冒険家のジャック(マイケル・ダグラス)と小説家のジョーン(キャスリーン・ターナー)はヨットで世界一周の旅を楽しんでいる途中だが、ジョーンがスランプに陥り依頼された恋愛小説が書けなくなった。そんな時寄港した南ヨーロッパのとある港町のパーティ―で彼女の小説の大ファンだというアフリカの小国の皇太子オマーから自伝の執筆をしないかとの誘いを受ける。ジャックは反対したがジョーンは気分転換になると思い了承、ジャックを置いて去っていってしまう…。

 

 84年に公開されて大ヒットを記録した『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(監督ロバート・セメギス)。俺は13年に観た事になっているが記憶が全く残っていないのは多分その作品が典型的な娯楽作品だったからだろう。そういう「消費型」の作品ってこの歳になると観終わった瞬間からもうストーリーも忘れている事が多く、最早俺も重症の認知症なのかもしれない(涙)。本作はその作品の続編で製作も兼ねるマイケル・ダグラス、キャサリン・ターナー、小悪党のダニー・デヴィートが再集合し、政情不安なアフリカの小国を舞台にして展開するアドベンチャー・ロマンチック・コメディ。B級映画専門監督として知られるルイス・ティ―クを監督に抜擢した。

 

 残されたジャックは会いたくもないラルフ(ダニー・デヴィ―ト)と再会、揉めている内にジャックのヨットは爆破。オマーを襲撃しSPに追われていた男・タラクによればそれはオマーの仕業だと言う。ジャックはジョーンの命も危ないと思いラルフ、タラクと共にジョーンの後を追う。タラクはジャックとラルフに「『ナイルの宝石』の奪還に協力して欲しい」と要請、宝物に目がない二人は即了承。民衆の熱狂的歓迎ぶりにオマーのカリスマ性を感じたジョーンだったが、オマーの本当の姿は戦争を目論む独裁者だった。ジョーンはオマーの豪邸から脱出しようとするが直ぐに捕まてしまい牢獄に入れられる。そこで彼女は「ナイルの宝石」の正体を知る事に…。

 

 サントラで典型的な80年代アメリカンポップサウンドが流れる中、美男美女コンビがアフリカ国の政権抗争に巻き込まれる。劇中の小国は見たところアフリカというよりイスラム系のアラブ国家みたいに映るが、米国の観客にはどうでもいい事だったのだろうか? 独裁者軍に追われて行きがかり上対抗勢力の革命軍団に組する事になる主人公とヒロイン。言わば明確にテロリスト側に立っている訳で今の映画界ではこういう設定はNGかもしれない。適度にアクションシーンを混じえて展開するストーリーは、多少は『インディー・ジョーンズ』をパロった部分もあるのかも。演出は良くも悪くも程良く緩く、今観るとどうしてもかったるさを覚えてしまうのだ。

 

作品評価★★

(バブル上昇期の真っ只中に公開されたので日本でもソコソコヒットしたのかもしれないけど、インチキめいたアフリカ小国描写は今だったら炎上物かもしれない。ただ本作の主要キャストトリオは余程気が合ったらしく、翌々年の『ローズ家の戦争』で再々集合する事になった)

 

映画四方山話その631~後ろを振り向いたら田中邦衛

 

 1987年8月。友人に誘われて野外ライブ『本牧ジャズフェスティバル』というのに行った。会場は市民公園みたいな場所に囲いをし、観客は芝生に腰を下ろしながら見る…というスタイル。

 レゲエバンド『ミュート・ビート』ファンクバンド『JAGATARA』の出演の後、冠にあるジャズバンドやセッションの演奏になった。ふと背後に人の気配がし振り向いてみたら田中邦衛が俺たちみたいに芝生に腰を下ろし所在なさそうにステージを見ていたのだ。上はTシャツ、下は米兵が履いている迷彩服ズボン姿でそんなカジュアルな服装をしている所を見ると、自宅はここから直ぐの近所にありライブ関係者に招待されてふと寄ってみた…という感じであった。

 以前俺は映画館で松田優作を見た事があり、その常人離れしたとんでもないオーラに圧倒れたが、田中邦衛の場合は意外な程その佇まいは自然体で、ちょっと拍子抜けした思いがした。あまりジロジロ見るのも失礼だと思って振り返らない様にしていたら、主催者の一人に名を重ねていた元ジャズ評論家で当時はよろず評論家的立ち位置だった平岡正明(全盛期の『若松プロ』シンパとしても有名)が慌てた感じで近づいてきて、田中邦衛にペコぺコしながら何やら話かけていたが、田中邦衛の対応は言葉少なく素気なさそうであった。プライベートで観に来たのにそんな特別扱いするなよ…という気持ちだったのかもしれない。

 平岡正明が立ち去って10分ばかし。ちょっとだけ…という感じでまた振り向いてみたら田中邦衛の姿はもうなかった。つまらないと感じ家に帰ってしまったのか? その去り方も至極自然な感じで所謂「スター」のそれとは全然違う物だった。

 

 そんな感じで俺が遭遇した頃の田中邦衛はTVドラマ『北の国から』が当たって広く世間に認知され始めた頃だった。尤も俺は『北の国から』というドラマに全く興味がなく、今までちゃんと観た事は一度もない。『若大将』シリーズや東映実録路線の田中邦衛こそ最高!と長年言い続けてきた口なのだが、彼の出世作の一つ、TVドラマ『若者たち』シリーズ(66年。後に映画化もされた)の主人公たる五人兄弟の、何かと弟たちの世話を焼きたがる長兄役が、正に『北の国から』で演じたキャラの雛形かなって感じはする。TVドラマでは初の単独主演作となった日本テレビ制作『泣かせるあいつ』(76)以来、TVでは悪役というか胡散臭い役というか、そういう役柄を演じる事はなくなったみたいだ。

 元々は作家・安部公房率いる前衛演劇劇団に籍を置いた事もある新劇畑育ちで、演技以外の仕事で人前に出る事は特別な場合を除いて殆ど無く、あのジャズフェスの時みたいにごく自然に映画やTVの仕事から退場した去り際も潔い。とにかく今の役者は番宣だか何だか知らぬがやたらバラエティ番組に出過ぎる。シリアスな作品に出演している役者がバラエティ番組でおちゃらけやってどうすんのさ…と常々俺は思っているのだが。

 とにかく田中邦衛は徹頭徹尾「役者」として生涯を全うした…という事だろう。