諦観 ~そして伝説へ 序章~
♪ランランララランランラン ランランラララン
ランランランララランランラン ララララランランラン♪
誰もが一度は見たであろうジブリ作品。
これは、「風の谷のナウシカ」の中で流れる『ナウシカレクイエム』だ。
そして俺は世界でも数人と言われる、ナウシカレクイエムをスクリーンではなく、現実世界で聞いた男なのだ。
あれは俺が高校3年も終わりを迎えようとする頃だった・・・
俺とシン、勇者M、そしてもう一人の友人Oの4人組は、中学時代から一緒になって旅行に行っていた。このメンバーが集えば極寒の地も熱帯と化す。
そんな俺たちを人は“レギュラー”と呼んだんだ。
そして高3の冬、晴れて4人とも大学進学が決まり、卒業旅行をかねた最後の祭りを開くことに。
決めた先は、信濃平。そう、スノボだ。(実は中学3年から旅行はずっと冬の山)
みな免許など持っているはずも無く、もちろん自家用車では行けない。
まして貧乏性の俺たちは電車なんて使わない。
俺たちはいつだって深夜バスで弾丸ツアーが信条だから。
今回ももちろん深夜バス。
この時俺は自分がこれから伝説を築き上げることなど微塵も感じていなかった。
毎度のように新宿に集合し、バスに乗り込む俺たち。
その後バスは何事も無く、快調に目的地へと走っていた。
ただ一つ、冷房が効きすぎていたことを除いては。
とは言っても、おなかを丁寧にガードしていれば問題の無いレベル。
当然のように俺は上着を腹にかけて腹痛対策も万全。
横には同じようにシンも腹ガード。
こやつもか。
ふと目線が交わる。
揃いも揃って難儀な胃腸を持ったもんだ。
無言の中にそんな微笑ましい会話が成立する。
やがてサービスエリアに到着し、各自トイレ休憩。
俺は冷えた体を温めるために、HOTミルクティーを飲む。
「お前、そんなん飲んだら腹くだすぞ?」
とシン。
「平気平気。だってさみぃんだもんよ。」
と俺。
この時も俺はその後に待ち受ける伝説を予想だにしていなかった。
HOTミルクティーを飲んでも便意は全く起こらなかった俺は、そのままバスへと乗り込んだ。
時刻は深夜1時を回っている。
今まで友人と話していた周りの乗客も眠りにつきだす。
俺も例外なく眠りについた。そしてシンも。
起きる頃には目的地へと着いていることだろう。
・・・
・・・・
・・・・・
ドコン
!!!
安眠も束の間。
ヤツはこちらが身構える前に襲い掛かってきた。
なんだ、これ、腹が、すげぇ、いてぇ。
それはそれは驚きの痛さだった。
つい今しがたまで心地よい眠りについていたはずなのに何故!?
答えはすぐ横の虚弱兄弟が握っていた。
なんと、今まで微妙にシンよりだった冷房の向きが見事なまでに俺の腹に照準をつけているではないか。
どういうことだ?
けど、今はそんなことはどうでもいい。過ぎたことは仕方が無い。
今は目の前のモンスターに集中しなければ。
ズンドコズンドコ
ヤツのギアが“ドコン”から“ズンドコ”へシフトアップ。
や、やばい。意識が朦朧として。。。
とても一人じゃ耐えられない、仲間が、旅の仲間が必要だ。
「なぁ、シン起きろよ。なぁってば。」
顔面蒼白でシンを揺する俺。
「なんだよ、うるせぇな。静かにしろよ。」
鬱陶しそうに目を開けるシン。
「違うんだよ、そんなんじゃねぇんだって。」
何が違うのか分からない。必死になるとはこういうことを言うのだろう。
「違うって、何がだよ?」
当然のツッコミ。
俺「は、腹がいてぇんだ。それも過去最高に。」
シン「は!?お前マジで??だからミルクティー飲むなって言っただろ。」
俺「あ、あん時は大丈夫だったんだよ。それよりどうしよう?」
シン「どうしようったってお前。もう休憩所ないぞ。」
俺「あぁ~、や、やばい、俺もうダメかも。」
シン「ダメって、お前、ここバスん中だぞ!?」
俺「知ってるよ、でも、ど、どうしたらいいかな?」
シン「そうか、じゃあ、とりあえず運転手さんのとこ行ってこい。」
俺「え? む、無理だよ。シン、お前行ってきてくれよ。」
シン「はぁ!? やだよ。ほら、行ってこい。すぐだよ。」
俺「う、うん。そうだな。分かった」
俺「す、すいませーん」
人は極限に陥ると、えてして不可解な行動を起こすものだ。
シン「ば、バカ! なんでこっから呼ぶんだよ!?」
俺「え?まずかったか?」
シン「当たり前だろ! みんな寝てるんだよ。」
俺「そ、そうだな。 うん、ちょっと楽になったから行ってくる。」
ふらふらとした足取りで運転席へと向かう俺。
なんとか一人の運転手さんに事情を話すと(深夜バスは二人の運転手さんが交代で運転しているのです)、慌ててどこかトイレのありそうな場所を見つけて止めろともう一人に催促してくれた。
この時点でヤツがすでに肛門から顔をのぞかせている。
運転手A「ばかやろう!今トイレありそうなとこあったじゃねぇか!」
運転手B「そんなこと言ったってすぐには止まれねぇよ!」
やめて!私のことで争わないで!!
俺が女の子だったら間違いなくこのセリフがピッタリだったろう。
A「君、大丈夫か?まだ持つか??」
俺「いや、もうそろそろ限界です。」
A「なんだって!? おい、B! どこでもいいから止めてやれ!」
俺「もうトイレとか無くてもいいんで。。」
(お願いします。ウチの子を助けてやってください。)
遠く千葉の実家から聞こえるはずもない母の声。
あぁ、ママン。大好きだよ。
でもね、僕、もう、ダメみたいなんだ。
ごめんね、こんな愚息を許してね。。。
ブリッ・・・・・
俺「あの、運転手さん。もうここでいいです。降ろしてください。」
A「え?? 君。。まさか。。。」
俺「はい、出ちゃいました。」
A「そうか。分かった。 おい、B、ここでいい。止めてあげろ。」
高3にして深夜のバスで脱糞。
俺は涙を呑んで、バスを降りた。
そしてあの歌が長野の大地にこだましたんだ。
ランランララランランラン ランランラララン・・♪
古き言い伝えはまことじゃった。
『その者、蒼き衣をまといて金色の野に降りたたん』
ババさま?ケイさまが行っちゃうよ?
いいんじゃよ、お前もしっかりと見ておくんだよ。
あのお方こそ言い伝えにあった、伝説のその人。
雪の山のウマシカなのじゃから。
しかし伝説はまだ終わらない。
次の記事で、俺が長野の大地で見た光景が蘇る。
そして君は知るだろう。漢の降誕の歴史を。
ケイ