Fate/All cut 二話 | ドールズ・エンド・ホール

Fate/All cut 二話

楓子…病弱ヒロイン属性を持つヒロイン。実質最強。


クーフーリン…彼こそは兄貴。


お嬢ちゃん…一体名前はいつ明かされるのか。


青年の死徒…実はワカメだったりする。


思考の一点集中…こんな頭の悪そうな名前ならそんなスキルいらない。



一応外行き用の衣服に着替えてきたものの、それでも夜風が寒い。

「ん、来たか。」

 彼は、マンションの自動ドアを出て、すぐのところで待っていた。…槍を振り回しながら。

「…そんなことしてたら、銃刀所持法違反で捕まるよ。」

 男は、心外そうな顔をし、

「俺がつかまるわけないだろ、ただの人間に。」

 それはそうかもしれないが、そういう問題ではないと思うのだが…。

「それに、今他の奴に構ってる暇があるやつなんていねぇよ。」

 それは、どういうことだろう。今は深夜帯だから、あまり人がいない、という意味か。

「嬢ちゃん、まさか自分だけに、あんな不幸が降りかかったと思ってねぇだろうな?」

「へ?え、あ、いや、どうなんだろう…。」

 そこまで、頭が回っていなかった。

 男は呆れたような顔をする。

「ったく、呑気だな。この街の中ほとんどの人間が、多分もう死んでるぞ。」

「――――――――――!!

「正確には、死徒化か。嬢ちゃんの親みたいな状態になってるってことだ。」

 それは、まずい。それだけは、まずい。だとすると、あの子も…!!

 顔が青ざめていくのが自分で感じられる。

「おい、どうした、嬢ちゃん。」

 ただならぬ私の様子を察したのか、男がそう問うた。

 しかし、それに答えてる暇はない。時間は、一刻を争うのだ。

 私は、無我夢中で病院に向かって駆け出した。

 夜道は言うまでもなく暗く、いつもの私なら怖くて、とてもじゃないが歩けるモノじゃない。ただ、今に限ってそれを気にしている暇はない。あの子が、あの子が危機にさらされているのだ。

 道中に、車や人は見当たらない。やはりあの男の言うとおり、この街はもう。いや、そうだとしても、私は病院に行かなければ。

 息が上がる。体が重い。だけど、まだ間に合うかもしれないじゃないか。

 息は大分乱れたが、ペースは乱すことなく走り続け、病院の前まで辿り着いた。

「……?」

 今、何か踏んだような。なにか、ぐちゃっとした物を。

「気にしてる場合か…!」

 私は自分にそう言い聞かせ、自動ドアの中へと足を踏み入れる。

 確か、あの子の病室は五階だ。エレベーターがすぐ前にあったが、今は八階にあるようで、待ってる暇はない。諦めて隣の階段を上る。

 急がなきゃ。急がなきゃ。

そして、五階に辿り着く。出て、真ん中の病室へ。

私は、扉を開けて、

「楓子!」

 とあの子の名前を叫んだ。

 …いない、いない、いない!

 何故だ、あの子は、何故ここに、いないんだ。

 部屋を見回すと、窓が開いているのが分かった。

 まさか。

 ゆっくりと、窓に近づく。顔を外にだし、下をのぞく。そして、下には―――――――――――――――。

    グチャグチャの、楓子がいた。

 遠目からでもわかる。あれは、楓子だ。死徒に窓際までおいつめられて、足をすべらせたのだろう。

目から何かがこぼれ出す。…熱い。さっき来たときに踏んだものは、やはり、やはり、ああ。

 後ろで、キィという音がした。誰だろう。

 振り向くと、そこには目に血をたぎらせた青年がいた。ゆらりと、近づいてくる。

「…なんだ、死徒だっけ?やめといたほうがいいよ。」

 私は今、やばいから。

 多分、楓子を喰おうとして、窓際に追い詰めた奴はとっくに血を求め外へ行ったのだろうが、しかし、私は、こいつらを許せない。

どうやら、死徒に言葉は通じないようで、私に向かってゆらりゆらりと歩いてくる。

「…しょうがない、殺す。」

 いや、もう死んでるのか。

 ただの一般人たる私が、あの半不死身の化け物に勝てる筈はないのだろうが。それでも、殺れる気がする。

 私は、鞄の中に非常用にと入れておいたナイフを取り出す。ケースから抜き取り、少し前かがみになる形で構える。

 狙うのは、首の切断だ。少なくとも、頭さえ取ってしまえば噛みつかれることはなくなるだろう。

 思考を一点に集中させる。首の切断ということに。

 ゆらりとまた相手が一歩近づいた。

 次の瞬間、私は自分の主導権を捨てた。「首の切断」という信号だけを送り込み、意識をシャウトする。

 流れるように手と足が動き、ナイフの刃が死徒の左の首筋に当たる。そして、その右へとナイフを、振りぬいた。

 そこで私は、意識をシャウトしていたのを戻した。これだけの短い動作で、終わる。それは、復讐というには余りにも呆気なかった。

 死徒の首から上が地面に落ちるのとほぼ同時に、赤い液体が飛び散る。当然、返り血を浴びることとなる。

 …妙に現実味がなく、ソレは、私がやったのかどうかもあやしいくらいだった。

 それっきり死徒は動かなくなり、私はナイフを手から落とした。