08年5月。AKBグループの姉妹グループ『SKE48』が名古屋に誕生する事が公式発表。7月一期生オーディションでまだ小学生だった松井珠理奈他22名が合格、8月のAKB48日比谷野外音楽堂ライブでのお披露目まで僅か1か月。振付を任された牧野アンナによるダンスの特訓が来る日も来る日も続く。ライブ当日にAKB48四期生だった中西優奈のSKE移籍が決定。彼女に一期生から選抜された15名を加え『チームS』が結成、今度は劇場公演に向けレッスンが開始…。

 

 まだAKBグループが飛ぶ鳥を落とす人気を誇っていた14年。従来から毎年の様に製作~上映されたAKB48のドキュメンタリー映画に加え姉妹グループであるSKE48、大阪に本拠を置く『NMB48』博多に本拠を置く『HKT48』も各々ドキュメンタリー映画が製作する事が発表された。SKE48は姉妹グループの中で最初に発足。名古屋の中心地・栄町に専用劇場を構え芸能活動を展開。本作は結成当時から14年12月発売シングル『12月のカンガルー』選抜メンバー発表までの映像を交えつつ現役メンバーのみならず、卒業メンバーのインタビューも多く混じえて構成。監督はNHK系列会社ディレクターでAKB関連の番組も多く手掛けた石原真。

 

 初日公演を前にレッスンは益々厳しさを増し、途中過呼吸で倒れるメンバーがいてもレッスンがストップする事はない。一期生公演が軌道に乗ると直ぐに二期生募集、更に三期生募集とメンバーとチームが増えていき、同時にシングル曲の選抜枠を巡っての競争も激しさを増す。先輩たちを差し置いて選抜メンバーに選ばれ気まずい顔を隠せない後輩メンバー。恒例のAKB選抜総選挙の順位に一喜一憂もする。AKB選抜に選ばれた松井珠理奈は号泣。「大組閣」ではSKEの次世代エースと思われたメンバーがAKBに完全移籍、代わりにAKBの人気メンバーが移籍してきたり。そんな風にSKE48の人気が上昇中に卒業していくメンバーも…。

 

 本作の情報を知らないでレッスン風景を観た人は、このグループはアイドルではなく全国大会を目指すチアリーダーグループだと勘違いするのでは。それ即ちSKE48が体育会資質である事を物語る。それを象徴するのが彼女たちが事あるごとに流す膨大な涙の量で、喜びも悔しさも卒業メンバーとの別れの悲しみも涙で昇華させていく事によって、メンバーは次のステップへと進んでいけるのだ。多感な時期をグループ活動で過ごすメンバーたちの息苦しさが嫌と言う程伝わる一方、卒業メンバーは誰もが燃え尽きた感じで至極淡々としている。松井珠理奈と松井玲奈(SKE卒業後女優に転向)以外の現役メンバーの影が薄いのが気にかかった。

 

作品評価★★

(本作の公開から五年たち、撮影時点で現役だったメンバーもかなり卒業してしまっており、何かSKE48って常に満身創痍って感じがしてしまうのは俺だけでしょうか。そこがSKEオタにはたまらない魅力なのかもしれませんが。振付師の牧野アンナは名匠・マキノ雅弘監督の孫娘)

 

映画四方山話その506~さようなら金沢駅前シネマ①

 

 金沢在住の知人から『金沢駅前シネマ』が3月いっぱいで閉館になると聞いたのは、新型コロナウイルスの感染がここまで甚大になるとは想像していなかった3月中旬ぐらいだったか。金沢駅前シネマは70年代ぐらいまではどこの県の県庁所在地にも必ずあった様な成人映画館の一つだが、駅前と名乗る割には金沢駅から10分ぐらい歩かなくてはいけない距離にあり、19~20代前半まで金沢に住んでいた俺は金沢駅前シネマには随分とお世話になった。閉館への送辞代わりに個人的な思いでを幾つか書いてみたい。

 最初の金沢駅前シネマとの繋がりは一映画ファンとしてであった。金沢駅前シネマではほぼ毎月『現代の映画作家シリーズ』と銘打ち祭日の前日などに監督特集オールナイトをやっていた。今とは違い当時は地方で成人映画系の旧作を観れる機会は滅多になく、既に日活ロマンポルノにハマっていた俺にとっては格好の餌だった。

 最初に観たのは77年4月28日の『神代辰巳特集』。ベストテン入りする様な代表作を微妙にはずしたラインナップだったが、この時観た『濡れた欲情 特出し21人』(74)の方が世評の高い『一条さゆり 濡れた欲情』(72)よりも面白いと思っている。5月の『石井輝男特集』では子供の時から好きだった橘ますみたんの主演作品を三本も鑑賞。『江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間』(69)もこの時に観ている。繰り返し吉田輝雄が登場してくるので館内から失笑が漏れていた。

 8月のお盆休みには『曽根中生特集』、9月には『小沼勝特集』11月には『藤井克彦特集』。何れも職人気質のロマンポルノ監督たちだが、監督別にして観ると各々の監督の個性めいた物が浮かび上がってきたりする。78年3月はやはり若松孝二の埋もれた系の作品を集めたオールナイト。この時上映された『性犯罪暗黒篇 ある通り魔の告白』(69)は配給を担当した映画会社が倒産し、そこの倉庫にあったフィルムを金沢駅前シネマでもらい受け所持している…と聞いた。脚本&主演は詩人でかつ映画評論家&映画監督でもある、若き日の福間健二だ。

 

10月には『大島渚特集』。成人映画だけでなくこういうアート系やATG作品もたまに金沢駅前シネマで上映していた。『日本春歌考』(67)でチョゴリ姿の吉田日出子が唄う『満鉄小唄』には痺れました。

 79年3月は鈴木則文のポルノ系作品を集めたオールナイト。『エロ将軍と21人の愛妾』(72)に感動。女ねずみ小僧役の池玲子が美しかった。11月のオールナイトは長谷部安春&沢田幸弘というバイオレンスポルノ特集。久々にロマンポルノのオールナイトを観たのだが、それまでのオールナイトは超満員だったのが、この時はガラガラだったのには驚いた。確かに『暴行切り裂きジャック』のタイトルではエロ気分はソソれないとは思うが…。最後に上映された沢田幸弘の『暴行!』(76)のクライマックスシーン、屋外に投げ出されたラジオから『林美雄のパック・イン・ミュージック』が流れる。時間帯的にはピッタリシンクロしていたが、もしかして放送曜日も同じだったのかな? その後も鈴木清順特集やら増村保造特集といった文芸坐ぽいオールナイトにも行ったりしたが、多分肉体労働した日の夜の上映だったからか、疲れ果て途中で爆睡してしまった…。やはり金沢駅前シネマはロマンポルノのオールナイトが一番しっくりくる映画館だったと思う。

 今この文章を打っている自部屋の壁には金沢駅前シネマオールナイト『加藤彰特集』の割引券が貼ってあった。多分78年ぐらいの上映だったと思われるが結局行かず、割引券は使わずに実家に持ち帰り42年間も壁に貼り付けたままだったのだ。正直加藤彰というロマンポルノ監督にはそれ程思い入れがない。このオールナイトに行けば多分贔屓の監督の一人になっただろう。人との付き合いもそうだが、70年代までは映画を観る事も一期一会な物だったと思うのです。