“縁”っていいですね。



昨日の飲み会で改めてそう思いましたよ。



昨日は知り合いの子の送別会で二次会まで行ってしまいました。



楽しかったですよ。



感動しましたし。



そこは“縁”の繋がりで集まった人たちばかりで、基本私は人見知りなのですが、かまわず初めての人たちとも話したり、番号交換したりと、いやぁ~InBan頑張ったね。










『世界の終わりを、キミと…』


19.



俺は今、カナと一緒にいる。


でも、カナには当然ながら俺が見えないから、俺は今あの天使の力を借りてサチの体を通してカナと話をする。



俺はあの時、カナを失ってしまった現実に耐えられなくて自殺した。


だが、あの時言えなかった言葉はまだカナに伝えていない。



だから、サチの体を借りて今、ここに居るのだ。



たった、一言。


「愛してる」と言うために。





暖かな風に吹かれて、カナは長い髪を揺らした。


「話って何?サチちゃん」


カナはくるりとサチのほうに向きなって言った。



一面海を見渡せる丘は夕日がとてもキレイだ。


その夕日を見るためだけにここへ来た事もあった。


耳を澄まさなくても聞こえる波の音や、海鳥の声を聞いていると穏やかな気持ちになれた。


今もそういう気持ちだった。


サチの鼓動を聞いていると、生きていることを証明している。



「あ…あのカナさん結婚するんですか?」


俺はカナの指の指輪を見て、結婚するのかと思い、質問した。


「え?」


カナは驚いて聞いた。


「だって指輪してましたから」


「ああ。これね。そうなの。今年の冬に式を挙げるわ。でも…」


と、カナはなんと車のダッシュボードからもうひとつの指輪を取り出した。


「そ…」



と、俺はそこで声を大きくしてしまったが、冷静に戻った。


「それはなんですか?」



その指輪は俺がこの丘でカナにあげたものだったからだ



「アタシいつもこの指輪を持ち歩いてるの。サチちゃんに見せたくて。これはね、哲朗がこの丘でアタシにくれたのもなの。本当は、この海に捨てようと思っているんだけど、勇気が無くて…」



カナは困ったように笑った。



「ごめんな。サチちゃんの話ってなに?」


カナはサチに言った。


そうだ。


ここに来るために俺はカナに話があると言っていたのだ。


「はい。でも、私はカナさんの話を聞きたいです」


俺はカナが何を言うのか気になり、俺の話は後にした。


「そうね…ここまで話したから聞いてもらおうかな…」



カナは笑った。


「アタシね、哲朗が死んだって聞かされたとき、自分のせいだと思った。アタシが馬鹿だったから。アタシがもっと強く親を説得していれば、事故にあって哲朗を忘れる事もなかった。あんなに楽しかった事を忘れる事も…」


カナの目から涙が出てきた。


「アタシ、あんなに好きだった哲朗を忘れた自分が嫌い。許せない!!」



カナは俺の事を思い出してくれていた。


そして、それからずっと自分を責めていたのだ。



「ごめんなさいね。サチちゃんには何を言っているのか分からないわよね。なんでサチちゃんにこんな話…」


カナは涙を拭いて海の方へ向きを変えた。


大きく伸びをした。



俺は知っている。



カナは泣いている。


カナのクセは自分の泣き顔を相手に見せないようにして泣くこと。


俺は生きていた時、カナが落ち着くまでずっと髪を撫でてあげていた。



俺はもうサチのフリをするのをやめた。



ここまで来たのだ。


今、思いを伝えるときだと思った。



「カナ…」


「え?」



カナは驚いている。



しかし、俺は続ける。


「いいんだ。そのままで聞いて欲しい」


カナはサチを背にして俺の言葉を聞いている。


「俺はずっとカナは俺のことを忘れているのだと思っていた。でも、ちゃんと思い出してくれていたんだな。俺はそれだけで嬉しかったよ。なにも自分を責める事はないんだ。安心して自分の道を進んで欲しい」



カナは肩を震わせている。


俺はサチの声を通してしかカナに思いを伝えられない。



歯がゆい気持ちと、伝えたいという気持ちは同じくらい大きかった。



「俺は忘れない。だからカナも一年の間に一回でもいいから俺の事を思い出して欲しい。俺とここに居たこと。俺と話してたってこと」



俺は言いながら声が震えていた。



きっと泣きそうになっているのだ。



この後の言葉が言えない。


言ってしまったら俺は認めてしまう。



死んでしまったことを。



なんであの時、あのビルから俺は…飛び降りてしまったのだろう。



「俺は…」


『哲朗』



天使が俺の方を押した。



「俺はもう、この世に居ないから…もう、カナと一緒に居られないから」



「てつ…ろう」



「でも、生まれ変わってカナに会いに行く。だから、カナは幸せになっていて欲しい」


生まれ変わると言った。



天使が言った言葉を。



「哲朗!!!」



カナが振り向いた。


俺はサチの体を通してカナを抱きしめた。



「カナ…」



「なに?」


「俺があげたあの指輪。貸してもらっていい?」



俺はカナが握り締めている手から指輪を受け取った。


「これは俺が持って行く。カナはその新しい指輪を大事にして」



俺はカナの新しい指輪を一回撫でた。



「今の彼は良いやつ?」


カナは俺の胸に顔を預けたまま答える。


「哲朗なんかよりも、ブサイクだし…背だって低いし…」


「それで?」



俺はかなからこの後の言葉が聞きたかった。



「良いやつよ。哲朗なんかよりもずっと…」


「良かった。これで安心して逝ける」



「哲朗…」


震えた声でカナが俺の名前を呼ぶ。


俺は伝えたかった言葉をカナに伝える。



「最後にカナの声が聞けて良かった。あの時のことはカナ、お前が悪いんじゃない。誰も悪くないんだ。だから自分を責めないで欲しい」



カナの髪に指を入れると、するりと指が髪から抜けていく。


「あと、最後にひとつ」


俺はあの時に質問をした。


丘の上でカナが俺にした質問だ。



「明日世界が終るとしたら、カナは誰と居たい?」


ああ。


もう日が沈もうとしている。


俺の体も消えようとしている。



残酷だな。


この手の届くところにカナが居るのに。



「当たり前じゃん。哲朗とだよ」


「カナ…」



カナを抱きしめる手に力が入ってしまう。


「照れるね」


「ばか…」



「じゃあな。カナ、幸せに」



カナの目を見た。



カナもサチの目を見た。


静かに頷く。



カナはサチの体を通して、俺は感じてくれたに違いない。


「カナ。愛している。どうか幸せでいて」


俺は言えなかった言葉をカナに伝えた。




今まで向き合えなかったこと。


苦しくて、切なくて、忘れたいと思っていた過去は、現実となって消化できただろうか。



自分の墓の前で、貴志と会ったとき、貴志の話を聞いたとき、そのときからきっと俺の時間は動いていたのかもしれない。



俺は生きている時、自分とあまり向き合えていなかった。



ああ。


いいもんだな、向き合うっていうのも。



「哲朗。アタシはまだ哲朗に言い足りない事がたくさんあるの。ありがとうって…」



「カナさん」


「サ…チちゃん」


俺はサチの体から抜け、カナを見ている。



カナはサチに戻ったのを見て、きょとんとした。


俺がサチの体を使えていた時間は終った。



サチはカナに言った。



「哲郎さんはイジメられていた私にもたくさんの勇気をくれました。私は言っても言っても言い足りないくらいの、たくさんありがとうって言いたいです。そんな哲郎さんに愛されたカナさんは幸せ者です」



カナは照れ笑いをした。


「哲朗はまだそこに居るかしら?」


「居るわよ。聞いて自慢しているわ。俺の彼女いいやつだろって」



サチに言われ、カナは俺を探しているようにキョロキョロしていた。


俺はそんなカナをサチの隣で見ている。



「居たらこう伝えて。アタシ哲朗の分も幸せになるって。だから、生まれ変わったら会いに来てって」


「ええ。伝えるわ。っていうか、聞いているわ」


「あはは。そうね」


サチは笑った。


暖かな風が吹く。



「サチちゃん」



カナが車のドアを開けて待っている。


「カナさん。実は私今日退院の日なんです」



「え!そうなの?おめでとう。ごめんなさい、アタシ知らないで…」


「いいえ。いいんです。病院母に連絡して荷物を全部持って帰ってもらい、私はここから帰ります」



サチは母親にカナと出かけてから帰ると言った。


母親はカナが一緒ならいいかと、荷物を持って帰ってくれると言った。



「アタシはまたリハビリに励むわ。サチちゃん元気で。最初は哲朗が居るって信じられなかったけど、哲朗はいつもサチちゃんと居たのね。夢みたいだったわ」


二人は握手をして別れた。



サチはカナの車が見えなくなるまで見送った。



そろそろ夏を迎えようとしている草花が暖かな風に吹かれて揺れているこの丘を、サチの目にも焼きついたらいいと思った。







はい。



次回はとうとう最終章です。




バイバInBan。