以下は4年も前の記事だが、 NHK 「 チコちゃんに叱られる 」 での鏡像の説明は余りにもトンチンカンで酷いので、その解毒剤として再掲する。

鏡にうつった自分の左右は本当に入れ替わったりしてるか?


一般向けの初歩的な科学解説書やテレビの科学解説番組などで時々取り上げられる 「 カガミに映った自分の姿はどうして ( 上下ではなく ) 左右が入れ替わるのか? 」 という設問がある。

ところがその後に出て来る解説を見ると、「 私たちの身体は左右対称だから ・・・ 」 とか、「人間の目は水平に並んでいる為に ・・・ 」 などと変な説明がされていて、不思議なことに本でもテレビでも ( 少なくとも私が見た中には ) これまで一つも、本当に正しい解説を見たことがないのである。


なので、もしかすると ・・・なのだが、この事についての本当にちゃんとした説明は、少なくとも科学啓蒙書レベルではまだ世界の何処でも誰も ( ウッカリして ) やってないのかも知れない。

この一つ前の記事の中で、ちょっとだけこの鏡の左右の問題に触れてしまってるから、気になってる人もいるかもしれないので、ここでちゃんと一度、書いておくことにしよう。


実は、この記事のタイトルに書いてるように、鏡に映ってる自分の姿が左右反転してる・・・というのは完全に錯覚なのである。

鏡を見てる時、多くの人は鏡に映ってる自分の姿 ( 鏡像 ) を、実物をそのまま撮影した写真やテレビやビデオのモニター映像を見てる場合のように鏡の奥からこちらに向かい合ってる自分を想像して、その鏡の中の自分にとっての左右を考えて、鏡の中では左右が入れ替わってる・・・と勝手に想像してるのである。

ところがこのような想像は全くの錯覚で、鏡に映ってる自分は単なる鏡像で、実物でもビデオ映像でも写真でも無いから、左右は反転してないのである。

どういう事かと言うと、この錯覚の原因は 「 鏡を見てる自分が、勝手に鏡の奥からこっちを見てる鏡の中の自分という虚像の視点でその左右の手が虚像から見てどっちについてるか 」 をついつい考えてしまってる為に起きてる錯覚なのである。

つまり物事を判断する時には途中で視点 ( 立脚点 = 位置座標 ) をクルリと入れ替えてしまったら理屈の一貫性が無くなるから、最初の視点を保持したままで 「 自分の左右 」 と 「鏡に映る自分の左右 」 が、共に自分から見て左右どちらに在るか? ・・・という統一した視点で見ないといけないのである。

そうやって考えると、「 鏡に映る自分の右手 」 は ( 自分から見て ) 「 自分の実物の右手 」 と同じく自分の右側にあるワケで、鏡の中の自分の左右は上下と同じく入れ替わってなどおらず、右のものは右に、左のものは左にそのまま在る・・・ということになる。

鏡に映すと唯一反転するのは、前後 ( 奥行き ) であり、左右でも上下でもない。

それは何故か?

それは鏡が平面であって奥行きが無い為に、左右と上下方向の位置関係はそのまま対応する位置に反映して保持出来るものの、奥行きについてはそのまま保持出来ず、反転してしまうしか無いからである。

鏡に映る像は平面対称とも呼ばれるが、要するに 「 平面を境界として対称 」 なワケで、平面 = 2 次元だから 「 2 次元対称 」 だとも言える。

これが面ではなくて線を境界としての対称だと線対称。 これは例えば物体を軸 ( 線 ) の周りに 180 度回転させた時の対称と同じなので回転対称とも呼ばれるが、線 = 1 次元だから、 「 1 次元対称 」 となる。

境界が面でも線でもなくて点だと 「 点対称 」 、点 = 0 次元だから、 「 0 次元対称 」 である。

これを一般的に云うと、対称の境界が m 次元である 「 m 次元対称 」 は 0 次元 ~ m 次元の対象物まではソックリそのまま次元成分を反映させ得るが、 m 次元よりも大きな対象物については足りない次元成分が全部反転してしまう・・・ということが分かる。

 ( 実際に立体物を 0 次元 = 点対称に作図してみれば、タテ、ヨコ、高さ、の総てが反転するだろう。 )

表題の鏡の場合には、その足りない次元が奥行きの次元だから、前後だけが反転して他が自分から見てそのままに映るのである。


ついでに言うと 「 鏡文字の左右反転 」 現象も、実際には紙に書いた文字を鏡に映す時、多くの人は書いた紙を 「 左右に裏返して 」 鏡に向けるから 「 左右反転 」 するだけの事であり、もしも 「 上下に裏返して 」 鏡に向けるなら 「 鏡文字は上下反転し、左右反転などは一切、起きない 」 のである。

つまり 「 鏡文字の反転 」 も実は唯の錯覚で、その反転は 「 鏡に向けようとする人為的な反転操作の反映 」 でしかない。

そこでも、実際に起きてるのは、「 前後の反転 」 だけなのである。






尚、以下は、この記事の元になったメモである。

( 哲学 ) ( 2003.1.31. 記 )
次元対称性または n 次元空間内 m 次元対称性という概念

 0 次元対称 1 次元対称 2 次元対称 ・・・ 更に、3 次元対称 m 次元対称

 鏡像は 3 次元空間内の 2 次元対称であるがゆえに左右の反転はない。