□ 石田波郷第七句集『酒中花』Ⅱ(44)

(「水中花・四十雀」より)

全病棟生れず死なずクリスマス

季語は、「クリスマス」で、仲冬。

クリスマスの12月25日。病棟では、新しい命が誕生して喜びに湧くことはなかったが、誰も亡くなる者もなかった。おおむね、平穏なクリスマスだった、ということでしょう。クリスマスという特別な日に、不幸がなかったことを何より良かったという思い。

塩鮭のからき涙やクリスマス

季語は、「クリスマス」で、仲冬。
「塩鮭(しほざけ)」も季語で、三冬。

塩鮭が塩辛いことは当然です。では、いったいここでなぜ涙なのか? 塩鮭を口に入れたとき塩味を感じ、自分がまた生きのびて、こうしてクリスマスの朝の食事をいただいているという感慨に波郷は思わず瞼を熱くしてしまったということでしょう。波郷自身は、クリスチャンではないのですが、おのずと神に対する感謝の気持ちが湧いてきたのかもしれません。長きにわたる入院生活で、波郷の感受性は極めて繊細なものになっていたとも言えます。

似て非なる聖燭ひとつ病室に

季語らしい季語がありませんが、聖燭(せいしょく)という語が、クリスマスであることを暗示しています。

聖燭に似てはいるが聖燭とは言えない蝋燭が一本、病室にある、という句意ですね。その蝋燭に火が点されれば、殺風景な病室もクリスマスの雰囲気になったことでしょう。似て非なる、にわか信仰者である波郷もまた、その蝋燭の火に心極まるものがあったのでしょう。

蜜柑買ふ女患馬穴を天降らせて

季語は、「蜜柑(みかん)」で、三冬。

蜜柑と言えば、普通、温州蜜柑のことです。「馬穴」は「馬尻」とも書きますが、けっきょく「バケツ」のこと。

景がやや分かり難いのですが、女性の患者が病棟で蜜柑を買ったのだけれど、それがバケツをひっくり返すほどに大量の購入をしたということだと思います、その様子は、バケツから天を降らせたようだったと少しオーバーに描写した句でしょう。滑稽味を感じる句です。

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梅雨の雷ピアノ講師の声高し  森器

七夕に飯の少なきバラ散し食細かりし昔をおもふ


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暑いです。

昨日、わが町の最高気温は38℃。

その暑さの中を病院に行ったのですが、「病院に行かない方が健康にはよかったのではないか」とさえ思いました。

これでも梅雨明けではないのでしょうか? 

とにかくこの猛暑が続くようでしたら、不要な外出は控えた方がよいですね。

どうか皆様もご自愛のほどを。 


拙作、拙文をお読みくださり
ありがとうございました。