27人部屋というのは、9人が下に二列で布団を並べ、一列は二段になっていて上にも9人が並ぶ。 元々睡眠が取れない神経がひ弱な僕だからなかなか眠れない、その上にイビキだ!もの凄い轟音が部屋全体に響いていて、部屋ごと空を飛んでいるかのような錯覚を起こした。 あんまりにも眠れないので三時頃に一度、起きてみた。 昨夜の星空が、夜明け前にまたどんな見事な空になっているのか、ちょっと気になったこともある。 外に出ると‥‥。
月が煌々と照りつけ星の一欠片の姿もない。 明るすぎる。 深い影が地を染めていた。 諦めて布団に戻った。
それからまたうつらうつらしながら、辺りのざわめきを感じて覚醒した。 時計を見ると四時を少し過ぎたところ‥‥、すでに周りの人たちが起き出した。それも楽しそうに。 五時半起床じゃなかったのか? 遠足前の小学生と同じノリか、準備が早い! 僕も起きることにした。そんな訳だから起床時間には皆もうすっかり起きて出発準備が完了している具合だった。 朝ご飯は、昨日のうちに貰っていた弁当だ。これは不味かった。 かつて人間ポリバケツと言われたこともある僕でも食べられなかった(三個しか)。一緒に付いていたドリンクも日本にない不思議な味がした(一応全部飲んだけれど)。 早く起きても、出発は6時40分だ。
朝の第一ポイントに向かう。 紺碧の空!太陽が眩しい。標高2800メートルの空って、こんなに輝いているんだ! 昨日の星空より、僕はこの青空により感動した。 バスを降りて、歩き出す。 先頭には「優」と白地で書かれた紅の三角旗を棒にくくって掲げる劇団員。そして小さいドラを持つ人。そして劇団代表のRさんとHさん。 ドラの音が、出発の合図だった。
それから100人を越す人数が、山の峰を歩く。黙々と。
空気が薄くて呼吸は少し苦しいが、ゆっくり歩けばいい。気分はとても晴れやかだ。 尾根はなだらかだったり急だったり、一番高いポイントまで歩いてそこでしばらく休んだ。 太陽の光。 風の音。 空の匂い。 そこに息づく生命を感じる。
そこから下山する、少しずつ。 登るよりは楽だろう。それぞれのスピードで歩くが、僕は旗の近くにいたい気分で先頭にくっついていた。 なにも考えない。
どのくらい時間を歩いたのか、下に休憩所のような広い駐車場が見え、そこに太鼓が大小20台ほどか‥‥並べられて、陽に晒されていた。 「嗚呼、太鼓だ~」と嬉しくなってそこまで早足で駆け下りた。
お昼の前に、「太鼓演奏」があるのは知っていたがどこであるのか分からなかった。絶景のロケーションだった。ここまでトラック隊が別に太鼓を積んで来て待っていたのだ。
みんなが下りてくるまでの時間、太鼓を見た(勝手に叩くわけにもいかない)。 僕がこれまでに見た台湾製のどの太鼓よりもしっかりした台湾のプロ仕様、と見て取れた。 ここでの演奏は二曲。 僕にしては待ちに待った生の太鼓演奏を聞く機会だったので、当然期待した‥‥‥が、一曲目の「流水」という曲は、構成の順番を変えてあるけれど僕には石井眞木さんのモノクロームにまるでそっくりに聞こえた。 演奏は悪くなかったけれど、これでは気持ちが萎えた。 嫌な予感だ。
二曲目は、日本でもさんざんやっている組太鼓形式の曲。 下手ではないけれど‥‥‥、これではオリジナリティがどこにあるのだ?
二曲目「奔騰」
自然環境は抜群だったけれど、僕の心は躍らなかった。
ショート公演の後に、参加者関係者と記念集合写真
「ちょっと、太鼓を叩いてもいいですか?」 写真を撮った後、劇団の人は着替えで戻り、太鼓をトラックに片付ける前に、僕は太鼓を叩かせてもらい落ち込んだ気持ちを少しでも晴らした。
その後、時計を見たらまだ10時半。 なのにもうお腹がペコペコ。朝が早いと昼までのなんと長いことか。
それから車に乗り込み移動しては、歩く。を繰り返す。 やっとお昼の時間、劇団のスタッフに昼の弁当はいつ貰えるのか聞くと、 「トミダさん、もうお弁当は配ってありますよ。ぜんぶ食べちゃったの?」 「えっ、朝ご飯しかもらってませんけど‥‥」 「昨日渡したのは、朝、昼兼用の弁当なんですよ~。全部食べたんなら、あまってるのがありますから、これも食べますか~?」 仕方なく残りのパンを口に入れた。
だんだんと移動と、歩き疲れと空腹で頭がぼんやりして来たところで休憩地に着く。
樹齢3200年といわれる大木は「碧緑神木」と崇められている
ここでは時間がずいぶんあったので、さっき太鼓を叩いていた劇団員の一人(たぶんNo.2らしき男性)に失礼にも疑問をぶつけてみた。いきなり太鼓指導者のHさんには聞き難かったからだ。
「さっき見せて貰った一曲は、日本の太鼓の曲とそっくりでしたが、影響は受けていませんか?」 「私は太鼓を叩いて13年ですが、そのことについてはよく分かりません」 「二曲目の太鼓の曲も、日本では非常に一般的な太鼓スタイルで、正直、面白さを感じませんでしたが‥‥」 「鬼太鼓座も鼓童も、台湾での公演を見たことがありますが、影響をどう受けたのか言葉にするのは難しいです。でも、自分たちは劇団で太鼓専門のチームではありません。芝居もやり、踊りや武術などもやります。さっきの演目ではあまり特長が出せていたとは言えません。他にもたくさんの演目があるんです。夜の公演では、もっと自分たちの特長を出せると思います。ぜひ見て下さい」
彼は少しムッとしながら僕の質問に答えてくれた。 劇団のプレイヤーは13、4人で、他にスタッフを含めて20人ほどが劇団からの給料で生活している、れっきとしたプロ集団だ。 集団生活ではなく、住まいは別々だが台北の自宅から劇団に通っている人が多いと聞く。他にも練習方法などについて話し始めたところで、出発の時間になった。
そうか‥‥。 彼らの夜の公演を見てから、また話を聞きたいなと思った。
つづく
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