長島道行(石田純一)は35歳独身。昼は歯科医、夜はサックスプレイヤーとしてジャズクラブで演奏する毎日で自他とも認めるプレイボーイ。恋人の真理との仲にマンネリを感じていた道行は妹で歯科病院の看護士でもあるルリ子と共謀し、長島家は怪しげな新興宗教にハマっていると偽って真理と別れる事に成功。自由の身になった道行は気晴らしに行ったディスコで昼は画廊に勤め夜はクラブホステスの由加と知り合い、虫歯の治療で病院に来るように勧める…。

 

「流行監督」宣言をした森田芳光と、当時トレンディドラマで大人気になっていた石田純一の顔合わせによる作品。独身生活を愉しむ主人公の24時間モテ放しの生活を描いたラブストーリー。主人公に纏わる五人の美女が登場。中でも注目は本作が映画デビューとなった鈴木京香だろう。それ以前はモデルとして活躍しその時代に撮影された水着グラビアが、彼女が有名になってからお宝写真として「流出」していたのを記憶しています。主人公の妹役の鈴木保奈美は石田と同じくトレンディドラマでブレイクした口だが、まさか森田監督とも縁がある石橋貴明と結婚する事になるとは想像だにしてなかった。他に財前直美、武田久美子らの出演。

 

 約束通り歯科医院に現れた由加を早速治療がてら口説く道行。由加との逢瀬の機会は直ぐに訪れた。偶然を装って由加が通うゴルフ練習場に行った道行はそこで由加、彼女の友人で婦警の百合、道行の大学の同級生で同じ歯科医の神山と会い、どさくさに紛れて由加をタクシーで送りがてら由加とベッドを共にする。その一方で百合とも再会しいい仲に。そんな二人の女が歯の治療で鉢合わせになってしまってさあ大変…。二人の女の板挟みになった道行には丁度いい具合いに岩手県一関市からライブコンサートの誘いが。その地で道行は都会に憧れる恵子(鈴木京香)と知り合い、恵子は帰る道行と共に上京して東京で暮らし始めたが…。

 

 主人公のプレイボーイぶりが凄いを通り越して呆れる。狙いを定めた女を口説くと女は魔法でもかけられた様に主人公に夢中になるのだが、主人公は深い関係になると直ぐに飽きてしまって…の繰り返し。結局飽きない女は恋愛に陥る可能性がない妹のみという、絵に描いた様なバブル時代ならではの男目線の遊戯的関係が描かれていくのだが、演出はそういう生活がいいとか悪いとかという視点を完全に放棄、結局主人公の生き方考え方は映画冒頭から最後まで変わりがないまま。ここまで非劇的な作品も珍しいが、だからといって羨ましいとは微塵も思わなかったのは非モテ男の僻みなんでしょうかね。思い入れしようのない作品だ。

 

作品評価★

(どういう層に向けて製作したの皆目不明な珍作。石田純一もこんなこぞばゆい役柄を演じてどうも思わなかったのか? もしこれが石田の実像と近いとしたら、石田は時代が令和になってもまだ平成気分でバブル期のプレイボーイ気取りで生きているという事になるのだが)

 

映画四方山話その611~流行監督宣言その後

家族ゲーム : 作品情報 - 映画.com

 森田芳光が流行監督宣言したのはいつの事だったか正確には覚えていないけど、多分角川映画で薬師丸ひろ子主演の『メイン・テーマ』(84)を撮った頃かな…と推測する。『家族ゲーム』(83)が批評筋から高く評価されたが、その後の森田芳光は高い作品評価を得るよりも話題性を優先して企画を選んでいた感がある。そういう仕事を多くこなす為にも自身が時流に乗った監督だと自ら主張する必要があった…という事だろう。

 作品的評価で言えば『ときめきに死す』(84)『それから』(85)は所謂映画マニアも満足する作品だったと思うが『そろばんずく』(86)は時の旬なタレントだった『とんねるず』の指名で受けた作品であり、正に名前がある監督ならではで成立した企画だったと言えるだろう。ところが雑然としてつかみどころがなかったこの作品は批評的にも興行的にも✖だった。そういう結果に終わった事が、ある種意固地になったみたいな形で森田芳光の作品の方向性を決定付けた印象がある。

 今回の作品もそうだが『おいしい結婚』(91)も主役を演じる人物のオフィシャルなイメージに沿ったストーリー作りがされており、やはり安直さは否めない。その一方で森田が自信作と思った『キッチン』(89)や『(ハル)』(96)が興行的にはサッパリだった事で、映画監督としては手詰まりになった感もある。

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 そんな森田芳光の起死回生となったのが『失楽園』(97)の大ヒットだろう。本人にとってz新作と言えるレベルだったかどうかはわからないけど、これをきっかけに監督のオファーも増えて「流行監督」の面目も復活し、その後は旬の人気俳優を起用しての大型企画を撮る機会が多くなっていった。

 ただ俺の思いとしては『それから』以降も松田優作とのコラボレーション作を観たかったし、劇場映画デビュした頃みたいな斬新な作風を今一度見てみたかった…との思いが強く残ってしまったのは事実。近作では『武士の家計簿』(11)みたいな意表を突いた作品もある事はあるのだが。『阿修羅のごとく』(03)や『椿三十郎』(07)みたいなリメイク作品は別に森田芳光がやらなくても…という気持ちが強かったな…。