え?何しにわざわざ伊豆まで行ったって?


「そうですよ。InBanさんは静岡二回目じゃないですか。確か去年の夏にも行ってますし」


はい。


あのですね、伊勢えびラーメンが食べたかったんですよ。



「あ~あの、わずか十分で食べたっていう」


ええ。


バスの時間がおしてたんで……A=´、`=)ゞ



私はその日、パンフレットで伊勢えびラーメンを見てこれは食べなきゃいかん!と思い、味覚の準備を整えた。


味噌ベースにエビの香りがマッチしたそのラーメンを食べないと、きっと、私は哲朗のように彷徨うことになると思ったんで。



もちろん、バスの時間もあるので、急いで食べましたがスープもエビもきれいに食べましたよ。








『世界の終わりを、キミと…』



15.



「(え?どうしたの?哲朗)」


『どうして?』


そこにいたのは紛れもなくカナだった。


公園にはたくさんの人がいるが、その中で俺はしっかりとカナを見つけてしまった。


カナは麻痺した右手のリハビリをしているところだった。



「(哲朗?)」


サチに名前を呼ばれるまで俺はカナを見ていた。


なんで、カナがここにいるのでしょう。



『ああ。カナだ』


そう言って、カナをもう一度見た。



これも運命なのか。



カナの病院は貴志から俺が来れないように俺が退院して少ししてから違う病院に移されたと聞いている。


だから俺はカナのいる病院を知らない。


むしろ、カナはもう退院しているかも知れないと思っていた。


まさか、サチと一緒の病院にいたなんて。




「(哲朗、大丈夫?)」


サチが心配そうに声を掛けた。


あれから俺はカナのことばかり考えている。


もともと、サチとの思い出を作るために天使から時間をもらったというのに。


『ごめんな。サチ』


「(哲朗。カナさんのことを考えてるでしょう)」


『ヤキモチか?サチ~』


俺は確信をつかれ、おどけて見せたが、ハラハラしていた。


『カナのことはいいんだ。終った事だから。俺はサチとこの限られた時間をどう過ごすかを考えるから』



そうだ。


俺は今のことに集中しなければいけない。


サチとも、この世ともあと五日でお別れなのだから。


「(哲朗。今日はどこも行かないわ)」


サチがきっぱりと言った。


『いいのか?退屈じゃないか?』


「(ええ。今日は哲朗がたくさんお話をしてくれるから)」


『え?そうなの?じゃあ…何の話がいいかな


俺はサチの突然のフリに戸惑ってしまったが、今はサチのどんな注文にも答えてあげたかった。


「(哲朗の高校生の時の話がいいわ。私くらいのとき哲朗がどう過ごしていたか気になるの)」


『高校生の時か…あんまり覚えてないんだよな。本当に生きていた時のことって途切れ途切れにしか思い出せなくて。なんかあったかな』



サチは俺の言葉を待っている。


俺はなるべく何か思い出してあげたかったので必死に記憶の糸を辿った。


『そうだ。ストーカーされたときの話をしよう』


「(ストーカー?哲朗の時もそういう言葉あったの?)」


『まあ、その言葉自体なかったし、有名なことでもなかったけど当事もあったんだぜ』


サチは陽の当たる病室のベッドで陽の光を浴びながら俺の話を聞いている。


俺はサチの座っているベッドの隣で外の景色とサチの顔を交互に見ながら話す。


廊下では誰かの足音や機械の通る音が聞こえ、微かに消毒薬の香りもする。



俺は五感のうち、視覚と聴覚、嗅覚はまだ感じることが出来る。


『あれは俺が高校二年のときだった。俺はカラオケBOXでバイトをしてたんだけど、そこにいつも違う男と来る女がいてさ、結構年上なんだけど絶対遊ばれてるって感じの雰囲気でさ。たまに泣いてる事もあったんだよ。俺もおせっかいなんだか、興味本位だったんだかで言ったんだよ。「あんたそれで楽しいのか?」って。それがいけんかったんだな。それからめっきり女は来なくなったんだけど、どういうわけか、俺が自分を好きだと勘違いしたらしくて、待ち伏せするようになったんだよ』



そこまで言うと、サチは目を丸くして驚いていた。


初めてこんなことを聞いたからだろう。



『俺がバイトを上げる時間をどう調べたのか、その時間にいつも待ってるんだ。挙句の果てには郵便受けに使用済みの口紅とか歯ブラシとか入ってるし』



「(それでその人とはどうなったの?)」


『いや、ガツンと言ってやったよ。優しく言っても効果ないと思ったから。それからは何もされてない』


「(怖いわね。本当にそういう経験ある人いるのね)」


サチはしんみりと言った。


『なあ、俺もなんか聞いていい?』


「(なに?)」


『サチの初恋の話とかってないのか?』


俺がそう話すと、途端にサチは赤くなった。


『あるんだな。その反応は』


サチは最初は口をつぐんでいたが、俺が執拗に聞くので、根負けして話し出した。



「(私が中学生の時よ。二つ上の先輩にすごく憧れたの。同じ部活のキャプテンですごく頼りがいがあって、優しくて。多分私以外にもたくさんそういう気持ちの子はいたと思うわ)」


『告白とかはしなかったのか?もしかしたらOKだったかもよ。サチ可愛いんだし』


サチは大きく首を横に振って見せた。


「(そんな、とてもできないわ。みんなの憧れだったんですもの)」


ベッドの近くにあるサイドボードには昨日母親が置いて行った花とドーナツがある。


サチはそれを手にとって少し食べた。


甘い香りがする。


「(哲朗。ひとつ聞いていい?)」


少し、言おうか迷っていた様子のサチが言った。


『なに?』


「(哲朗はカナさんとどうやって知り合ったの?)」


『またカナのことかよ?いいじゃねえか』


俺はサチがカナのことに興味を持つことがイヤだった。


俺はサチとのこの時間と優先させたかった。


カナがこの病院にいるということは気になるが、気にしたところで仕方がない。


向こうは俺のことを覚えていないし、覚えていても俺はこの世にいないのだから。



「(教えてよ。哲朗)」


珍しくサチが聞くので、仕方なく答えることにした。


『カナとは合コンで知り合ったんだ』


不思議と俺はカナとの思い出は良く覚えている。



でも、思い出すと辛くなるので、忘れたフリをしていたが、サチがカナのことを聞くので俺の努力も意味が無い。


「(合コン?)」


サチが首をひねる。


ああ。サチは知らないだろうな。



『お見合いみたいなもんかな?』


多分全然違うものだと思うが、俺には合コンをサチでも分かるように説明する力がなかった。


太陽の光をたくさんもらってすくすく育った葉が風で揺れて涼しげな音を立てている。


その間から差し込む光でサチの病室は電気を点けていないのに明るかった。


『サチ。早く退院したいな』


俺はこんなに天気がいいのに、安静にしないといけないサチがかわいそうに思い言った。


「(私は、時間が止まってくれればいいのにって思うわ)」


サチが悲しい顔をした。


『そ…そりゃ俺だって、サチと一緒にいたいよ』


俺は無神経なことを言ったとフォローする言葉を言った。


「(ふふ。哲朗は優しいわね)」


サチが笑った。


サチは分かってくれているのだろうか。


俺たちの別れが近づいているのを。







はい。



今日はここまでとします。


PCのし過ぎなのか、目が痛いです。



視力がいいのがウリなのにぃぃぃぃぃ。



それでは気になる続きはまた次回。



バイバInBan。