私立探偵の金田一耕助(片岡千恵蔵)は米国滞在中世話になった久保銀蔵の姪・春子の結婚式に出席する為岡山県に列車で向かった。向かいの席に座った静子(原節子)は偶然にも春子の女学校時代の親友で、彼女も結婚式に出席する予定。春子の相手は江戸時代は本陣を営んでいた旧家・一柳家の当主・賢蔵。しかし小作農上がりの家の出である春子と旧家の婚礼は必ずしも周囲の人に歓迎されている訳ではなかった。そんな不吉な予感を象徴する出来事が…。

 

 横溝正史の戦後最初に執筆した推理小説『本陣殺人事件』。75年にATGで原作にほぼ忠実に映画化されているが、最初に映画化されたのは47年。東横映画(後の東映)の製作で金田一耕助には片岡千恵蔵御大が扮している。主演千恵蔵、脚本・比佐芳武コンビの作品となると思い出すのは『多羅尾伴内』。実は多羅尾伴内第一作もこの年公開されており、それと本作を第一作とする金田一耕助物が千恵蔵御大の現代劇シリーズだったという事になる。本シリーズには必ず金田一の助手的役で美人女優がキャスティングされる習わしだったらしいが、記念すべき第一作のヒロインにあの「永遠の処女」原節子が扮しているのにはビックリだな。

 

 不吉な出来事とは一柳家近辺で見かけたという三本指の男。静子は春子が付き合っていた男がやはり三本指の変わり果てた姿になっていたのを目撃した事があり、その男ではないかと千恵蔵に告げる。それを意味づける様に賢蔵宛に脅迫状めいた手紙が届いたりしており、結婚式が無事行われるのか心配に。しかし三本指の男は一柳家の周囲に出没しても結婚式には現れなかった。皆が胸を撫でおろし結婚式が終わった初夜、賢蔵と春子が寝ていた離れの部屋から呻き声と琴の音が響く。急いで駆け付けた人たちが見たのは庭に捨てられた刺身包丁。急いで密室状態の部屋をこじ開けるとそこには新婚夫婦の惨たらしい他殺肢体が…。

 

 75年版とは違い大幅に脚色してあり一種のどんでん返し的結末になっている。石坂浩二のそれとは違い千恵蔵扮する金田一はスーツをビシッと決めたハイカラ紳士風…って多羅尾伴内じゃん! 実際金田一が推理にさして必要もなさそうな変装をする下りなど正に多羅尾伴内のエピゴーネンぽく(変装がバレバレなのも)、そういう失笑してしまうシーンはあるとは言え大胆脚色によるストーリーは推理ドラマというより探偵小説ぽく、一旦閃くとあっという間に事件を解決していまう金田一の明晰さが印象付けられる一作。原節子もそうだが旧家の姑に杉村春子が扮してたり、キャスティングが東映ぽくないのも異化作用的効果で良かったと思う。

 

作品評価★★★

(明智小五郎じゃあるまいし金田一が変装しないといけない理由が分からなかったけど、まだ農地改革が行われたばかりの世相を背景にした戦前のセレブ一家の没落を暗示する展開は、プログラムピクチャーながら社会性も意外とあるなと思った次第、原節子はメガネ美女役)

 

映画四方山話その589~映画よりも先に観ていた『犬神家の一族』TV版

 市川崑の『犬神家の一族』を観た時「あれ、このストーリーどっかで観た事があったぞ」と思った。ゴムマスクを被った佐清の姿にデジャブ感があったのだ。それは70年に日本テレビ推理ドラマシリーズ『火曜日の女』粋で放映されたドラマだった事は直ぐ思い出したのだが、タイトルは『犬神家の一族』ではなかった様な…。さっき検索して初めてタイトルが分かった。タイトルは『蒼いけものたち』。夏から秋にかけて放映された。

 佐清キャラのおどろおどろしさは同じでも役名は一切変更され(脚本は佐々木守)金田一耕助も登場しない。ヒロイン酒井和歌子の両親は既になくなり弟と二人きりで過ごす身の上だったがそこに弁護士(中山仁)が現れ、あなたはさる大富豪一族当主の遺産を継ぐ権利があると告げられる。但し新たな当主候補者の三人の内の誰かと結婚しなければならないという条件付き。

 

 と、基本的なストーリーは映画とほぼ同じで当主候補者が次々に殺されていき、最後の真犯人の正体も映画と全く同じである。ただ映画版にあった外連味は一切無く、淡々と惨劇が繰り返されていく感じ。ヒロインの酒井和歌子もまた映画版の島田陽子の比べると至極大人しめなキャラになっており、金目当てに接近してくる当主候補者の母親の頼みをそのまま受け入れ、愛なんて全く感じていない相手と結婚しようと決意する。従順というか主体性のなさというか、ヒロインが見るからに奥手ぽい酒井和歌子だから違和感はなかったのだろうが、今こんなヒロインを造形すると「単なる金目当て女」とか言われてネットなどで絶対批判されるだろうな。

 ただ外連味がない分殺人場面の演出もリアルで不自然でない物になっており、映画版の終始躁状態的なはしゃぎぶりに違和感覚えずにいられなかった俺にしてみれば、意外とこのTV版の方が好きだったりするのだが。

 ちなみに俺が一番印象に残ったシーンは殺人シーンとかではなく、原作の佐智に当る男がTV版ではこの一族にお手伝いで雇われている娘とデキていて、心変わりが心配な娘は佐智モドキ男を納屋みたいな所へ誘い、ブラをはずして半裸の体を相手にぶつけていくのだ。純白のブラと白い背中がマセガキの俺のハートではない別の箇所を直撃(笑)。多分親は一緒に観ていなかったから気まずさはなかったとは思うけど。結局佐智モドキは殺され娘も後を追い首吊り自殺して哀れ…。

 後年インタビュー本で観ていた時は全く気付かなかったけれど、このお手伝いを演じていたのがアンヌ隊員ことひし美ゆり子(当時は菱見百合子)だった事が判明。この頃既にエロ方面に転出していたという訳か…。