横浜放送映画専門学院時代、学校で毎日のように映画の上映があった。 まだレンタルビデオ店などはない時代、映画は映画館に行って見るものであり、それが学校で見られるというのは、かなりの魅力だった。 学校には、スカイ劇場という本格的ホールもあった(借りていたのだけど)。 思い出深い、学校で見る映画の楽しみの一つに、拍手があった。
映画が終わると映画の善し悪しによって拍手が沸き起こる。まるで劇場で芝居を見終わった後のようにだ。 この学校に入学したその日、入学式も終わった午後『神々の深き欲望』が記念上映された。 学院長でもある監督はもうその場にはいなかったと思うけれど、映画の始まりも終わりももの凄い拍手だった。 拍手で迎え入れられ、拍手で幕が下りた。
僕は初めて、映画もこんなに拍手をするんだ、と感動した。 この後、学校で見る映画はすべてにこの拍手があり、特に本編が終わった後、出演者スタッフの名前が淡々と流れるエンディングロールでも、そこでお気に入りの名前を見つけては拍手が沸き起こる。
こんな楽しみは並みの映画館では得られない。 今でも、映画はよく見に行くが、良い映画を見ると拍手をしたくなる。 そんな事を教えてくれたのも、イマヘイさんが作った学校でだった。
6日・火曜日の午前、今村昌平監督の告別式に参加してきた。
北村和夫、小沢昭一、緒形拳、役所公司、らの顔が並ぶ。他にも柄本明、坂本スミ子・・・。 渋い、渋すぎる面々だ。男臭い(坂本さんは女性ですが)。
イマヘイさんは、男に惚れられる監督だったと思う。 男気があったのだろう。
その中で美しく目を惹いたのが、田中好子さん。 この方は、確か僕よりも年上だったよな~、それにしても美しくて可愛い。 じろじろ見る場所ではないのですが、しっかりと脳裏に焼き付けました。
献花が終わって、棺を囲み最後のお別れ。
葬儀委員長の北村和夫さんがまず挨拶。 天下の名優が語る素顔のセリフは、どんなだろうと耳を凝らした。
その後に、喪主の挨拶と息子さんの挨拶が終わり、 「それでは皆様・・・」と話し始めた進行を務める斎場のスタッフの声を遮り、いかにも突然に急遽決めたという感じで息子さんが話した。 「父は賑やかなこと好きでしたので、最後は皆様の手締めで送って頂きたいと思います」 そこで音頭を取ったのが、小沢さん。
棺の中の今村さんに「これで、いいよな」と同意を得て、 「それでは、三本締めでいきたいと思います」 棺を囲んでの、三本締め。
斎場に響き渡る、手締めの音。 そして沸き上がった拍手の音。
最初は、こんなところで拍手しちゃっていいのかな、と少し遠慮がちに始まったけれど、それは盛大な音にすぐ変わった。 もちろん僕も力一杯、手を叩いていた。その拍手は長かった。
その後、
いよいよ棺は閉められ、斎場から出てゆく段になって、感極まった一人の男が棺に駆け寄り叫ぶ。
「今村昌平監督、万歳!!」
その声に続いて、万歳三唱!!! そしてここでも大きくて長い拍手‥‥‥。
僕は初めて学院で見た映画『神々の深き欲望』のラストシーンを思い出していた。 斎場での拍手の音は、あのスカイ劇場で体験した、沸き上がった大きな溢れんばかりの拍手の音にオーバーラップして、僕には聞こえていた。
三本締めに、万歳三唱、そして拍手。
こんな告別式は初めてでした。
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