激しいのがお好き?
今日は言葉に関するエッセイ。
(去年某SSNに書いた内容と同じなので、既読の人はスルーしてください)
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最近、競馬ファンの間で「激走」という語をよく目にする。
近走で成績不振だった馬が、(クラスが下がったり、相手が弱くなったわけでもないのに)
いきなり当たり馬券の対象になる上位(1~3着)に入線て大穴を開けた場合
(たとえば最近の成績が12着、13着、10着という馬が、いきなり2着に来るとか)
に使われる。
むかしは、こういうのを競馬用語で「大駆け」と言ったものだ。
(たとえば、レース予想で「○○の一発大駆けに注意」とか。今でも専門誌ではよく目にする)。
考えてみれば、
いつの頃からか、「激○」というような語が増えている気がする。
(刺激を求める現代社会の現れだろうか)。
もともと、「激」の字が熟語に使われる場合は「激しい」という意味だろうから、
「激震」「激痛」「激突」「激戦」「激論」など、激しくぶつかったり、せまってきたりするものか、
あるいは、「激増」「激減」「激変」「激動」など、変化のスピードが激しいものに使うのが普通だろう。
しかし、「激」の字をめぐる異変が起きたのは1980年前後(私が大学生のころ)のことだったと思う。
スーパーや電化製品・衣服などの安売り店に「激安」という文字が並ぶようになったのだ。
値段が高いとか安いとかいうのは、量的なレベルのものだから、
本来から言えば「激しい」というのは変である。
「大安」(おおやす)とか、あるいは「バカ安」とでもいうのが、
それまでの普通の言い方だったように思う。
それが、「激安」!!
まあ、いきなり値段を下げたということで「変化のスピードが激しい」から「激安」なのかもしれない、
とか、「感激するほど安い」から「激安」なのか、などとも解釈できなくもなかったが、
この後、「激○」の語がそれこそ激増したことを思えば、これはやはり、何かの兆しだったのだろう。
最近よく使われる語でいうと、
「激ヤセ」や「激太り」は、変化のスピードの激しさなので、本来の意味に近いだろうが、
「激ウマ」(これも感激するほど美味い、ともとれる)や
「激辛」(これには「刺激」というニュアンスがあるのかも)、
「激賞」(意味的には「絶賛」と同じかな)、
2ちゃん用語の
「禿同」(=「激しく同意」、本来なら「深く同意」かな)など、
現代人はやたら「激」が好きなのである!
学生たちの手書きのレポートや感想文に、
「激沈」(←撃沈)や「攻激」(←攻撃)、「激的」(←劇的)などの誤字
が出現するのも、現代社会におけるこの潮流の一環だろうか・・・・・