沖縄県の辺野古。米軍基地建設工事の海の埋め立て用土砂の中に赤土が混ざっているという疑惑を調査すべく東京新聞社会部記者・望月衣塑子は当地に飛ぶ。2013年沖縄防衛局は自然破壊に多大な影響を与える赤土の割合を10%以内に抑えるという約束をしたはずだが、当地で見る限りそれ以上の赤土が使用されているとしか思えない。望月は地元民に取材をした上で責任者への追及を繰り返すが、相手はのらりくらりかわすだけで要領は全く得ない…。

 

 19年に公開された『新聞記者』。最近の日本映画には珍しい「社会派」というジャンルの作品だったが(未見だけど録画して絶賛視聴待機中)、その『新聞記者』プロデューサーの河村光庸の企画で、ヒロインのモデルになった東京新聞社会部記者・望月衣塑子に密着取材して完成させたドキュメンタリー。フリーのジャーナリストでありながら『A』(97)『A2』(01)『FAKE』(16)といった問題作を発表しドキュメンタリー監督として活躍する森達也が監督。撮影中の時期にマスコミで話題になった、『森友学園』理事長の籠池夫妻、元TBS記者に準性的暴行を受けたと告発した佐藤詩織、元文部省科学官僚・前川喜平などが望月記者の被取材者として登場。

 

 精力的に取材活動で歩き回る望月記者。しかし官房長官の記者クラブ用会見で辺野古問題に触れると菅官房長官(当時)は露骨に厭な顔で質問をはぐらかし続けてマトモに答えようともしない。その内に会見の進行を務める内閣広報官が望月記者の発言を遮る様な言動を繰り返し始める。事前に質問内容を提出しなければならない記者クラブ、許可された人以外は傍聴すら自由に出来ない裁判所のシステムに納得できない森監督は敢えて隠し撮りを目論むがそれを知った望月記者は激怒…。望月記者の発言に対する干渉は一時なりを潜めたがまた激しくなる。そんな望月記者に向けて東京新聞に殺人予告電話が頻繁にかかってきて…。

 

 本作の望月記者への印象は一言で言えば「軽い」。それは否定的な意味ではなくフットワークの良さを表現する誉め言葉。ともかく森喜朗センセイが最も忌み嫌うタイプの女性である事は相違ない。本作はそういう望月記者の精力的な記者活動を追いつつ微妙に作品軸がずれていく。タイトルにある「私=森達也」の立場は望月記者とはまた別。フリージャーナリストである森には政府関係の記者会見の現場に入る事は不可能。政府側から許された範疇で新聞社という大組織の一員がいくら政府の姿勢を追求しても果たして効果あるのか…。この国のシステムに対する私感が、安倍晋三首相(当時)の街頭演説のラストシーンに滲み出ていた気が。

 

作品評価★★★★

(公開から遅れて観た訳であるが、とても誠実とは思えない態度を取っていた官房長官が現在首相になっていたり、その首相が内閣広報官に任命していた人がつい最近過剰接待を受けた責任で辞職したりと、今観ると封切時期よりも更に憂鬱な気分に駆られてしまいそうだ)

 

映画四方山話その618~日本アカデミー賞

 『新聞記者』が日本アカデミー賞の2019年度最優秀作品賞を獲ったと聞いた時はちょっとビックリした。何故なら日本アカデミー賞最優秀作品に輝く作品は世間で言う「良心作」や、鳴り物入りで公開され大ヒットした作品が多かった気がしたので。改めて調べてみるとやはりその類いの作品ばかりがゲットしており、この手の政府批判みたいなテーマの作品はこれまで全く受賞していない。意外な所ではでは当初は単館作品だった『桐島、部活やめるってよ』(12年)や初期にどマニアック作品『ツィゴイネルワイゼン』(80年)が受賞したぐらいだろうか。

 酷いのは96年。如何に『Shall we ダンス?』が傑作だからといって殆どの部門で受賞…なんて、まるでこの年日本映画の目ぼしい作品が他になかった様に誤解されてしまう。こんなんだったら初めからベストワン作品だけを選べばいいんでないかい?とさえ思ってしまった。

 更に某作品が最優秀作品賞に選ばれた時は、当日関係者パーティ―の二次会会場まで予約済みだったとか。二次会は「祝勝会」って意味だろうから、つまり発表前に既に情報がダダ漏れだった事になる。

 俺みたいな古参映画マニアには胡散臭い事甚だしい日本アカデミー賞。映画製作に最低三年は従事している人が日本アカデミー賞会員になれ投票資格があるという規約があるらしいが、一口に「映画製作」といっても抽象的過ぎてその範疇がはっきりしない。ちなみに俺の友人にプロのフィルム編集マンがいて、彼も日本アカデミー賞会員だったが仕事で多忙の為映画館には全く行っていなかったし投票もしていなかった(会員はロハで映画館に入れる)。一回お前が観ないなら代わりに使ってやるから会員証を貸せと言ってみたが貸してばくれなかった(当然の話だが)。

 五社英雄などは自分の監督作品がノミネートされていた場合は裏で手を回し誰が自分の作品に投票したか、或いはしなかったか細かくチェックしていたらしい。色々と問題ある人だったので(笑)、後で彼にどやされるのが嫌で渋々投票した人もいたんだろうな。

 と、投票結果が公表される『キネマ旬報ベストテン』とは大違いに不透明部分が多過ぎる日本アカデミー賞。毎年日本テレビで中継されるのだが俺が観たのは78年度だけ、理由は何故にしてか主演女優ノミネート者に「SMの女王」こと谷ナオミの名があったので、絶対当日会場に現れないだろうと思いつつ確認したくて観てみたら、やはり欠席でした。多分彼女にしたら「有難迷惑」なノミネートだったと思う。まあ今年もやるんだろうけど勝手にやってくれ。俺は知らん。