71『野獣死すべし』(80年 監督・村川透 主演・松田優作)

 本作の伊達邦彦は原作とは違い元戦場カメラマンで、その時のトラウマに未だ憑かれている設定。松田はこの作品の為10㌔程も減量し、ストイックかつ自己陶酔的な一面もあるキャラクターを演じる。映像も松田の変貌に合わせ随分とスタイリッシュな物になっており、強盗に入った銀行に偶然居合わせた馴染みの女(小林麻美)を正体を明かした上で殺すシーンなど、脳裏に残るシーンが多くて俺は好きなんだが、あまりにもイッちゃってる優作の姿は賛否両論あって当然。村川透監督作品としてではなく松田優作の役者ジャンキーぶりを堪能する為の作品と言えるだろう。興行的には予想を遥かに下回り村川はこれで角川映画を出禁に。

 

72『ガキ帝国』(81年 監督・井筒和幸 主演・島田紳助)

 この作品に関しては『映画四方山話その565』で取り上げているのでそちらを参照の事

 

73『の・ようなもの』(81年 監督・森田芳光 主演・伊藤克信)

  落語家になったもののパッとしない主人公(伊藤)が彼の相手をしたソープ嬢に(秋吉久美子)励まされる形で芸に、女子高生との恋愛にハッスル…。それまで自主映画を撮っていた森田芳光の劇場映画デビュー作。重い物を求めがちだったそれまでの日本映画の青春ものに風穴を開けたというか、決してウエットにならない爽やかさは、確かに明るさのみが求められた80年代を先取りした様な「流行監督」ならではの慧眼があった。その一方で古典落語に対する造詣の深さを感じるマニアックさも見受けられる。栃木弁丸出しの新人・伊藤克信の好演に加え、思えばその後名脇役になる「でんでん」の存在を知ったのも本作がきっかけだった。

 

74『天使のはらわた 赤い淫画』(81年 監督・池田敏春 主演・泉じゅん)

 ついビニ本のモデルをやってしまった名美(泉じゅん)はそれが露見し勤めていたデパートをクビに。そんな彼女に接近してきたのは彼女のビニ本を見て好きになった孤独な若者・村木(阿部雅彦)…。石井隆脚本の名美&村木作品の中でも本作のテンションの高さはピカイチだろう。よるべない者同士の二人は実際に結ばれる事はない。しかしカットバックで同時間に二人が自慰をするシーンで「ひとつ」になった事が暗示される。これもまた「異形の愛」描写であろう。雨のジャングルジム、ゲリラ撮影と思われる新宿駅地下道などロケーションが素晴らしい。阿部雅彦は村木を演じる為、監督から二週間監禁状態にされ誰にも会わずにいたとか。

 

75『闇のカーニバル』(81年 監督・山本政志 主演・太田久美子)

 

 シングルマザーの久美子は離婚した夫に子供を預けた後革ジャンにサングラスのスタイルに豹変、深夜の新宿のワイルドサイドを歩く…。70年代と80年代の境目である80年に撮影された自主映画。まだ新宿では燻っていたアンダーグラウンドなサイドに焦点を当てた、日本映画初のストリート映画と言っていいかも。飲み屋で狂った様に踊り、路上ですれ違いざまに喧嘩をふっかけてボコボコに殴られた末、夜明けに足を引き摺りながら家路に着く久美子の姿が愛おしく映るのは、監督自身が久美子に惚れているからであろう。そんなハードコアな夜を過ごしながらも翌朝、子供を迎えに行く待ち合わせ場所ではちゃんと母親の顔に戻っている。

 

76『闇に抱かれて』(82年 監督・武田一成 主演・風祭ゆき)

  地味ながらもロマンポルノで佳作を撮り続けた武田一成の監督作品。ヒロイン(風祭)は同居している親友が失踪し自殺を目的に三宅島に行ったらしいというので親友の不倫相手と共に三宅島に捜しに行くのだが、必然的に残された二人の関係はただならぬ物に変化していき…。往年のアート系イタリア映画『情事』を換骨奪胎したストーリー。オリジナルをそのまんま再現したシーンもあったが、ヒロインが子供たちと野球をしているファーストシーンを見ても分かる様に、市井に生きるごく普通の男女の色恋を描くという反エキセントリックな姿勢に、映画に臨む作り手の誠実さを感じる。こういうさりげないロマンポルノももっと作られても良かった。

 

77『TATOO〈刺青〉あり』(82年 監督・高橋伴明 主演・宇崎竜童)

 ピンク映画の鬼才だった高橋伴明初の一般映画。79年の「三菱銀行籠城事件」の犯人・梅川昭美をモデルにやる事なす事半端者の主人公が、昔の女(関根恵子)の新しい男が大事件を起こた事をきっかけに件の事件を起こすまでを描く。主人公(宇崎)は人間としていいとこなぞ何もない小悪党で「30までにデカい事やってやる」が口癖。俺は30になったらマトモな生活すると周囲の人に言っていたけど…。こんな男にも母親がいて唯一救いがあるとすしたら母親への溺愛。事件後警察から骨壺もらい受けド田舎の無人駅のホームで途上に暮れる母親の姿が痛ましい限り。本作後高橋伴明は関根恵子と結婚、ピンク映画界から足を洗った。

 

78『キャバレー日記』(82年 監督・根岸吉太郎 主演・竹井みどり)

 この作品に関しては『映画四方山話その542』で取り上げているのでそちらを参照の事

 

79『細雪』(83年 監督・市川崑 主演・吉永小百合)

 

 谷崎潤一郎の『細雪』はこれまで三度映画化されているが本作が一番イイ。関西の女系家族四姉妹の物語の中心になるのは、当時としては「行き遅れ」になりかかっている三女(吉永小百合)の結婚問題。そんな三女を結構スケベぽい視線で見てる次女の夫(石坂浩二)。勿論直接手を出す勇気はこの男にはないのだが、できればいつまでも嫁に行かさず手元に置いておきたいという本音が伺える。吉永小百合がナチュラルに醸し出す無力感が素晴らしい。裏目読みするなら、正に彼女は日本映画界の「観賞用置物」であるという実状を雄弁に物語っていたというか。故に彼女が自己主張している様な近作など、俺には興味が湧かない。

 

80『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年 監督・押井守)

  高校の学園祭の前夜。泊まり込みで準備に余念がない諸星あたるたち。しかしいつまで経っても学園祭当日になる気配がない事にあたるたちは気づき、やがて街全体が荒廃し人気がなくなっていた事に唖然…。高橋留美子の原作漫画からキャラクターだけを借りて、全く別の世界観を作った押井守の手腕には驚愕。飛翔に飛翔を重ねた末にこの世界は〇〇の脳内世界だった…と,いうシュールな展開が凄い。まず実写ではこれと同じ事はできないと思うし、例えやったとしても無惨な出来になるのは見えてる。そんな風にアニメ―ションならではのメリットを生かしやりたい放題やった感じ。宮崎駿の『風の谷のナウシカ』の何倍ものインパクト。