人気歌手の和泉須磨子が郷里の鬼首村に帰郷する途中で惨殺される。その時須磨子が持参していたトランジスタラジオから彼女の新曲で鬼首村に古くから伝わる『悪魔の手毬唄』が流れていた。捜査本部が設置されたと同時に鬼首村にある湯治場旅館にオープンカーで颯爽と乗り付けた金田一耕助(高倉健)。須磨子の実家・仁礼家には当主・剛造夫婦と長男の源一郎、神戸の大学に在学中の次女・里子(志村妙子)が。剛造は手毬唄を聴くと何故か怯えだす…。

 

 市川崑の金田一耕助シリーズで有名な横溝正史映画化作品だが、それ以前にも金田一耕助物は映画化されていて、本ブログで紹介済みの片岡千恵蔵主演の『三本指の男』(47)を始めとした東映の金田一耕助シリーズ、同じく東映が製作した本作などがある。本作は正確には東映が更なる映画興行の拡大を狙い設立した「第二東映」の製作。メインの東映作品より低予算で撮影日数も当然少ない。そういう事情から監督に指名されたのが早撮りの名人・渡辺邦男。若手新進スターだった高倉健が主演、当時東映と専属契約を交わしていた美空ひばりの実弟・小野透、志村妙子名で東映と専属契約していた若き日の太地喜和子などの共演。

 

 金田一は里子が心配で鬼首村にやって来た里子の学友・和雄(小野透)と知り合い、和雄は金田一の助手役を務める。仁礼家には脅迫状めいた手紙が郵送されてきており、今回の事件が関係あるのではと誰もが推測したが剛造は頑強に否定。泥酔した源一郎はそんな父を詰り自部屋に引きこもるが、数時間後その部屋から銃声が。家族が部屋に入ると源一郎が猟銃を咥えて死んでいた。警察の検分では自殺に見えたが現場を見た金田一は直ぐ他殺と見抜き磯川警部にそう書いたメモを渡す。仁礼家の子供たちが二人死に次に狙われるのは里子…。金田一も和雄と里子を同乗させた自家用車が犯人の策略で命の危険に晒され…。

 

 石坂浩二演じる金田一とは真逆なイケメン金田一に扮する高倉健。私立探偵という肩書の他に警視庁の嘱託という肩書もあり、本物の刑事なんかよりも格別に偉そうに見えてしまうのだが…。古くから伝わる手毬唄がそのままま犯人に殺人予告となっており、果たして真犯人は…という謎解きの部分の興味よりも、若き日の健さんの佇まいに注目してしまうのは俺だけではないだろう。健さんの推理力に関しては可もなく不可もなくというレベルでしかなかったけど、メガネをかけた才女風助手も登場してくる事から推するに、本作がヒットすればシリーズ化も予定されていたのでは? 後年の芸風とは全く違う純情可憐な太地喜和子も良かったな。

 

作品評価★★★

(ひばり弟の出演は意味なしだし大した事もない作品である事は確かだが、東映が飛ぶ鳥を落とすだった頃の勢いみたいなのは感じる。若き日の健さんの親友だった山本麟一が里子の許嫁気取りの嫌味な男、後年は悪役専門になっていった神田隆が本作では磯川警部役)

 

映画四方山話その610~『悪魔の手毬唄』77年版

今回観た『悪魔の手毬唄』は原作とは似て非なる物に脚色してある。原作通り映画化すると登場人物も多いし低予算ではとても不可能という判断が会社側から出された故の大胆脚色であろう。だから原作にあった因果物めいたおどろおどろしさは薄れごく普通の復讐ストーリーになってしまったので、横溝ファンには評判悪かったんだろうなきっと。

 で、俺が三回も劇場で観てしまった市川崑版『悪魔の手毬唄』の方は相関図的人間関係は原作をほぼ躊躇している。東映版では直ぐ死んでしまった人気歌手(仁科明子)の帰郷を巡り、その親友でもある二人の娘が手毬唄の歌詞そのまんまな装いで殺され、件の人気歌手もまた殺しの標的にされかかり、金田一が旧知の磯川警部(若山富三郎)と共に捜査に当るのだ。

 俺は市川崑マニアが絶賛する『犬神家の一族』(76)が世評程いい作品だと思っていない。市川版横溝映画第二作である『悪魔の手毬唄』も手放しで褒める作品ではないとは思うが、演出的には全編躁状態ではしゃぎぱなしな『犬神家~』よりもずっといいと思った。

『犬神家~』はズバリ「金と欲」がテーマだったが、『悪魔の~』では絶対に世間に知られてはいけない事実の隠匿がテーマになっており、犯人の感情には欲得はない。『犬神家~』の犯人の目論見は結局のところ適えられる事になるのだが、金田一も警察もその事に対して憤りの感情を全く持っていないのが不可思議だ。それに比べ『悪魔の~』の犯人は人殺しの代償として最も愛している身内を失う運命に立たされる。

 

 加えて『悪魔の~』の裏テーマは磯川警部の犯人への秘められた思いだった(ラストシーンでそれが暗示されるのは良く知られた話だが)。若山富三郎は『悪魔~』に出演するまでは東映や『子連れ狼』シリーズで活躍する血生臭い役者だったのに、この作品以降はそれとは真逆な役柄も多く演じる様になった。だから彼にとっても『悪魔~』は忘れ難い作品だったはず。

 

 そしてもう一人忘れてならないのは悲運な娘を演じた永島瑛子。日活の一般映画でデビューしたものの日活がロマンポルノ路線が故に活躍の場がなかなか与えられなかった彼女が『悪魔~』を経てロマンポルノ作品『女教師』の体当たり演技で評価された事は嬉しかったけど、代表作『竜二』まではそれからまだ六年の月日を要す事になったのはちょっと残念な気もする。最近は見かけないけどもう引退したのかな?