六話

俺は傷だらけで倒れていた。


頭を殴られた感覚が今となって波のように襲う。


七海は青い花柄のハンカチをスカートのポケットから取り出し、


俺のあちこちの傷を止血しようとしていた。


「どうしたの？こんなに傷を負って…！！」


「大丈夫だよ～。ここでの傷は現実世界で肉体には影響はないよ。」


リュウが杖をくるくる回して七海の横に立ち、静かな声で続けた。


「…ここでの傷は、心に傷がつくんだ。


傷ついた人の過去が傷つけた相手がわかるとか…心の中での自分は


自分が今まで積み重ねたいろんな過去、心情から形が成り立っているんだ。」


俺は慌てる。このままじゃ…！


「お前は真の姿になってないから余計にやばい。


無防備だ…早く逃げるんだ。そして心刀を探せ！」


「心の傷…」


七海がぽつりと言った。俺の傷をじっと見て。


「七海の心刀はここにあるよ。」


リュウが持ってる物…それに俺は眼を疑った。


リュウが左手に（右手は杖）持ってたのは剣。


しかも、二つある。


一つは透き通る水の色みたいな刀。


鋭く光るところは銀色に輝いていた


もうひとつの刀は、黒い…俺の銃の色みたいな漆黒の刀だ。


傾けると黒光りしていた。 


「…なんで、二つあるんだ？」


…凄く珍しいことだ。よほど二重人格とかじゃないと剣は二つにならない。


「…七海？お前二重人格なのか？馬鹿に見え…グハッ！！」


気がつくと七海は…泣いていた。


俺は右の頬を目一杯叩かれていた。


「…まず自分の体を心配しなさい！


馬鹿な私が器用な二重人格な訳ないでしょ。」


「まぁ…たしかに。」


「うぉーい！そこ納得して欲しくない！！なんかムカつく！


空気よんで（そんなことないよ）とか言うのが普通でしょ！


空気読め！このＫＹ！」


とかいいつつ、俺を起こさせてくれる七海。


涙を一生懸命に拭いて、笑ってた。


ピンク色の眼から零れる雫は七海の心刀の（水色の方）色をしていた。


「…あなたが悠を傷つけたの？」


俺がふらふらと自力で立つことができると、


七海はリュウをキッと睨んだ。


「いや～悠くんがわがままなもんだからさ。


あと、悠くん。しばらくは覚悟したほうががいいよ。」


「…？」


七海が睨んだまま理解しがたい表情をしている。


「…傷は今はあまり痛くないが、現実に戻ったときに…


嫌な記憶が引っ剥がされる感覚に襲われる。あとから酷くなるんだよ…


とくに夢の中だ。この傷だと今夜はひどそうだ。」


「ま、悠くんの過去は傷つつけたから少し見えちゃったけどね。」


灰色の眼を薄めて笑っているリュウ。


こいつ…めちゃめちゃムカつく。うぜぇ！


俺の…過去か。


「人の心を傷つける必要なんてないじゃん！なんで…」


フワッとリュウは七海の目の前に黒いマントをなびかせ、


飛んで七海の口の前で×を手で作った。


七海は口ごもる。


「はじめまして。七海。わたしはあなたの心の番人のリュウです。


あなたの心の鍵と言ってもいいでしょう。」


「リュ…ウ？」


…………………………………


この人…どっかでみたことある？


あらためてもう一度顔を確認する。