woman let me be. | 禁煙猿

woman let me be.

地下鉄C線。車内は比較的空いている。
若い女が俺の前に坐った。いい女だ。タイトスカートの淡いクリーム色のスーツ。髪はかわいらしくまとめている。いわゆるEBIちゃん風なんだろう。でも品がない。だから色っぽいのかもしれない。はすっぱ。柔らかそうである。そして坐り方。太ももがゆるい。かといって眠っているわけではない(当たり前だ)。

ふと目をやる。相手も俺を見る。そしてしばらく俺をじっと見つめたかと思うと、女は、すこしずつとても自然に、太腿を開き始めた。かといって下着が見えるほどではない。太腿の奥のほうがやっと見えるくらい。体を少し斜めに傾けて、さらに脚を開いていく。しかし女は体を傾けているので、俺の方からはやはり見えそうで見えない。女はガムをくちゃくちゃかみながら、あごを少し下げ、斜め上方を眺めるように、俺を見つめる。俺が女を見つめると、女はふと恥らったように下を向く。しかし、まあ、ただの身振りである。もちろん。脚はそのままだ。

そのうち、わざとらしく、いったんシートの奥のほうに尻を押しやり、スカートの中を一瞬見せ、何度か脚を組み替えた。女は俺が彼女を見ていることを当然知っているのだ。もうここまでくれば、えい侭よ。これはゲームなのだ。俺は彼女を見つめていた。いったいどういう表情をして女はこれほどまでに『女』になるのか。俺は興味深かったのだ。そして冷静でありながら、俺も男だった。いかん。彼女は俺をからかっているのか、それとも誘っているのか。どちらでもかまわない。たぶん、彼女にしてみれば自然に身についた素振りなのかもしれない。女であることに、男に嘗め回されるように見られることに慣れた行為。俺はそのうち、眼と目の間の頭の奥のほうがじーんとしてくるのを感じた。それと同時に下っ腹が少し疼く。しかし、こんなことでは大事にはならない。こんなことで大事になっていたら身が持たない。

性欲(というか肉欲だな、これは)というのは不思議なものである。俺は猛烈にタバコが吸いたくなった。しかし今日はあいにくタバコを持ち歩いていない。頭の中でわけの分からぬエネルギーがうよんうよん動き回っている。俺は途中で電車を降り、空と光を求めて地下から逃れた。女は勝ち誇ったかのように、過ぎ行く電車の窓から俺を見ていた。

なぜこうしたときにタバコが吸いたくなるのだろうか。
性的な衝動がかなえられることのできないストレスを代償しようとしているのかもしれないし、単に喫煙者が何かと吸う理由をつけているだけかもしれない。まったくこれでは、麻薬中毒者の告白である。

W・バロウズが求めた自由、感じていた不自由。
それが俺にはわかるか?

俺は不自由だ。それだけは言える。