大太鼓コンテストの課題曲は、第一回大会から変わらず今回の第五回大会でも『ビーテッセンスⅠ』だった。 今回は会場も変わったし(代々木国立青少年センターから渋谷の青山劇場に)そろそろ課題曲も変わるだろうかと期待もしていたが、変わらなかった。
客席でこの曲を聴いていた時、「なんて曲なんだ‥‥」とちょっとしかめっ面をして呟いていた。 これまでのほとんどの演奏者が、曲として成り立っていないような叩き方をしていたからだ。まず聞いていて面白くない。 また、これを叩くのか‥‥。 最初の感想がそうだった。
でもこの曲を叩かなくてはいけない。 心を決めて楽譜を読むことにした。
作者は石井眞木さんだ。
眞木さんは、何を表現したかったのか‥‥僕は出来るだけ楽譜に忠実に正確に叩こう、叩きたいと思っていた。 何度も読むこと、何度も叩くこと。それしかない。
練習を続けていて思ったのは、 これは眞木さんから奏者に突きつけられた挑戦状だ ということ。
一尺五寸位の太鼓で細いバチでなら叩けるけども、四尺の大太鼓を太いバチで叩くような楽譜ではないのだ。それを敢えて書いてある。 眞木さんの薄笑いの顔が目に浮かぶようだった。 「フッフッフ、これをどう叩いてくれる?」
眞木さんは、どう叩いて欲しかったのだろう。眞木さんは、僕が叩くのを見て何と言ってくれるだろうか?
そうずっと考えていた。
確かに難解な曲ではあるけれど、噛めば噛むほど味が出てくる噛みごたえのある曲だった。
よくこんな曲を書きましたよね。作られましたよね~。 眞木さんが生きていたら、そう直接言いたかった。 でもたぶん魂は会場に降りてきている筈だから、その眞木さんに聞いてもらおう。 そう思って練習していた。
打つほどに大好きになっていたこの曲だけれども、打つほどにより難しさも感じていた。覚えきることさえ難しい。
集中すること。 この歳になって久しぶりに味わう大きな集中の時間だ。
もう大丈夫。これで出来た!と思って太鼓に向かい叩いていても、突然にフッとゼロコンマゼロゼロ何秒かの空白が飛び込んで来ると、止まったりリズムが狂うことがあった。これは、まだまだ何度も練習をするしかない。
曲は好きになっていたし、表現の方向も見えてきていたが、どうしても恐ろしいのはこの空白の訪れだ。 自分を信じるしかない。
もし万一、それが訪れたとしても、途中で何があったとしても、 「あきらめない、なげない、にげない」そう心に誓っていた。
舞台に名前を呼ばれて登場する前にも、下手袖奥の暗がりで自分に声を出して言い聞かせた。そしていろいろな方に感謝をした。
本番の演奏を見て聞いてもらって眞木さんは、何と言ってくれただろうか‥‥。何を思ってくれただろうか‥‥。
ありがとうございました、眞木さん。
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