ヘンテコ音楽人生(その1) | ヴァージニア日記 ~初体験オジサンの日常~

ヘンテコ音楽人生(その1)

すこし前に、私のヘンテコな読書人生 のことを書いたところ、ずいぶん反響があった。

その時に、「音楽との出会い」についても書いてほしいというリクエストをいただいた。


こうやって異国の地で生活していると、自分のアイデンティティが揺らぐせいか、

やたら(今まで忘れていた)昔のことが思い出されてくるから不思議である。

(夢などにも、ずっと忘れていた人物や風景が出てきたりする)


先日も、私たちのコンサートに来てくださった3人の研究仲間たちとの話のなかで

「私がなぜピアノを習い始めたか」という話になったので、この際(何回になるかは

わからないが)、私の奇妙な音楽人生(?)について語っておくことにしよう。


音楽の中でも、とくにクラシック音楽の場合、人生初期の環境がかなり決定的である。

クラシック音楽を聴いて楽しむだけならいつでも出会いのチャンスはあるが、楽器の演奏

などでプロになったり、たとえアマチュアでもある程度以上のレベルに達するためには、

早期から音楽や楽器に触れていないとかなり難しい。

(管楽器や打楽器、声楽の場合は、高校生・大学生になってから始めた人でも十分

うまくなりえるが、ピアノや弦楽器では、小学校を卒業するぐらいまでにある程度

基礎的なテクニックを習得しておかないと、そのレベルに達するのはまず無理である)


あるいは、小さい頃から常に家でクラシック音楽が流れているような環境(たとえば

お父さんがクラシックマニアでしょっちゅうレコードを聴いていたり、お母さんが家で

ピアノを教えていたり)に育った子どもは、たとえその時は特に音楽に興味がなかっ

たり、楽器を習ったりしていなくても、将来そうなったときにかなり有利であることは

間違いない。


で、私はどうだったか?


私は一人っ子で、祖父母(母親の両親)と父母との5人家族で育ったのだが、

家の中に、とくにクラシック音楽に詳しかったり、楽器を演奏できた人がいた

わけではない。


ただ、(自分では記憶がないが)赤ん坊のころに、蓄音機でクラシック音楽のSP

レコードをかけると、機嫌良くすやすやと眠った、ということを後で親に聞かされた

ので、クラシック音楽のレコードが家に何枚かはある、という程度の環境(これだけ

でも全然ないのとは大違いだろう)ではあったようだ。


もっとも、「クラシック」とは関係ないものの、わが家は「音楽」にはあふれていた。

祖父は三味線と長唄をやっていたし、祖母と母は謡曲と仕舞の師匠だったので、

家には毎日のようにお弟子さん達が稽古に来ていたからである。



まあ、そんな家に育ったのだが、両親は私が「音楽が好きそうだ」ということは

なんとなく感じていたものの、男の子でもあるし、ごく普通のサラリーマンの家庭

で金持ちでもないので、ピアノやヴァイオリンを習わせたい、などとはまったく

考えなかったようだ。


そんな私が、5歳でオルガン、6歳でピアノを習うようになったのは、

幼稚園のO先生の助言があったからである。


くわしく話をすると長くなるので、大筋だけを言うと、

私は幼稚園で、まったくの不適応児だった。

もともと一人っ子で、かなり過保護に育てられた(とりわけ祖父母に)ので、

幼稚園入園まであまり同年代の子どもたちと遊んだことがなく、そもそも

社会性に欠けているというか、集団行動がまったくできなかったのである。

(今でも集団行動は大の苦手である・・・)


しかも、(別に自慢するわけではないが)知的な部分の発達だけは異常に早い

子どもだったので、小学校にあがる前に九九もできたし、漢字もかなり書けた

のに対し、運動は全然ダメ(後の経験からすると運動神経自体は中の下ぐらい

でそうひどくはないのだが、小さい頃に外で遊んでいないので、まったく何も

できなかった)、手先は思いっきり不器用(これは今でもそう・・・)、感情のコント

ロールが効かず「情緒不安定」。。。というわけで、とにかく知的な部分とそれ

以外の部分の発達がどうしようもなくアンバランスな子どもだったのである。


こういう子どもが、いきなり幼稚園で同年代の子どもたちの集団のなかに

入れられたのであるから、どうなるかは容易に想像できるだろう。


とにかく、毎日、

何だかんだとわめいているか(昔から声は人一倍デカイ!)、泣いているか、

ほかの子どもを泣かせているか、授業を妨害しているか、のどれかである!!


(にもかかわらず、朝「幼稚園に行きたくない」と言ったことは一度もなかった、

と両親が言っていた。根は繊細なのだが、どこかに思いっきり図太いところが

あるのだろう・・・)


そんな私に、幼稚園の先生も

「こんな子どもは見たことがない。。。

扱いに困り果てていたようだ。


実は、私は最初に通ったこの幼稚園をやめ、他の幼稚園に転園になっている。

詳しいことは自分ではよく知らないのだが、どうも幼稚園の先生が完全に

「お手上げ」になり、「これ以上は面倒を見切れない(→他の子どもにも迷惑が

かかる)」と両親に退園をすすめたようだ。

つまりこの問題児は幼稚園を「退園」させられたわけである。


その「退園勧告?」の面談の中で、担任だったO先生が

ちらっと口にした一言が、その後の私の人生を変えることになる。


「この子、なんだか音楽の才能があるようなんです。あんなに何をやらせても

不器用なのに、木琴だけは一回聴いただけで完璧にできるんです。こんな子は

今まで見たことがありません。木琴を叩いている時は、楽しそうにおだやかな

表情をしてますし、男の子ですけど、どこか音楽教室のようなところに通わせて

みてはいかがでしょうか? そうしたらちょっとはこの子の情緒も安定するかも

しれません」と。


両親からすれば、「ちょっとでもこの子がまともになってくれるなら・・・」と

藁にもすがる思いだったのだろうが、そんなわけで私は「情緒安定効果」

期待されて、近くにあったヤマハの音楽教室でオルガンを習い始めること

になったのである。


続きはまた。