さよなら | ジレンマ∞ハピネス

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悩まぬ者、進むべからず。

道路の区画整理で、その文房具屋は狭くなった。


むかしむかしは、下駄や駄菓子も売っていたらしい。

いつのまにか文房具だけとなり、

近所の人は、ツタヤや大きいデパートでそれらを買うようになった。

それでもまだ、その文房具屋は田舎に小さく佇んでいる。



実家は玄関がない。
自宅兼店が玄関だ。
店の脇に下駄箱がある。
2畳ほどしかない店は、一日客が来ないこともザラ。

あがってすぐの引き戸を開けると居間がある。
もしお客が来てもすぐに分かる。
区画整理が入る前は、もっとわかりやすい造りだったけど。


狭い台所は使い勝手が悪く、母はいつも文句を言っている。
お風呂も狭い。

足なんて一度も伸ばしたことがない。

風呂場と台所の間にある階段を登ってすぐが私の部屋。
奥が両親の部屋。
私の部屋には、

マンガ好きの母子のための大きな本棚がある。
勉強机はテスト3日前から活用する。
両親の部屋は小さなテレビと鏡台、タンスがふたつ。


階段を降りてすぐの廊下の壁に貼られたカレンダー。

それをめくると穴がぽっかりと見える。

高校のときに開けてしまった、唯一の私の怒りの軌跡。

台所の窓から小学校が見える。
夕食を作りながら、

遊具で遊ぶ小学生を見るのが母の日課だ。


母と一緒に越してきた家。

祖母が認知症になり家族が荒れた家。

大学進学で両親だけになった家。


正月の里帰りを終えて、家はなくなる。

次の帰省は、新築の匂いでいっぱいだ。

歳を考えたら、建てかえはいい判断だ。

さよなら。

懐かしい景色や大好きな風景は、いつか変わる。