昭和50年10月14日の鉄道記念日。北海道の国鉄で保線区員として働いてきた市蔵(井川比佐志)は、勤続30年の功労賞を受ける為に妻・里子(左幸子)と共に札幌に出た。市蔵の胸中には複雑な物がある。自宅である官舎に帰りささやかな祝杯の宴が行われたが、札幌で働いている娘・由紀(市毛良枝)が恋人を伴って現れた事で抑えていた気持ちは爆発。大荒れになった市蔵を見て、父の跡を継いで国鉄職員になった息子は「功労賞を辞退すべきだった」と言う…。

 

『にっぽん昆虫記』(63)『飢餓海峡』(65)といった日本映画の名作でヒロインを務めた左幸子。羽仁進監督と結婚したが77年に離婚…という事は本作の公開年と同じ年だった事になるのだ…。本作は左幸子が唯一監督も務めた作品で一流スタッフが参加、国鉄(現・JR)の労働組合が全面的にバックアップし製作された独立プロ映画。北海道の国鉄保線区で働く労働者一家の厳しい生活を通し、腕一本で家族を支えてきた労働者のプライドを描く。主演を井川比佐志、その妻を左幸子が自ら演じてる。夫婦の娘役に昼メロの「お嫁さん女優」としてブレイクした市毛良枝、その恋人役に若き日の長塚京三。他に殿山泰司、小松方正なども出演する。

 

 お互いの顔も知らず見合い結婚した市蔵と里子。二人の子供をもうけたものの生活は楽ではなく、現場叩き上げの市蔵は勧められて何度も昇進試験を受けるが不合格ばかりで辞めてしまった。そんな市蔵を逆なでする様に昭和45年に「マル生」運動が行われ、保線工事の現場にも機械が導入され合理化が進められたが市蔵にはピンと来ない。市蔵は労働組合に入り管理職側と闘う決意を固めたが、同僚の中には管理職の説得で組合を脱退する者もいた。夫の姿を見て里子も市蔵を支える決意を固め、息子も国鉄に就職する事を決めたのだった。頑固者の市蔵も由紀の恋人が汗水垂らして働いている姿を隠れて見て結婚を許す気に…。

 

  鉄オタ必見の映画…と紹介されたりする作品だが、マニア垂涎の蒸気機関車は確かに登場するが主に登場するのはあまり鉄オタ受けしそうのない、今は殆ど観られなくなった有蓋車や無蓋車といった貨物車両。それがまんま主人公の地道な勤務生活を象徴している。彼を取り巻く生活描写と、左本人は否定しただろうが元夫仕込みのドキュメンタリー的演出がいい塩梅にミックスされており、一部実際の国鉄職員の姿やその肉声が作品に使われたりする。娘の恋人が長崎県の軍艦島出身という事になっており、廃墟化した軍艦島に夫婦、娘とその恋人が訪れるクライマックスシーンは、映像の力は強いけどそこだけ別の作品の感があるな。

 

作品評価★★★

(労働組合が全面協力と聞くとそれ風な型にハマった作品を想像してしまうが、それに留まらぬ詩情や即興的演出が見受けられたして、女優の余技の範疇を越えた監督作品。自分を裏切った元夫を見返したい監督の意図は実を結び、本作は見事キネマ旬報ベストテン10位に)

 

映画四方山話その501~日活ロマンポルノに登場した有名芸能人たち・男優篇⑨

 82年4月公開『悪魔の部屋』(監督・曽根中生)に、元ロックバンド『キャロル』のメンバーとして活躍したジョニー大倉が出演。キャロル解散直後は武道館で単独コンサートをやる程の人気だったジョニー大倉も、この頃になると「世界のヤザワ」との人気の格差は大きく、段々歌手業から俳優業にシフトチェンジしていった。本作では自殺した両親の復讐の為仇の息子の妻(中村れい子)を誘拐し仇がオーナーを務めるホテル部屋に監禁し女を凌辱する。しかし徐々に二人の心に変化が現れ…という心理描写アリのサスペンスポルノ。ジョニー大倉は役者としてはこの手の思いつめた様な役を得意としていた印象。ミュージシャンとしては負けたけど、演技力ではヤザワに勝ってると思う(ヤザワの演技は見た事ないけど)。仇役を演じていたのはもう忘れてたが内田良平だったみたい。ジョニー大倉は天地真理主演の『魔性の、香り』(85)にも出演。これも好演だった。

 

 8月は「日活創立70周年記念作品」と銘打たれた二本立て。『ジェラシー・ゲーム』は『ラブレター』に続く東陽一監督作品。東宝スターで元祖TV青春学園ドラマの熱血教師としても知られる夏木陽介、『仮面ライダー』シリーズで主演経験があったとはいえまだ一般的には殆ど知られていなかった村上弘明が出演している。中年カップル(夏木&大信田礼子)と若者カップル(村上&高橋ひとみ)がひょんな事から旅先で相手を交換する様になってしまう…という、中年カップル側からするとアンニュイぽい展開で、未見だし映画の評判も聞いた記憶がないけど、調べてみると二人ともきっちり絡みもやってるはず。夏木とまだうら若き高橋ひとみの絡みなら観てみたい気がする…。晩年はあまり見かける事もなかった夏木だが(一昨年死去)、生涯独身だったというのは知らなかった。

 併映の『軽井沢夫人』にも元東宝スターが出演。ヒロイン(高田美和)の夫役の土屋嘉男。『七人の侍』の農民役を始めとする黒澤明作品の常連俳優であり、東宝特撮路線で重要な役を何度も演じた事でも有名。『ガス人間第一号』(60)の主演、『マタンゴ』(63)での尊大なセレブ男役など、イケメン俳優ながら性格俳優的な役柄も得意としたイメージがある。この作品では妻を蔑ろにし愛人を作っている大会社の社長役で、セレブ階級の描写に弱いロマンポルノ(予算が少ない為)の中ではさすがに貫録がありらしく見えた。

 

 9月封切『(本)噂のストリッパー』は『の・ようなもの』(81)で劇場映画デビューした森田芳光が演出を担当し、TVの『ケンちゃん』シリーズで一世風靡した名子役・宮脇康之がストリッパーに憧れる純情青年役で出演。この作品に出演するまでの経緯は半生を語る的なTVバラエティなどで散々紹介された事なのでここでは省くが、要するにそれまでの子役のイメージから脱却を図りたかった…という事でしょう。ただ子役のイメージが強すぎて本作の出演の効果もも無し(高峰秀子の養女になった元『週刊文春』記者の斎藤明美という人が「昔取材した有名子役が落ちぶれてストリップの舞台で『本番』をやっていた」と高峰関連の著書で書いており、多分宮脇康之の事を指していると思われる。ただ「本番」は映画で演じていただけであり、誤解を与えやすい書き方であった)。

 森田演出の主旨はロマンポルノにありがちな「暗さ」を排除する事にあったらしく、その意味で言えば本作よりロマンポルノでの第二作『ピンクカット 太く愛して深く愛して』(83)の方が成功していた様に思う。

 

 この年暮れのお正月興行として公開された『OH! タカラヅカ』。『週刊ヤングガジン』に連載されていた漫画の映画化で、女だらけの島にある女子高に赴任した男性教師を襲うチン騒動を描くコメディ。主演はこの頃ロマンポルノのドル箱スターになっていた美保純。その女子高のエロ校長役でベタな名古屋弁を駆使し50~60年代までTVで人気を博した南利明が出演していた。もっとも俺的には70年に流行語「ハヤシもあるでよ」を生み出したレトルトカレーのCMの印象が最も強いけど。かつては由利徹と『脱線トリオ』というトリオで活躍していた南利明だが、考えてみれば芸風的に南よりエロオヤジぽい由利徹がロマンポルノに一本も顔出ししなかったのは意外。やっぱりお茶の間の人気者のイメージを損なうと思ったからでせうか。