お疲れ様。
InBanです。
突然ですが、私の相棒が昨日さらわれました。
これで実は二回目なんです。
今回は辛うじて阻止できました。
しかし、前回は見事にさらわれてしまい、取り返すのに3千円かかってしまいました。
でも、私の足となり、時には重い荷物を持ってくれ、ヘタレな男よりも活躍してくれた相棒なので、3千円くらい惜しくはありません。
はいっ!
自転車のことです。
来年も私のために働いて頂きたいものです。
それでは待ちに待った本題に入りたいと思います。
『今時純情』 ⑥
この観覧車は一周二十分もかかるので美保ちゃんと話をするのには充分だと思う。
でっも、さすがにまだ一回も男の子と付き合ったことのない美保ちゃんと話をするのは緊張してしまう。
だから強い味方の春姫がいるのだ。
良い年した大人の男が子供のしかも、幽霊の春姫に頼るなんて格好悪いが仕方ない。
俺だってまだまだ経験が浅いのだから。
観覧車乗り場はすごい混雑だった。
このほとんどがカップルなので、太一は歯を食いしばってくやしがっていた。
綾ちゃんもこのカップルの多さに驚いていた。
やっと俺たちの順番がきたのはそれから一時間後のことだった。
「やっと順番来たよ~。マジ罰ゲームかと思った…」
太一は肩を音が鳴るくらい回し、疲れた表情を見せた。
俺は美保ちゃんの気が変らないか心配だったが、俺は美保ちゃんと、太一は綾ちゃんと観覧車に乗ることになった。
「緊張しない?」
俺は目の前に座った美保ちゃんを気遣いながら言うと、美保ちゃんは思いのほか落ち着いた表情で頷いた。
それを見て俺も安心した。
「……」
しかし、それからしばらく沈黙が続いてしまった。
美保ちゃんはだんだん遠ざかって行く景色を楽しそうに見ていた。
でも、俺はその沈黙が嫌ではなかった。
『アツヤ!』
カップルだったらこういう時、隣同士で座るのだろう。
『アツヤ!!』
あの時もそうだった。
俺は景色を眺める美保ちゃんの横顔が好きだった。
透き通った白い肌に、キレイな鼻筋と長いまつげ。
『アツヤ!!!』
「(なんだよっ!春姫。さっきから)」
春姫があまりにもしつこく話し掛けるものだから、俺は応えざるを得なかった。
『話し掛けろ!何をしておるのじゃ』
観覧車はもうてっぺんまに到着するといったところまで差し掛かっていた。
「(話すったって何から話したらいいんだよ…美保ちゃんは男の人とあまり話したことないみたいだし、いつもみんなに話すみたいにはいかないだろ)」
分かっている。
春姫の言うとおり、美保ちゃんと話をする機会なんてそうないだろう。
これは良いチャンスなのだ。
というか、そのために観覧車に乗ったのだ。
「美保ちゃん、景色見るの好きなの?」
「え!?」
今まで景色を夢中といった様子の美保ちゃんが、ハッと我に返ったよう俺を見て言った。
「ええ…まあ。なんていうのかしら、私のクセなの」
「クセ?」
美保ちゃんは俺のほうに体が向くように座り直して話し始めた。
「私、前にアナタ…」
そう言ってから美保ちゃんは口ごもってしまった。
『アツヤ…。名前じゃ。美保に自己紹介しろ』
「あ!俺の事はアツヤでいいよ」
俺が春姫に言われ、改めて自己紹介すると、美保ちゃんは少し恥ずかしそうな顔をした。
「アツヤ君…?」
ヤバい。超かわいい。
美保ちゃんは少し首をかしげて俺の名前を呼んでくれた。
「で、なんだっけ?」
「ええ。それで私…アツヤ君に助けてもらったでしょう?その前も時々痴漢に遭っていたの。でも、私何も言えなくて、ずっと景色を見ていたの」
「それで景色を見ていたのか」
俺は納得したが、美保ちゃんは悲しい顔をした。
「ええ。景色を見ていれば、痴漢に遭った気持ちを紛らわせる事ができるし、痴漢に遭っている自分の顔を見られなく済むでしょう」
切ない話だった。
俺が好きだったあの横顔は、実は自分が痴漢に遭っている顔を隠すために付いてしまったクセだったなんて。
しかも、俺に遭う前から痴漢に遭っていたなんて。
「今まで男の人と付き合ったことないのはそれが理由だったりするの?」
「え?なんでそのことを?」
「綾ちゃんが言ってたんだ」
「うん…みんながそういう人ばかりじゃないことは分かっているけど」
「仕方ないよ。痴漢に遭ったら誰だって男性不信になるよ。俺だってなるもの」
俺は美保ちゃんが気まずくならない空気を作ることにした。
だって、自分が痴漢に遭ったということを俺に話すなんて、きっとものすごく勇樹がいることだったはず。
こんなことを思うのは美保ちゃんに失礼かもしれないけど、俺なんかに打ち明けてくれてうれしかった。
「ありがとうね。俺なんかに話してくれてさ。恥ずかしかったでしょ?」
俺は男で、痴漢に遭った事なんてないから、痴漢に遭って嫌な思いをしている子の気持ちは俺の想像以上だと思う。
なのに、まだ会って間もないこの俺にここまで打ち明けてくれた。
「ねえ、あの…美保ちゃんて呼んでいい?」
「え!あ…はい」
美保ちゃんは嬉しそうに笑った。
「俺の事は怖いと思う?ここでいうのもアレだけど」
こんな密室で言うと、美保ちゃんは意識してしまうかと怖かった気持ちはあったが、俺はハッキリさせたかった。
美保ちゃんの次の言葉がドキドキする。
なんて返ってくるのか。
「いいえ。アツヤ君は違うわ。怖いとは感じない。きちんと私のことを考えてくれているでしょう?水族館の時だって私に気を配っていたことも知っていたし、あの友達に話しかけられて困っているときも私を助けてくれたでしょう?」
俺はそれだけですごく嬉しかった。
言葉ひとつでこんなにも変るものなのかと思った。
『アツヤ。キスしろ』
「は!??」
春姫のお陰で俺は夢から覚めることができた。
でも、全然うれしくない。
『だって、お主。観覧車の頂上でキスするのは定番じゃろう?』
春姫は何を見たのか、どこで覚えたのか知らないが、恋人同士が頂上でキスをする光景を思い出し、俺たちにもそうしろと言ってきた。
だが、俺たちは今日初めて遊ぶ。
それに当然ながら恋人同士ではない。
「(キスはまだ早いだろ。今日の目的はキスじゃないの!)」
『ならもっと美保のことを知るように質問しろ』
春姫に言われ、俺は美保ちゃんともっと話をすることにした。
「あのさ、美保ちゃんは兄弟いるの?」
「私は一人っ子よ」
美保ちゃんは快く俺に応えてくれた。
「そうなんだ。しっかりしてそうだから長女かと思ったよ」
「アツヤ君は?」
美保ちゃんも質問した。
「俺は上に姉がいるんだ。もうやりたい放題の姉さんだよ」
「いいなあ。私もお姉さん欲しかった」
美保ちゃんは笑った。
俺は続けてもっと質問した。
「美保ちゃんは休日は何をしてるの?バイトとかしてる?」
「バイトはしてないの。休日はドライブとかしているかな。私好きなの。昼間でも夜でも好きな時間にドライブするのが」
美保ちゃんがドライブが好きなんて意外だった。
『どこにドライブに行くのか聞け』
春姫が俺を呷った。
「どこに行くの?」
「好きなところよ。車田と少し遠くても気軽に行けるものね」
『今度ドライブに誘え』
春姫が言う。
俺はさっきから春姫の言うとおりに話をしている。
ちょっとおもしろかった。
「じゃあさ、今度ドライブ行かない?」
さりげなく誘えた事に自分で自分を褒めてあげたかった。
すると美保ちゃんは笑顔で「行きたい」とOKしてくれた。
なんかアッサリだったので驚いてしまった。
「なんか私アツヤ君とだったら安心できるの。不思議ね」
美保ちゃんの笑顔は天使のようだった。
はい。
ここまで読んで下さった皆様。
お疲れ様でした。
アツヤ君。良かったですね。
次回は最終章です。
それではそれまで良い夢を。。。。。。
バイバInBan。