リック・デリンジャーといえばジョニーとエドガーの「ウインター」兄弟ラインでは欠かす事のできない重要人物。自身『マッコイズ』というバンドを率いて十代の頃に『ハング・オン・スルーピー』という全米ナンバーワンヒットを放った実績の持ち主なのだが、マッコイズ解散後はギタリストとしてスタジオワークなどをこなす様に。その一環としてウインター兄弟と出会い、エドガー・ウインター・グループではバンドメンのみならずプロデューサーも兼任しグループ最大のヒット曲『フランケンシュタイン』にも関わる事に。

 そんな十代の頃から音楽業界に関わってきた彼が晴れてソロアルバムを発表する事になるのは73年10月。共同プロデューサーをリック自身が務めコロラドとNYのスタジオでレコーディングが敢行された。そういう事情もあってか参加ミュージシャンの顔ぶれも幅広く、後に『イーグルズ』加入で名を上げたジョー・ウォルシュなどのウエスト・コースト系ミュージシャンに加え、ディランやジェリー・ジェフ・ウォーカーのレコーディングに参加した事で知られるギタリストのデヴィッド・ブロムバーグ(昔来日コンサートを観た事があったな)、ハーモニカの名手として知られるトゥ―ツ・シールマンズなども参加。注目はこの年英国でヒット曲『キャン・ザ・キャン』でブレイクした、ベースを弾きながら唄うスージー・クアトロがノンクレジットながら何曲かでベースを弾いている事だろう。

 

 アナログA面1曲目は彼のデビューヒットにして代名詞的曲にもなった『ロックン・ロール・フ―チ―・クー』。元々はジョニー・ウインターに提供した曲だった。確かにデビュー時はブルース系というよりワイルド系のギタリストとして鳴らしたジョニー・ウインターにふさわしい曲。ハードロックならではのリフは超覚えやすくこの時期の米国のハードロックを代表する名曲だろう。ここぞとばかりギターソロを弾きまくるリック。その張り切りぶりは師匠?のジョニー・ウインター譲りか。

 2曲目『ジョイ・ライド』はギターの刻むリフが軽快な短いインスト曲で3曲目『ティーンエイジ・クィーン』へと。ジョー・ウォルシュなどウェスト・コースト勢をバックに従えリック自身は生12弦ギターなどをかき鳴らしながら切ないヴォーカルを聴かせる。途中からストリングスまで入り甘いムードを強調。

 4曲目『チープ・テキーラ』はデヴィッド・ブロムバーグが参加。冒頭笑い声が入りタイトル通り安酒場でワイワイやろう的なイージーソング? リックはスティールギターまで演奏しカントリー・ロック調の雰囲気を演出。ドブロギターでソロを聴かせるデヴィッド・ブロムバーグはさすがに上手い。

 5曲目『アンコンプリケッド』もハードロックテイストのリフが印象的。バックにつくジョー・ウォルシュがかつて率いていた『ジェームス・ギャング』ってこんな感じだったかも? 米国ならではの乾いた感じのサウンドがイカす。ジョー・ウォルシュのギターはやっぱし強烈。

 A面最後の曲『ホールド』は何と当時まだ無名だったNYパンクの女王パティ・スミスが詞を提供。エドガー御大も参加し女性ヴォーカルも付いた、当時流行っていたフィラディルフィア・ソウル色も感じさせる異色な曲。リックの女泣かせのヴォーカルに聞き惚れる?

 

 アナログB面1曲目『恋と涙のエアポート』は壮大なアレンジが施されたラブソング。ロックと言うよりAORの先駆けみたいなサウンドだが、リックのヴォーカルが荒々しさを残している所がロック派の俺には救い。女性バックヴォーカルもかなり厚めに録音されエンディングの盛り上がりはなかなか。

 2曲目『ティーンエイジ・ラブ・アウェア』もシングルカットされ全米チャート80位を記録。ヒット狙いという事でドライブ感効いたロックン・ロールに仕上がっている。バックミュージシャンはドラムスだけで他の楽器は全てリックが重ね録音し才人ぶりを見せつける。

 3曲目の雷の音から始まる『イッツ・レイニング』は前曲とはガラリと変わったラテン色感じさせるポップソング。トゥーツ・シールマンズのハーモニカがフィーチャーされて南国ムードで胸いっぱい。こういう曲もできるんだね。

 4曲目『タイム・ワープ』はリックがエレクトリック・シタールまで演奏するインスト曲。16ビートの早いリズムはフュージョンミュージックを先取りした様にすら感じる。ジョー・ララが叩くコンガがフィーチャー、参加メンバーの熱い演奏を愉しむべし。

 5曲目『スライド・オン・オーヴァー・スリンキー』は女性バックヴォーカルを侍らしながらエグいギターを聴かせるリックの、ボス感を滲ませたワイルド系ナンバー。俺は陰湿な英国のハードロックより陽性な米国のハードロックの方が好きだ。

 最後の曲『ジャンプ・ジャンプ・ジャンプ』は6分越えの大作曲だが、これまたタイトルとは裏腹にAOR色が強いアレンジ。エドガー御大奏でるピアノのメロディーが都会の男の孤独な生活を彷彿とさせる…なんて歌詞なんかお構いなしに書いているが、俺はハードロックだけの男じゃないんだぞとの自己主張が伺える。

 

 スーシー・クアトロがどの曲でベースを弾いているのか分からないのだが、多分リックがベースを弾いている事になってる曲のどれかで弾いたのだろう。あまりに『ロックン・ロール・フ―チ―・クー』の印象が強いのでリック・デリンジャーはハードロックの人…という短絡的なイメージを覆す様な曲も多い。これは後にプロデューサーとしても活躍する彼のバランス感覚の顕れでもあり、その分アクの強さに欠ける部分は否めないのだが、後の音楽界のブームを先取りした様な曲などは今聴き直すと画期的という事になるのかも。それでも弾きまくり的ギター小僧魂は忘れてないのがいいね。

 結局このファースト・アルバムが彼の最大のヒットとなり、徐々に裏方的仕事に専念していく事になっていくリック・デリンジャーだが、ソロアルバムはその後も精力的に出し続け、バンド『デリンジャー』名義のアルバムも発表している。