワーズ』でヴォーカルは麻生レミ。本意ではない出演が気に入らなかった為か、この曲の演奏場面では内田裕也はフレームからはずれ気味で画面にはちゃんとは登場せず。

 トラック2は『斬り込み』(70年 監督・澤田幸弘 主演・渡哲也)からまたまた登場のモップスの『I AM JUST A MOPS』。英詞による重いリズムのオリジナル曲で、常に時代を先を読まんと「異色GSバンド」からロックバンドへと転身を図ろうとしていた時期の音源として貴重。彼らのファースト・アルバム『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』収録曲だ。 

 無頼シリーズ第一作『無頼より 大幹部』からは青江三奈の『上海帰りのリル』(トラック13)、『関東流れ者』(71年 監督・小沢啓一 主演・渡哲也)からの水原弘『からだの中を風が吹く』(トラック15)といった曲には、歌謡曲全盛時代ならではのエキスを感じるのは、俺と同年代の人なら分かるよね? その他日活末期を飾った傑作群の劇伴音源などが盛りだくさん。

 

 もう半世紀以上も前になっていまった日活ニューアクションだが、俺にとってはアメリカン・ニューシネマと同じくらいの衝撃を与えてくれた。出演者の多くが故人になってしまっている事実には愕然とさせられるけど、もう半世紀も前だものな…。