1996年。トレジャー・ハンターチームが1912年にタイタニック号と共に大西洋に沈んだと言われる最高峰のダイヤモンド『碧洋のハート』の在り処を探る為に海底のタイタニック号の船内を探索していた時、一等船室にあった金庫を見つける。その中には碧洋のハートを首にかけた若い女性の裸体画が。それを報じたテレビを観たという老齢の女性からチームに連絡が。招きに応じた今年101歳になるその女性は画のモデルだと言い、その時体験した出来事を語り始める…。

 

 ローリング・ストーンズが初来日して東京ドームでライブを行った時、それまでストーンズの事など一切口にした事がなかった知人がドームコンサートに行った事を得意満面に語りだすのにビックリした事があったけど(俺は行かなかった)、本作が上映された時もおよそロマンチックとはかけ離れた日常を送っていた知人まで本作を観に行ったと聞いて驚いた。ま、公開当時全世界での歴代興収の新記録をブチ立てた本作はそれだけ一種の社会現象になっていた訳だ。でも俺はやっぱり観る事はなくて公開から約四半世紀経って漸く観る機会を得た…という塩梅。本作の主演でレオナルド・ディカプリオは一躍イケメン俳優の代表みたいになった。

 

 1912年4月10日英国のサウサンプトン港からNYに向けて処女航海へと出た豪華客船タイタニック。一等船室に乗り込んだローズ(ケイト・ウィンスウット)は米国で同乗したホックリー(ビリー・ゲイン)と挙式を挙げる予定だが、彼の財産目当ての政略結婚である事に絶望、発作的に海中へと飛び降り自殺しようとするが、それを止めたのがジャック(レオナルド・ディカプリオ)だった。彼はヨーロッパを放浪し本国に帰る予定で、乗船チケットも出向直前賭けポーカーで手に入れた程の貧乏青年。身分の違いを超え二人は急接近していくが、当然ホックリーは快く思っておらずジャックを奸計に陥れる。そんな時タイタニック号は巨大氷山と衝突して…。

 

 前半は周囲の妨害をもろともせず結ばれようとせんジャックとローズの一途な姿を描いた純ラブストーリーで、後半は一転して昔で言う所の「パニック映画」的なテイストで何とか生き延びようとする二人と共に巨大客船の沈没というカタストロフィーをスペクタル的に描く。つまり一本の作品でラブストーリーとパニック物のダイナミズムを味わえるというお得版で長尺である事は殆ど気にならない。飽食の生活より純粋な愛を選択するヒロインの聡明さが前半で印象付けられ、後半はCGで全編済ませられる所をわざわざセットやミニチュアを織り交ぜてアナログ感を醸し出し、俺みたいな昭和世代でもそんなに違和感なく観れる。そんなベターな作品。

 

作品評価★★★★

(マイナー映画偏向の気があると自覚してる俺でも、本作なら大ヒットして当然だとウエルメイドな演出に感心させられた。それだけキャッチ―で一般層が取っつき易い作品。タレントの磯野貴理子はローズがジャックの死体を海中に沈めるのは薄情過ぎると厳しく批判してたが)

 

映画四方山話その607~蟹江敬三はハンサムだった?

 中野翠がコラムニストとして名を上げるまでの軌跡を年代順に記述した新刊エッセー本『コラムニストになりたかった』(新潮社)の1980年の出来事に、『主婦の友』の依頼で好きな俳優へのインタビュー記事を書いた…という記載がある。元来映画好きな中野にとっては楽しい仕事で50~70年代で数々の映画に脇役出演してきた浜村淳にインタビューした…など印象に残った思い出を書き綴っているのだが、注目したいのは「蟹江敬三は郷ひろみ系のハンサムだった」という記述。エッ、あの蟹江敬三がハンサムだなんて、故人になった本人には悪いけど俺は一度も思った事はないぞ。最初見た時顔が平家蟹に似ているから「蟹江」なんて芸名にしたのかと思った程。

  まあ映像で見るのと実際に見るのとは違うという考え方もあるだろうが、俺は一度TVドラマのロケ現場で出番待ちしている蟹江敬三を目撃した事がある。でもその時の印象は映画で見る蟹江敬三と寸分も違わなかった。中野翠と俺とではハンサムの概念が違うのかな?

 ちなみに中野翠は20代の頃蟹江敬三と兄弟分的関係だった石橋蓮司と飲み友達の飲み友達ぐらいの関係で、新宿ゴールデン街の店で酔客に絡まれた石橋が「表に出ろ」と言い路上で相手をKOしたのを目撃した事があるとも書いていた。石橋蓮司と言えば映画の悪役では最後は酷い目に遭ってボコボコにされる、喧嘩が弱い印象があったけど実際は武闘派タイプだったんだな。まあかつては蟹江と組んで蜷川幸雄演出の左翼シンパな芝居をやってた口だから、それ相当の修羅場は経験してたはずではある。

 中野翠の文章に戻るけど、確かに脇役がマスコミ的に注目を集める様になったのは80年代に入ってからだと思う。そのきっかけの一つになったのが脇役がスポットライトを浴びてコントや歌などを披露する、タモリがMCをやっていた深夜テレビ番組『今夜は最高!』で、これに出演したのをきっかけにバラエティタレント的な仕事に進出していった俳優も何人かいた。

『今夜は最高!』のゲストで出た経験のある峰岸徹がかの「岡田有希子自殺事件」の原因を作った当事者とされて記者会見を行った所、某女性レポーターが峰岸を間近で見て「カッコいい…」と見惚れてしまったという。その女性レポーターは峰岸を普通の脇役俳優と思っていたのだろうが、彼は最初東宝で映画デビューした時「赤木圭一郎の再来」と謳われ、大映に移って主演映画を撮った経験のある元スターなのであった。 もっと早くに不況に陥った大映に見切りをつけてTVドラマに専念していればTVでもスターになれたと思う。

 大林宣彦によると『瞳の中の訪問者』(77)に主演した片平なぎさはまだ初主演でかつ若干18歳だった事もあり、いつの間にか相手役の峰岸の事を本気で好きになってしまったそう。蟹江とは違い?峰岸のハンサムオーラはそれだけ凄かったという訳だ。そうなるとアイドル歌手が峰岸本人の預かり知らぬところで一方的に好きになってもおかしくないとは言えるけど…。

 ちなみに俺にはハンサムオーラは皆無だ。高校生の時クラスメートの女子が密かに男子生徒のルックスを採点しているのを盗み見した事があったけど、俺の顔は5点満点で「0」だった。スタイルは3評価だったが…。