舞台はサンフランシスコ。公衆衛生局に務めるマシュー(ドナルド・ササーランド)は同僚のエリザベス(ブルック・アダムス)から同棲中の恋人ジェフリーの様子がおかしいとの相談を受ける。姿や恰好は一緒でも以前の彼とは別人みたいだという。マシューは最初彼女の精神的な問題かと思い、友人で高名な精神分析医のギブナー博士(レナード・ニモイ)の診察を受けてたらいいと返事する。しかしエリザベスはジェフリーを尾行し彼が知らない人と会っている様子を目撃…。

 

 米国の作家ジャック・フィニーが1955年に発表した古典的なSF小説『盗まれた街』はこれまで四回映画化されている。最初に映画化したのはアクション映画の巨匠ドン・シーゲルで『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』のタイトル名で56年に映画化されたが、残念な事に日本では劇場公開されず終わった。本作はそれに次ぐ二度目の映画化。『アウトロー』(76)『レイダーズ/失われたアーク《聖櫃》』(81)の脚本を手掛け、監督としては『ライト・スタッフ』(83)で注目を浴びたフィリップ・カウフマンが演出し、主役のみならず脇役としても多くの作品に出演したドナルド・サザーランド、SFテレビドラマシリーズ『スター・トレック』のレナード・ニモイなどの出演。

 

 ギブナーの診断ではエリザベスの幻覚に過ぎないという事だったが、マシューにも思い当たる節がありエリザベスの言ってる事はあながち妄想でもないと思う様に。そんな時マシューの友人ジャックの自宅で怪しげな人体らしき物が発見される。その顔はジャックに瓜二つで繭みたいな物の中で胎児みたいな形態をしていた。驚愕したマシューは直ぐにギブナーを呼ぶが、彼が着く頃にはその物体は姿を消していた。もしかしてと思いマシューはエリザベスの家に侵入すると、眠ったエリザベスと共に先程と同じく複製された物体が。マシューは警察に連絡するがその間に物体はまた見当たらくなり、ジェフリーはその事を否定し真相は藪の中…。

 

 ミステリーぽい発端のSF作品。真相を明かせば宇宙から飛来した泡状の生物体が花の形に化身、人間が寝ている内に触手みたいな物で体内に侵入しDNAを記憶してコピー人間を作っていく展開。いつの間にか主人公やエリザベス以外の殆どの人間は宇宙生物によってコピー化されて洗脳、宇宙生物に奉仕する事を余儀なくされる。原作が書かれた時節柄社会主義国家を揶揄してる風でもあるけど、演出は周囲の人間がある日を境に次々に別人格になる事で、多数派から少数派に陥ってしまう人間の恐怖感と、主人公たちの絶望的な逃走劇を描く事に執心。オリジナル作はハッピーエンドだったが本作はそうなっていないのも時節柄か。

 

作品評価★★★

(ストーリー自体はSFの王道物みたいな感じがするので真新しさはないが、当時珍しかった特殊撮影効果が後味の悪い印象を残す。特にDNAコピーに失敗してそうなったんだと思うけど「人面犬」の登場シーンのインパクトはなかなか。眠ったら終わりという設定もキビシー!)

 

映画四方山話その259~『狙われた街』は実相寺昭雄の最高傑作?

 今回の作品を観て往年の円谷プロ製作の特撮ドラマ『ウルトラゼブン』を思い出した。怪獣が暴れまわる他のウルトラシリーズも嫌いではないけど、宇宙人が密かに地球に侵入し我々の日常生活に溶け込みながら地球侵略の機会を狙っている…という、ウルトラセブンで再三に渡り使われたシチュエーションが、俺には一番リアルに感じられた。ウルトラゼブンの作り手たちは多分本作みたいなSF小説も叩き台にして、あの独特なウルトラセブンワールドを形作っていったのだ。

 そんなウルトラセブンシリーズの中でも取り分け印象的だったのが、異才・実相寺昭雄が演出を担当した第八話『狙われた街』だ。とある街に密かに侵入した「メトロン星人」が周囲の人間が全て敵に見える薬を仕込んだ煙草を自動販売機で販売し、人間同士を戦わせ自滅に追い込むという陰謀を我らがモロボシダン=ウルトラセブンが阻止する…というストーリーだった。

 ストーリーを紹介するといかにもサスペンス色が濃そうに思えるけど、実相寺の演出は寓話性を感じさせどことなくブラックユーモアめいた物がある。映っている物は当時どこの街にも至る所にあった子供たちが遊んだりする空き地や、モロボシダンとアンヌ隊員がデート中のカップルを装って件の自動販売機を張り込む何の変哲もない駅前のレストランなど。メトロン星人が円盤を隠している場所も俺が東京の貧乏生活時代に住んでいた様な安アパートだった。更にアパートに忍び込んだモロボシダンが最初に耳にするのがラジオのプロ野球試合中継だったりと、普遍的な日常的風景を積み重ねた演出が、SF的なストーリーの異化作用的な効果となって面白い。

 極めつけがあまりにも有名な貧乏部屋での卓袱台を挟んでの、モロボシダンとメトロン星人の対話シーン。実相寺は後にATG映画で不必要なまでに登場人物同士の対話というか論争というか、それを執拗に拘って演出していたが、その雛形的シーンと言っていいのかな? 全てが露見した後は苦もなくセブンに倒されてしまうメトロン星人…という結末は、手に汗握る激闘を期待した子供視聴者には肩透かしで、そういう「お子様ランチ」的な安定感に敢えて逆らってしまうのもまた実相寺昭雄らしいと思う。

 TBSのディレクターを皮切りに生涯に渡り映画演出は勿論様々なジャンルの表現にチャレンジしていった実相寺昭雄。東京藝術大学の名誉教授にまで就任する一方でかつては官能小説の執筆、アダルトビデオの監督まで務めた。ここまでマルチメディアに通じた表現者は日本映画界には多分もう二度と出現しないであろう。そんな異能的才能の中で最高傑作を選べと言われたら、俺の観た範疇ではこの『狙われた街』かな…とつくづく思うのだ。