この小説は思えば、一番最初に書いた人間が主人公の物語かもしれませんね。






『世界の終わりを、キミと…』






「もうすぐクリスマスだよ。哲朗はどうするの?」


そう言った志穂が「しまった!」という顔をしたので、俺はこうフォローした。



「大丈夫。俺はまた恋をするから。だってまだ俺、二十五歳だぜ」と。


「そうだよ。哲朗。今日どうする?泊まってく?」



貴志がそう言ってくれたが、俺は帰ることにした。


来月の今日はクリスマスだ。


街はすでに一足早いクリスマスに染まっていた。



「貴志。俺、そろそろ帰るな」


時刻はもうすぐ十二時になろうかという時間だった。



俺以外のみんなはそのまま貴志の家に泊まるらしい。



「哲朗。待って送る」


俺が帰ろうとしていると、貴志が走ってきた。



そして、最寄の駅まで送ると言った。



俺たちはエレベーターに乗り込んだ。



その中でずっと俺たちは無言だった。



俺の心は複雑だった。


皆で騒いでいた時は忘れられたことも、静かなエレベーターの中だと、どうしても思い出してしまう。




カナの主治医は言った。


記憶を取り戻す確率は少ないと。



そして、この方がカナにとって幸せな事なんだとも。


それは俺自身にとっても良い事なんだとも付け足した。



俺は主治医の言葉を受け取ったフリをするしかできなかった。



本当にカナがこのまま記憶を取り戻さないまま、他の誰かと結婚し、幸せに暮らしている時、果たして俺は素直に喜んでやることが出来るだろうか。



考えると不安で自信もなかった。




エレベーターは一階に着き、俺たちは夜風の吹く外へ出た。



その間も会話はなかった。



俺はまばたきもせず、何もないくらい道を眺めていた。



「哲朗。ちょっと座ろうぜ」


貴志は半分無理矢理俺をマンションの近くの公園のベンチに座らせた。



その公園はベンチしかない寂しい公園だった。


その一角だけが街灯で明るい。



貴志は座るとタバコを取り出し、火を点けた。


俺にもくれたが、俺は断わった。



「なあ。今日飲み会しないほうが良かったか?」


「え?なんでだ?」



貴志は下を向いた姿勢のまま質問した。


俺はその質問の内容が分からなかったので、聞き返した。



貴志はその後、俺の顔を見た。



その表情は俺が質問し返したのにも関わらず、俺の次の言葉を待っているようだった。


俺は急いで貴志の言った言葉の意図を考える事にした。



「いや…嬉しかったよ。ありがとう。こういう時、バカ騒ぎ出来る仲間っていいよな」



俺は、考えて、俺のことを考えてくれている貴志を案じて、何も心配はいらないという気持ちを表す言葉を返した。



いや、本当に嬉しかったからだ。



「なら、いいだけど。もし、お前が無理に元気な姿を装ってるのかと思って…なんて、聞いてみただけ」


貴志は最期の方には視線を地面に向けた。


確かに貴志の心配は当たっている。



俺はさっきも、今も元気な姿を装っている。



「貴志、俺、貴志がいてよかったと思ってるから。情けない話だけど、俺一人だったらきっと、ヘコんでたから」


不思議な雰囲気だった。



俺は貴志に素直な気持ちを話している。



きっと、初めてだと思う。



人に対して、こんなに素直に言うのは。



なのに、全然恥ずかしくなかった。



貴志は静かに俺の言葉を受け止めてくれている。



「俺はカナを失って本当に悲しかった。あの時、貴志…」


その続きを言えなかった。



“貴志の忠告に従っていたらこんな事にならなかったかもしれない。”



その言葉は貴志を傷つける。


「でも、好きだったからさ。きっと俺は好きっていう言葉で全て許されると思ってたんだろうな」



俺は自分で自分の言葉を聞いて、自暴自棄になっているのに気付いた。



貴志は相槌を打ちながら聞いている。



「なあ。貴志。カナはこのまま俺の事を思い出さないままの方がいいと思うか?」



「哲朗はどう思う?」


貴志は逆に質問した。


「俺は…このままの方がいいのかもしれないと思う。カナは俺のせいでこんなことになってしまったんだし。俺は加害者だ。思い出さないほうがいい」



「お前、それ本心じゃないだろ」


貴志はすでにタバコを二本吸っている。



「……」


図星だった。



「俺には何でも言ってくれていいんだからな。むしろ言って欲しいんだ。俺は友達だろ。弱音とか、愚痴とか言ってくれよ」



俺と貴志は本当に仲の良い親友だ。



お互い違う性格なので、学ぶ事も多かった。



それは友達や親友と言う言葉では言い表せない程だった。



カナと付き合うようになっても、貴志は良き相談相手だった。



貴志は俺の幸せを何よりも望んでくれていた。



だから今回の事も貴志は責任を感じているのだろう。



それというのも、俺が駆け落ちをすると言ったときも、反対したのは貴志だった。


俺たちのことを考えたからこその反対だった。


でも、俺はそんな貴志の反対を無視して、カナを連れ出した。



俺があの時貴志に言えなかったのはそのことがあったからだ。



「貴志。ありがとうな」


今の俺に貴志を安心させる言葉はそれしかなかった。



短いような長いような時間が経った。


「…じゃあ、そろそろ終電なくなりそうだから帰るな」



時刻は一時をまわっていた。



「哲朗!!」


貴志が呼び止めた。


「お前、大丈夫か?」



親友と言うのはなにか感じるものがあるのかもしれない。



「ああ。大丈夫だよ。じゃあまたな」



俺はそう言って、家へ帰った。



貴志。ごめんな。








それでは次回から本格的に話に入っていきます。



みなさん良い夢を。




バイバInBan。