61『HOUSE ハウス』(77年 監督・大林宜彦 主演・池上季実子)

 大林宜彦の記念すべき初劇場映画作。呪われた家だとも知らず夏休みそこを訪れた少女たちが次々と家に食べられてしまう…。荒唐無稽なストーリー展開に批評は賛否両論だったが哀れな少女たちに向けられた憐憫の視線が本作全体を貫いており、当時のオジン評論家には理解できないいたいけ感は独特の物であった。やがて大林は少女が一番躍動する瞬間をキャメラに収める事に関しては右に出る者がない腕を見せる事になるのだが、本作の七人の少女の佇まいにその萌芽を見る事が出来る…という意味でも忘れ難き作品。ピアノに喰われちゃう「メロディー」(田中エリ子)と電灯に喰われる「カンフー」(神保美喜)が好きだったな。

 

62『処女監禁』(77年 監督・関本郁夫 主演・三崎奈美)

 

 東映の二番館向けに製作されたポルノ作品。カメラマンのアシスタントをやりながらスタジオで寝泊まりしている男(伴直弥)がスタジオ向かいのアパートに住む娘(三崎奈美)に欲望を抱き思い余って娘を監禁…というシンプルストーリーだが男の描写が強烈。昼間は奴隷みたいにこき使われ夜は窓越しに娘の着替えなど見ながら必ず自慰。監禁した娘をピクニックの衣装に着替えさせスタジオセットを使いピクニックデート気分…と絶望的なまでに一方通行な男の姿は非モテな俺には他人事ではない物が。最後突然津軽の海が登場するのは関本郁夫の川島雄三へのオマージュの証だろう。三崎奈美はロマンポルノに転じてから人気を得た。

 

63『人妻集団暴行致死事件』(78年 監督・田中登 主演・室田日出男)

  北関東を舞台に三人の半端者の若者が養鶏業を営む中年男(室田日出男)の鶏卵を盗むが、度量の大きい所を見せたい男は若者たちを許しそれをきっかけに彼らと親しくなるが、それに甘えた若者たちは男が泥酔した隙に頭と心臓に障害を持つ男の妻(黒沢のり子)を犯そうとする…。幻想的な作劇が売りだった田中登が『女教師』に続いて放った社会派ポルノ? 逮捕されても軽い罪で娑婆に出てくる若者たちに対し、彼らを甘く見た末に最愛の妻を失ってしまって立ち直れぬ男の姿が痛切過ぎる。薬物事件で東映を首になった室田日出男が失う物がないとばかり迫真の演技を披露、やくさ役者から演技派に転向するきっかけになった作品。

 

64『ダイナマイトどんどん』(78年 監督・岡本喜八 主演・菅原文太)

 北九州で果てしない縄張り争いを続ける二つの組。手に余った警察は各々の組長を呼び出し野球で決着をつけてはどうかと提案。それを聞きつけた野球経験者の助っ人が集まってきて…。やくざ映画のパロデイ作品としては後の『唐獅子株式会社』よりこっちの方がずっと面白い。ライバルとなる文太兄ィと北大路欣也、双方の組長がアラカンと金子信雄とキャステイングは超豪華。何でもありの試合シーンが楽しかった。ヒロインに抜擢されたのがロマンポルノ女優の宮下順子というのも良い(友人は「野球せんもんは男じゃなか!」と啖呵切った芸者役の岡本麗がイイと言っていた)。興行では角川映画に惨敗したが今DVDは角川から発売中。

 

65『蘇る金狼』(79年 監督・村川透 主演・松田優作)

 東映で『遊戯』シリーズを撮ってきた松田&村川コンビが角川映画に進出、大藪春彦小説を手掛けた。表向きボンクラ社員を装ってる朝倉(松田)は、裏では明晰な頭脳と鍛え上がらた肉体を武器に殺戮を繰り返し、会社上層部に雇われた振りをして汚れ仕事をこなした後上層部を恐喝…。本作観ると松田と大藪ワールドは出会うべく出会ったと言いたくなる程必然な物を感じた。が、俺にとっては会社上層部の一員に扮した、東映実録路線でニヒルな悪役として頭角現した成田三樹夫のキャラ変のインパクトの方が強い。朝倉にシャブ漬けにされながらも「これで嫌な売人とも会わなくて済む」と無邪気に喜ぶ成田三樹夫の姿に唖然…であったな。

 

66『その後の仁義なき戦い』(79年 監督・工藤栄一 主演・根津甚八)

 俺が映画マニア成りたての頃、工藤栄一は映画を離れTVドラマに専念していた事もあり、本作が俺が初めて観た工藤栄一作品になった。それだけで胸がいっぱいになったが、実際に期待を裏切らない物出来だった。組の垣根を越えて意気投合した若者たち。そんな彼ら所属する組同士の抗争に巻き込まれていきその友情にもヒビが入り…。敢えて非やくざ俳優(根津、宇崎竜童 松崎しげる)で組んだメインキャストも良かったが、同時に鉄砲玉の悲哀を滲ませる旧来の実録映画路線と共通するニュアンスも。そして工藤監督十八番の影や闇を効果的に使った映像も鮮烈。朝焼けをバックにした根津と原田美枝子の濡れ場も強く印象に残ったな。

 

67『太陽を盗んだ男』(79年 監督・長谷川和彦 主演・沢田研二)

 本作も『HOUSE ハウス』と同じくオジン評論家から酷評されたが、全編に通じる軽薄さが俺は好きだ。原爆マニアの教師(沢田)が思い余って原子力発電所からプラトニウムを盗み出し自宅で原爆製造。しかし作ったのはいいいがそれをどう使えばいいか分からない…。70年代も切羽詰まった時代ならではの作品で、本作は映画マニアでもなく勿論文学マニアでもない、漫画世代に焦点を合わせた作品だったのが合わせ損ねてしまい大コケに終わった。で、漫画文化全盛時代になったら当然の様に「再評価」された訳だ。個人的には「天皇陛下に俺の息子を返してもらう」と皇居前でバスジャックを敢行する伊藤雄之助(これが遺作)がサイコー。

 

68『十九歳の地図』(79年 監督・柳町光男 主演・本間優二)

 純文学のエースだった中上健次の同名小説を映画化。新聞配達をやっている予備校生(本間)は日頃の鬱憤を配達先の家の地図に×印を書き、その家に嫌がらせをする事で晴らす…。明るさとは無縁なネガティヴな青春像が描かれる。主人公と同室の中年男(蟹江敬三)のダメダメぶりがたまらない。主人公を伴って若い娘をナンパするシーンはサイテー過ぎて笑いがこみあげてくる。主人公も男のダメさが反吐が出る程嫌いなはずなのに否定しきれず、その苛々の矛先は男が「かさぶたのマリア」と崇める娼婦へと向かう。灰色の日々から脱出する術が見つからず喘ぎ続ける若者像が、それまで観たどんな青春映画よりもリアルに感じた。

 

69『ツィゴイネルワイゼン』(80年 監督・鈴木清順 主演・原田芳雄)

 訳の分からん映画ばっかり撮ってると批判され日活を解雇された鈴木清順に、全て好きにやっていいよと言ったらこんな作品が出来てしまった…という結論。怪人と表現するしかない主人公(原田)とその妻(大谷直子)、主人公の友人(藤田敏八)とその妻(大楠道代)。この四人の男女が体験する異聞話の連続という展開で、一応原作もあったりするのだがストーリーよりもシーン毎のシチュエーションに凝っているというか、登場人物の奇異な行動が観る側の理解力を越えて触発する物があり、観ていて飽きないのであった。個人的には大映崩壊後あまり目立った活躍がなかった大楠(旧姓・安田)道代がカムバックを果たしたのが嬉しかった。

 

70『ヒポクラテスたち』(80年 監督・大森一樹 主演・古尾谷雅人)

 この作品に関しては『映画四方山話その564』で取り上げているのでそちらを参照の事)