舞台はインドネシア・スマトラ島のバンダアチェ。貴子(鶴田真由)は04年のスマトラ島を襲った大地震の時政府非公認のNGOの一員としてやって来てここに住み着きインドネシア人と結婚、息子のタカシ(太賀)が生まれた。貴子の姪・サチコが日本から来る予定だった日、海辺で日本人と思われる男(ディーン・フジオカ)が発見。彼は記憶喪失に罹っているらしく身元を調査すべく貴子はタカシと共に行動、サチコの迎えはタカシの大学での友人クリスに頼む事に…。
前回に続き深田晃司監督作品を鑑賞。7年の月日をかけて完成させたオリジナル脚本の映画化で全編インドネシアロケを敢行。正体不明の男を巡る不可思議なエピソードと、彼を預かる事になった親子の息子とその従姉妹、息子の友人たちの関わり合いを描く。主役に抜擢されたディーン・フジオカはれっきとした純日本人だがまず台湾で人気が出て日本に逆輸入みたいな形でスターになった変わり種。共演の鶴田真由は『ほとりの朔子』(14)以来となる深田作品の出演、『ほとりの朔子』にも出演していた太賀(現・仲野太賀)はこの時期は深田作品のレギュラー俳優的立ち位置にあった。日本、フランス、インドネシア三国による合作映画。
貴子が日本語で話しかけると男は反応。日本人である事は間違いない様だ。男の身柄を預かっている施設の職員から頼まれ貴子は彼女の家で男の面倒を見る事に。取り敢えず男には「ラウ」という仮の名前を付けた。近所のコテージで彼と似た宿泊客がいないか当ってみたが該当者はいなかった。サチコはクリス、クリスの友人で貴子の仕事を手伝っているイルマと共に貴子宅へやって来た。サチコは父が亡くなる時「遺骨は以前行った事のあるインドネシアに撒いて欲しい」と言われ、父が遺した写真を頼りにこの地を訪れたのだ。ラウの身元は相変わらず分からなかったが、貴子とイルマはラウが不思議な能力を持っている事に気付き…。
海外での評価からしてこういうインターナショナルな作品を深田監督が手掛けるのは必然ではあると思うのだが…。人々に癒しを与える様に見えながら一部の地元民からは人殺し扱いもされる主人公の立ち位置というのが確信犯的に微妙。人々に幸せも不幸も与える自然地異の象徴的存在という事なのかしらん。そういう難解さとは別に本作に登場する四人の若者の描き方は秀逸だと思う。四人は各々全く違った出自を持っており、その四人間の誤解が解けて理会し合ったと思しきラストの空撮カットは美しく、日本語喋れないクリスがタカシに教えられた日本語を間違ってサチコに言ってしまう下りは微笑ましい。アジア人同士仲良くしようね。
作品評価★★★
(本作と次作『よこがお』を比較すると深田監督自身は現在この作品をどう自己評価しているのか問うてみたい気もするのだが、出演俳優を含め作品への関わり方に誠実さが感じられるのがイイ。こういう美しい海を見ると沖縄の米軍基地移転で汚染されてしまう海を連想する)
映画四方山話その605~ジョー・ぺジにはなりたくない
『パニック・ルーム』(02)という作品で主人公母娘の家に忍び込んだ強盗一味の一人(フォレスト・ウィッテカー)が、キレ易そうな一味の新入りに「お前はジョー・ぺジか」とたしなめるシーンがあった。個人名、それも主役級でない役者の名前が台詞に出てくる事は珍しいのだが、それだけジョー・ぺジのキレ演技は会話に出てもおかしくない程インパクトあったって事だろう。
改めて『グッドフェローズ』(90)のジョー・ぺジのキレ演技を検証してみると確かに規格外のキレぶりだ。彼が扮するミッキーはイタリアンマフィアの中間管理職立場の人間で、日本流に表現すれば武闘派やくざ。荒っぽい仕事が得意で人殺しを屁とも思わず、組織が大きくなっていく過程では重宝がられるがもう大きくなってしまえば厄介者になってしまうのは必然。仲間内からもあいつはキレたら何をするか分からないので何とかしてくれとボスに訴えられている始末。
そんなミッキーが彼がチンピラだった時代を知る他組織の大物からからかわれた事を根に持ち、人払いした酒場でその男を嬲り殺しにしてしまう。人払いしたと言ってもその寸前まで男と呑んでいた連中に聞けば殺したのはミッキーだろうと想像はつくはず。しかしミッキーにはそういう警戒心は皆無でその後も短絡的に人を殺し続け(殺された人間の中にはまだ無名だったサミュエル・L・ジャクソンもいる)、そんなヤバい人間を組織が幹部に抜擢されるはずもなかろうに、罠だと疑う事もなく幹部昇進と聞いて狂喜して出向いた末あっさりと殺されてしまうのだ。
まあ映画の登場人物のキャラクターとしては面白いけど、こういう人間に憧れるとかなりたいとか思う人は普通はいないだろう。ところが昔たまたま観ていたTV番組で「これまで観た映画で最もカッコいいと思う登場人物は?」と聞かれた某映画ライターが『グッドフェローズ』のジョー・ぺジと答えた時は呆れる前に、どう考えても受け狙いとししか思えない発言に些かゲンナリさせられた。そんな破滅的人間に本心から憧れるなら、こんな番組に出てる様な人生送っているはずないのだから。
と、TVに突っ込み入れながら観ていたら同じ質問をされた園子温監督が「映画の中のカッコいい人物と言えば当然『駅馬車』のジョン・ウェインと『カサブランカ』のハンフリー・ボガートだろう!」と、これまたらしからぬ真っ当な事を言ってそれでバランス取れた感じ。そうか、この二人は事前に言う事を打ち合わせていたんだな…と気が付いて俺も納得したのでした。
尚ジョー・ぺジは『グッドフェローズ』と同じ年子供に翻弄される情けない役で某作品にも出演している。あんな可愛げ皆無のクソガキなんてキレ易いジョー・ぺジにブチ殺されてしまえばいいのに…と過激な事思ってしまったのは俺だけでしょうか。