藤崎翔さんの「逆転美人」を読みました
美人に生まれた香織(仮名)は、幼いころから何度も誘拐されそうになったり、いじめの標的になったり、苦労が絶えません
顔がかわいいだけで、それをハンドリングする才能が完全に欠如していたために、人生をプラスに持っていくことができず、告白してきた男子もすぐに「なんか違う」と言って去ってしまうし、タレントやモデルになることもできません
流されるままにキャバに勤め始め、あっという間にナンバーワンになっても、親しげに近寄ってきた先輩からマルチ商法の食い物にされてしまいます
いろいろあった結果、結婚した相手も2人の子を残して焼死
果てには、父が自動車事故を起こして即死するとともに、同乗していた長女が下半身麻痺になってしまいます
さらには、長女に勉強を教えに来てくれていた教師から眠り薬を飲まされて襲われそうに
そのような不幸しかない人生について、香織は「逆転美人」というタイトルで手記を発表します
そう、香織の手記が作中作の形をとっているのが本作なのです
本作の作者はお笑い芸人をしていたことがあるそうで、何度も誘拐されそうになった香織が同級生の男の子たちから同情されるのではなく「ピーチ姫かよ」とからかわれるところや、同級生の女の子からいじめられないようにするために学校で一目置かれている男子生徒と交際し、振られてもすぐに次の男子に庇護を受けるようにしていたことを「戦国武将の娘のよう」といったりするところには、思わず笑いました
メイントリックは、もちろん作中作という形式から生まれるパターンであって、読者を驚かせるには十分でした
その点がネットで評判になっている雰囲気はあるのに、あまり玄人筋で評価されていない気がするのは、出版社のあおり文句に原因があるのかもしれません
「文学史に残る伝説級超絶トリック」なんて、あまりに愚かで失礼すぎるのです
ミステリ好きなら、本書のトリックにはとっくに某大作家による著名な先例があることをみな知っています
こないだの「スノーバウンド」にだって、その方向性はあったし
キャッチコピーが、せっかくの作品の足を引っ張ってしまいましたね