81『台風クラブ』(84年 監督・相米慎二 主演・三上祐一)

 地方都市の中学校に台風が来襲。嵐の中を学校サボって東京に向かう女子学生(工藤夕貴)、ダメ教師(三浦友和)が入り口に施錠して帰ってしまった為に居残った生徒は学校に閉じ込められてしまい、異常事態に接した興奮が乱痴気騒ぎへと発展していく…。少年少女を撮り続けてきた相米慎二の「まとめ」的な作品となった印象。荒ぶる台風に煽られる様に日頃抑えてきた感情を一気に爆発させる生徒たちと中年教師のだらしなさが対比的に描かれ、それを間近に感じたクラス一の優等生が唐突に自死すると衝撃な結末も用意されている。二枚目役者としては失格の烙印を押されていた三浦友和が、この作品で役者開眼した事も忘れ難い。

 

82『ラブホテル』(85年 監督・相米慎二 主演・速水典子)

 その相米が助監督時代の古巣であった日活で石井隆ワールドに挑戦。事業に失敗し自殺しようとした村木(寺田農)が最後有り金はたいて買ったホテトル嬢・名美(速水)に魅了され思い止まる。数年後二人はタクシー運転手とその乗客として再会、村木はOLになっていた名美の為に尽力しようと心を決める…。ロマンポルノであってもワンシーン、ワンカット演出を変えようとしない相米の頑なは相変わらずだが、ここまで石井隆ワールドにフィットするとはいい意味で想定外だった。飛び降り自殺しようとした寺田が下の道路にうずくまる浮浪者を見て「気を付けろよ、風引くな」と思わず声かけるシーンに感動。速水も儚くかつ美しい名美像を好演。

 

83『恋する女たち』(86年 監督・大森一樹 主演・斎藤由貴)

この作品に関しては『映画四方山話その592』で取り上げているのでそちらを参照の事

 

84『Aサインデイズ』(89年 監督・崔洋一 主演・中川安奈)

 沖縄出身女性ロックシンガーをモデルにした作品。十代にしてロックミュージシャンの夫と子供を持つ身になった混血娘のヒロインが、バンドメンバー脱退をきっかけに夫から強く請われシンガーとしてステージに立つ。しかし音楽界の流行に彼女たちのバンドも翻弄されて解散の憂き目に…。ライブシーンの吹き替えを排除する為夫役の石橋凌を始めミュージシャン出身者を多く起用している中、ズブの素人の中川安奈まで生歌を披露するライブ感覚に魅了された。ベトナム戦争真っ只中の60年代から終戦した75年までの、移り変わる激動の沖縄を活写した演出も素晴らしい。ラストで中川(既に故人)が唄う『ターン・ターン・ターン』が心に残る。

 

85『いじめて、ください アリエッタ』(89年 監督・実相寺昭雄 主演・加賀恵子)

 借金返済と子育ての為ホテトル嬢になったヒロイン(加賀)。だが若くもなくさしたる美人でもない彼女はSMプレイ専門となり毎夜男どもに虐げられる…。鬼才・実相寺昭雄が実際起きた事件にインスプレーションを得て製作したアダルトビデオの映画版。しかし通常のAVにある様な劣情ソソるシーンは皆無。M性など皆無な、見るからに幸薄そうな女が歪んだ欲望を持った男どもに虫けらみたいに扱われたあげく殺される。何でもかんでも明るければOKという世相に唾を吐く様に生き地獄を演出する実相寺の、円谷特撮ドラマシリーズで見せた予定調和を拒否する過激さと通じる物が本作にある。以降加賀恵子は実相寺監督のお気に入り女優に。

 

86『どついたるねん』(89年 監督・阪本順治 主演・赤井英和)

 元ボクサーから俳優に転身したばかりの赤井と、これが実質的なデビュー作となった阪本順治のタッグによる作品。引退宣告された元ボクサー(赤井)が周囲の反対を押し切りカムバックし試合に臨むまでを描く。現実とシンクロさせたストーリー展開がイイ。実際に赤井の最後の対戦相手になったボクサーを起用してその試合を再現し、劇中で赤井と対戦するライバル役も元ボクサー(大和武士)。赤井の関西人ならではの奇天烈風キャラも本人そのまんま…って感じがした。勿論ファイトシーンもガチぽい。そして忘れてならないのは赤井の幼馴染兼セコンド役を演じた相楽晴子。B級アイドル止まりかと思われた彼女の生涯最高の演技だった。

 

87『ソナチネ』(93年 監督・北野武 主演・ビートたけし)

 この作品を観た時は東京サミットの真っ最中で風体の怪しい俺は街角で警護中の警官の鋭い視線を浴びながら上映館に到着。上部の組から危険な奴と判断され抗争中の沖縄に飛ばされる暴力団組長(たけし)。袋の鼠状態になった彼だがそれとは裏腹な解放感も味わう…。TVタレントとしてビッグに上り詰めたたけしの心の裡の孤立感、自滅願望が露わになった印象。冒頭から続く凄惨な暴力&殺戮場面と、子分たちとまるで子供みたいに馬鹿な事をして戯れている姿の落差がインパクトあり。ラスト、ピストル自殺するたけしの妙に晴れ晴れとした笑顔は『戦場のメリー・クリスマス』のラストに通じる物が。今後も北野監督作品はあるのか?

 

88『ヌードの夜』(93年 監督・石井隆 主演・竹中直人)

 

 ロマンポルノ最末期に監督デビューした石井隆の三本目の監督作品。何でも屋の村木(竹中)は依頼人の名美(余貴美子)に騙され彼女が殺した男の死体を押し付けられる。しかし名美の事情を知った村木は彼女を守るべく昔の知り合いから拳銃を入手…。ダメ男の村木が身を挺して因縁ある関係になった女を守ろうとする姿には一種のダンディイズムが流れているのだが、らしくない竹中が演じているのが良かった。更に通常なら観客を確実に白けさせる竹中のアドリブ的ボケが、本作ではいい効果になってる事にも注目。突然浮上した感のある余貴美子(氾文雀の従姉妹)の体当たりの熱演、オカマ役で登場する田口トモロヲの助演も最高。

 

89『EUREKA〈ユリイカ〉』(01年 監督・青山真治 主演・役所広司)

 バスジャック事件に運転手として遭遇した男(役所)と乗客だった兄妹(宮崎将&宮崎あおいい)。二年後家族崩壊した兄妹と再会し共同生活を始めていた男は連続通り魔事件が頻発し、その疑いが自分に向けられている事から小さなバスを買って兄妹、その従兄弟とあてどのない旅に出る…。90年代末『HELPLESS』で注目を浴びた青山真治が手掛けた大作。俺が今まで観た作品の中で最も長尺だが退屈しなかったというか、件の事件で受けたトラウマから再生するのを描くにはそれだけの時間の長さが必要だった…という結論。新進監督らしからぬ骨太演出と、まだ中学生ぐらいだった宮崎あおいの存在感はやはり本作でも際立っていた。

 

90『ヴァイブレータ』(03年 監督・廣木隆一 主演・寺島しのぶ)

 アルコール依存症に悩まされるフリーライター(寺島)が顔を出したコンビニで若いトラック運転手(大森南朋)を一目見て好きになり、自分からアプローチして男に抱かれ、そのままトラックの助手席に乗って荷の届け先まで同行する事に…。普通の段取りぽい芝居のない極めて感覚的なロードムーヴィーだが、若手監督ではなくもうオジンもいいトコの廣木隆一、荒井晴彦(脚本)コンビが手掛けている事に驚かされた。旅の途中突然うつ状態になってしまったヒロインを伴いラブホに入る男。初めて露わになる寺島の全裸姿がスケベな意味ではなく?鮮烈な印象を残す。色々あったがまたコンビニに戻ってきて別れるラストのさりげなさも良かった。