ファブル(岡田准一)は狙った相手は六秒以内で殺せるという伝説の凄腕な殺し屋。子供の時からボスに殺し屋の特訓を受けてきた身の上。その為に俗世間とかけ離れた生き方しかできなくなってしまった彼の事を考え、ボスはファブルに大阪に行って一年間一般人として生活してみろ、しかしその間絶対に殺しはしてはいけないとの指令を与える。ファブルは「佐藤昭」と名乗り殺し屋仲間の洋子が彼の妹になり同行。大阪で彼の世話をするのは暴力団の隠れ蓑会社…。

 

 最近アトランダムに邦画を観ると日本テレビ絡み作品が多い事に気付いた。CXが90年代から積極的に映画製作に関わってきた事は知っていたが、日本テレビも同じなんだね。放映できる映画放映のコンテンツが少なくなってるとの事情があるのかもしれないけど。本作も日本テレビ絡みで『週刊ヤングマガジン』に14~9年まで連載、単行本は800万部売れた南勝久の同名漫画の映画化。伝説の殺し屋の休業期間に焦点を当てたアクションコメディで、ジャニーズグループ『V6』の岡田准一の主演。九州地方を中心にCM、ドラマ、短編映画などを作っていた江口カンが監督、他にも日本テレビ絡みの作品を描いている渡辺雄介が脚本を担当。

 

 会社幹部の海老原(安田顕)の世話でマンションに住み仕事探しに明け暮れる昭。たまたま知り合ったミサキ(山本美月)の働くデザイン会社に雇われる。慣れないながらも社長から面白がられて職場に馴染んでいく昭だったが、海老原の舎弟・小島が出所した事で雲行きが怪しくなる。会社専務の砂川と確執がある小島は砂川を見返してやろうとデリヘル創業を思いつき、会社のデリヘル部門を仕切っていた砂川の舎弟を殺し、会社の関連会社で昔グラビアモデルをやっていたミサキに接近し脅しをかけてデリヘル嬢をやらせようとする。嫌々小島に会う事になったミサキだが小島共々砂川に拉致された。ミサキの危機に昭は指令を破って…。

 

 凄腕の殺し屋が実社会では生活不能者という設定が人を喰っていて面白い。一般人に偽装している間はチンピラに絡まれてもわざと弱っちい振りをして殴られピーピー泣いてみせたり、そこまでやるかって感じ(笑)。そんな大阪を舞台にしたコメディシーンとかなりエグめなバイオレンスシーンが対照的。殺し屋としての主人公は過去映画で見てきた殺し屋の中でも最上級に位置しそうな殺人マシーンぶり。強すぎてちょっと戯画ぽく感じるのは原作が漫画だからではあろうが…。主人公の周辺人物を演じる安田顕、柳楽優弥、向井理といった面々が今までに見た事のない程の変貌ぶりなのが凄い。ストーリーが分かりづらいけど勢いはある作品。

 

作品評価★★★

(知らないで観たら松竹ではなく東映公開作と勘違いしそう。日本テレビ絡みの製作だがこの内容じゃTV放映は無理だと思うけどね…。三枚目演技の岡田准一を見るのは映画では初めてだがなかなかツボに入ってた。更にキャストを強化しての続編製作も決まったそうですな)

 

映画四方山話その590~十三人の刺客アゲイン

『十三人の刺客』がNHK-BSプレミアム域でドラマ化されたという話を聞いた。興味深かったのはオリジナルの映画版(63)で刺客側だった里見浩太朗が出演している事。オリジナル版に出演していた主だった男優陣は殆どが鬼籍に入っており(57年も前の作品だから当たり前な話ではあるが)、その中で若侍役だった里見が長い時を越えて再度『十三人の刺客』に出演する(今回はオリジナルで丹波が演じた老中役)のには感慨深い物がある。

 俺自身の思い出で言えば、映画を観始めた頃「工藤栄一」という監督は映画からは長い間離れTVドラマ演出に専念しており「工藤栄一が凄い」と言われてもリアリティは今一つ湧かなかったのだが、79年金沢在の時『その後の仁義なき戦い』で初めて工藤栄一作品と出会う事になる。その併映だったのが『十三人の刺客』だった。「工藤栄一二本立て興行」は全国的にもそうだったかどうかは定かではないんだけど、工藤栄一のその時点での最新作と代表作のカップリングとは溜まらんかった(涙)。

 現代劇のやくざ映画と時代劇。上映された二本の作品世界は対照的な物だが、例え命を捨てる事になろうとも自分の信じる思いを貫こうとする人間を描いたという意味では共通項がある…と言えるかも。今は自分の利になる事に動くのが当たり前の事とされており、そういう人間を描き続けたかつての東映スピリットももう過去の物だ。しかし映画TV含めて何度とも『十三人の刺客』がリメイクされているという事は、そんな我々にも心の裡には身を捨てる事も厭わない刺客たちへのシンパシーはいくばくかは残っているという事だろうか?

 工藤栄一が亡くなってもう20年が経った。晩年は映画監督としては苦難な道が続いたのがや淋しくもあるが、件のTVドラマ放映と共に今一度工藤作品にもスポットライトが当たる事を期待したい。

  勢ぞろいした刺客たち。その中には加賀邦男(今年亡くなった志賀勝の父)、汐路章といった悪役専門役者もいたりする