市子(筒井真理子)は訪問看護師。担当患者の一人に末期がん患者で認知症の大石塔子がおり、大石家に通う内に塔子の孫で市子と同じ訪問看護師を目指している基子(市川実日子)、妹の高校生サキとも仲良くなる。或る日喫茶店で基子の勉強を見てやっている所にサキ、市子の弟で大学生の辰夫が現れた。その数日後市子は婚約者で男やもめの訪問医師・戸坂と大石家を訪ねてサキが行方不明になっている事を知る。一週間後サキは無事保護されたが…。

 

 日本のみならず世界的評価も高いと言われる深田晃司監督。本作も調べてみると普通の日本映画ではなく日本とフランスの合作である。まあこの手の地味なマイナー系作品には全額資金を出してくれるところが日本にはない台所事情もあるのかもしれないが。取り敢えず日本側の製作担当は角川大映スタジオ。ささやかながらも充実した日々を過していたはずの中年女性が突然訪れた災いに苦しめられ…。同じ深田作品『淵に立つ』(16)の出演で注目を浴びた筒井真理子が主演を務め、「市川姉妹」の妹。市川実日子、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17」などの池松壮亮、吹越満らの出演。文化庁から助成金をもらっての製作。

 

 TVでサキ保護のニュースを見た市子は衝撃を受ける。サキを一週間監禁して逮捕されたのは北海道旅行中のはずの辰夫だった。市子は辰夫の母である妹の家を訪ねるが報道陣がいて近づけず。基子には打ち明け大石家の介護を辞しようとするが基子に引き留められた。辰夫やサキに対する報道は過熱化し市子の携帯にまで記者からの電話がかかってきたりする。あらぬ憶測記事が雑誌に出て市子は基子姉妹の母・洋子から二度と家にこないでと言われ、市子には返す言葉はなく、戸坂からもなんで早く打ち明けてくれなかったのかと詰られる。四面楚歌状態になり引っ越しせざるを得なくなった市子に基子が救いの手をのべようとする…。

 

 冒頭偽名を名乗ったヒロインが美容院にて若い美容師(池松)にモーションをかける。本筋とは無関係に思えたこのシーンが実は…という時間軸をずらした語り口が興味深い。拉致監禁事件加害者の叔母というだけでバッシングを受けるヒロインは一見すると哀れな被害者に思えるが、実は単純にそうと言い切れない人間関係が露わになってくる。かなり年上なので人生の先輩的目線で見ていたと思われた基子が実はバイセクシャルである事が露わになり、ヒロインが結婚すると聞いてその感情が憎しみに変わり、彼女のせいでどん底に叩き落とされたヒロインがもう若くない肉体を餌に、それに対し復讐を試みるという、「女は怖い」って結論か。

 

作品評価★★★

(社会派風ドラマかと思いきや、実は女の嫉妬や復讐心が真のテーマになっている所が脱日本映画的というか、外国監督で言えばペドロ・アルモドバル的趣のある小品。筒井真理子&市川実日子が二面性ある女を好演。還暦近い年齢で全裸も辞さない筒井真理子は偉い!)

 

映画四方山話その604~市川姉妹

 

 筒井真理子の体当たり的な熱演も凄いが、市川実日子の見た目の変わらなさも驚異的だ。本作で市川実日子は二十代前半ぐらいの役柄。実年齢はこの時40代に達していたはずだから本人もちょっとは照れ臭かったのかもしれないけど。

 市川実日子を最初に観たのは女流棋士姉妹の葛藤を描いた『とらばいゆ』(01)だったが、その時と容姿は今も左程変わってはいない。その後頻繁に映画で観る様になって映画好きの知り合いの女性に「最近市川姓の若手女優が二人いて…」なんて話をしたら「それ市川実和子と実日子でしょ? 二人は姉妹なのよ」と訂正されてしまった。女性界隈では姉妹モデルとして有名だったみたいである。

 姉の市川実和子を最初に観たのは『リリイ・シュシュのすべて』(01)。唯一の主演作『コンセント』(03)では大胆なベッドシーンを披露して驚かせたが、『イン・ザ・プール』(05)のコメディ演技が強く印象に残っているせいでコメディ系女優の印象が俺にはある。カリスマファッションモデルとしての実績は良く知らないが、容姿も所謂普通の「美女」という感じではないし、本人も普通のスター女優になりたくて女優転向した訳でもないだろう。

 片や市川実日子は今回もそうだけど一見何を考えているか分からないが、それでも自我だけは強そうな女の子役が多かった。バイセクシャルといえばやはり唯一の主演作『blue』(03)も女同士の危うい関係を描いた作品だったのを思いだす。池松壮亮とは石井裕也監督作『僕たちの家族』(14)『映画 夜空は再高密度の青色だ』で共演済みで『映画 夜空は…』では池松の恋人(石橋静河)の母親役…って演じる年齢幅が広いなあ(笑)。

 近作では『シン・ゴジラ』(16)での、ゴジラに立ち向かう環境庁役人の凛々しい感じがいかにも堅物って雰囲気があり、登場人物がやたら多かった作品内でも個性を発揮していた。

 そんな風にゼロ年代の日本映画界でデビューし個性を発揮してきた市川姉妹だが、姉妹共演作は俺の記憶ではまだないと思う…というか、市川実和子の方は最近女優活動はやってないみたいだが。