先週の日曜日の昼過ぎに、私はMTVを見ていた。
私は大の音楽好き。
以前所属していたバンドがインディースの契約をした、
というのが私の自慢だ。
最近は仕事が面白くなってきたので、中々音楽に触れられずにいた。
しかし、今日は仕事も一段落して時間もあったので、
思い出したように音楽に浸っていた。
それにしても、最近の音楽はつまらない。
商業音楽に染まりまくっている。
「音楽を使って金儲けしたい」という制作側と、
「音楽を使って有名になりたい」という歌手側のエゴが
TV画面の隅々にまで垣間見える。
本当に彼らは”音を楽しむ”事をしているのだろうか?
‥と思うようになったのは、私が年を取った証拠なんだろうか?
いや、そうではない。
私は、インディースの契約をすべく上京した9年前に
音楽業界の裏側を知った。
ロックをしたくてもレコード会社の意向でフォークを
無理やり演奏させられているデュオや、
レコード会社と契約したものの中々デビューさせてもらえない人と話をした。
彼らの長期の疲弊した生活を感じさせる張りの無いくすんだ肌と
未来に絶望した瞳が、私に音楽業界入りを思いとどまらせた。
当時私は大学生と若く、不幸を感じている人と今まで話したことが無かった私にとって、
彼らとの出会いは私の音楽業界へのあこがれを打ち砕くのに十分だった。
音楽の道を進んでいたら、私の人生はどうなっていたんだろうか?
今でもそう思うことはしばしばある。
でも、今より幸せだったかどうかは非常に怪しい。
そうだ、ガネーシャはどう思っているんだろうか。
彼女なら面白い切り口を見せてくれるかもしれない。
「ねぇガネーシャ、MTVはいつも見ているんだっけ?」
「うん、よく見ているよ。」
「そっか。最近の音楽業界ってどう思う?」
「うん、うまく出来ているって思うよ?」
「え?そうかなぁ。最近の音楽はつまらなくなったなって思うんだけど。」
「そう?」
「そうだよ!音楽的につまらないし、やりたい音楽をやっている人がどれくらいいるか、
分かったもんじゃないよ。」
「あ~、なるほど。音楽的な視点から見ているんやね。」
「ん?じゃ、ガネーシャはどういう視点で見ているの?」
「マーケティングに決まっているじゃん。」
「へ?」
「へ?ってあんた‥音楽の道を目指していたんでしょ?
そんなことも知らなかったの?」
う‥全く知らなかった‥。音楽とマーケティング‥つながるものなのか‥
音楽とは自己表現、そう思っていた。
「知らないみたいだから、ちょっと説明してあげるよ。
ヒット曲を量産するためには、市場が求めるものを提供する必要があるわ。
だから、作家は市場が何を求めているかを常に考える必要があるの。
自分のやりたい音楽をやるなんて、
単なる自己満足よ。」
「でも、音楽って自己表現なんじゃないの?」
「そうね。でも、それは産業としての音楽の話じゃない。
文学にも純文学と大衆文学があるように、
音楽にも音楽性を追求した純粋な音楽と、
大衆に向けた産業的な音楽があるよね。
で、私は純粋な音楽のことに興味が無いことをダーリンは知っているはずだから、
産業的な音楽について話しているのよ。」
なるほど。確かに、音楽をそのように2つに分ければ納得できる。
「で、マーケティングの話に戻るけど、例を出すとperfumeなんかが分かりやすいかな?」
「最近人気だよね。私も気になっているんだよ。」
「だよね。ダーリンはクラブ系の音楽が好きだし、
小室サウンドも聞いていたもんね。」
「そうそう。最近あんまり音楽を聴いていなかったんだけど、
perfumeを聞くとまた音楽を聴きたいって思うようになったんだ。」
「あのperfumeも正にマーケティングの賜物よね。
テクノが好きな40代、小室サウンドが好きな20代~30代、
それにアキバ系やアイドルオタク、それにクラブミューシック好きや
アニメーションダンス好きなど、幅広い人に受けるように作ってあるよね。」
「あと、イメージを損なわないように
切り捨てる部分はしっかり切る。
これが功を奏したと思うわよ。
例えば、今までアイドルは声をしっかり届けるものという不文律があったけど、
テクノサウンドと融合させるためにかなりボーカルを加工しているし、
そのイメージを崩さないために、生番組でも口パクで歌ったり、
プロモーションビデオはかなりアーティスティックな作りになっていたり‥
挙げたらきりが無いわね。」
「なるほどね。」
「あと、振り付けもそうね。
これはperfumeにかぎらず女性アイドルグループに共通することなんだけど、
振り付けが男性を惹きつける要因の一つね。
いかに女性の良さを男性に伝えるかというところに苦心しているわ。
だから、女性はアイドルのプロモーションビデオから
そういった仕草を盗むべきよね。」
なるほど。それでガネーシャは時々MTVを食い入るように見ているのか。
MTVを見た後は、妙にジェスチャが多くなるのは、
私で実験しているってことか。
「あ、ちなみに、perfumeは謙虚であるという部分もここまでヒットにつながった理由かもね。
下積みが長かったそうだから、そこも今の人気に影響しているかも。
ま、マーケティングをしっかりやれば、すぐに必ず有名になるわけではないけど、
プロモーションビデオにはかなりマーケティングの要素が入っているから、
そこから新しいアイデアをもらうのも良いと思うよ。
何せ、そこには相当な投資がされているから、
マーケティングとしてはかなり洗練されているものが多いしね。」
なるほどね。そういう見方もあるのか。
相変わらず、ガネーシャは切り口がおもしろい。
っと、こうやって話している間に、MTVから流れてくるのはperfumeではないか。
今までプロモーションをマーケティングの方向から見たことは無かったな~
などと思っている横で、ガネーシャが食い入るように見ていた。
‥‥ガネーシャがperfumeのプロモーションを見ながら何かぶつぶつしゃべっている。
「‥う~ん、これはいつ使えば‥」
「‥あ、これは良いな‥」
「何やっているの?」
「だから、実践に応用するために振り付けを盗んでいるんだよ?」
あ~、なるほど。いつもこうやって仕草を盗んでいるのね。
「あ、この仕草、良いな‥」
「確かに、これは可愛らしいよね。」
「あ、やっぱり?こういうのが良いんだ‥」
そういって、ガネーシャはまた画面を食い入るように見ていた。
徐々に振りを真似るジェスチャが大きくなり、
最後にはソファーから立ち上がって振りを踊りだした。
ポイントでは私のほうをチラッと見て、私の反応もしっかり見ている。
私がガネーシャから目をそらそうものなら、
「私から目をそらさないの!」
と怒ってくる。困ったもんだ。
ま、ガネーシャが楽しそうにしているから、良いか。
