なくしたもの思い出しゲーム



9歳の夏、ボクはとても特別な体験をした。
これはそんな夏の1か月の物語。



お母さんが臨月のため、ボクはお父さんに連れられ田舎の親戚の家に向かっていた。
臨月というのは、赤ちゃんが生まれそうな時期のことらしい。
だから赤ちゃんが生まれるまでの間、ボクはおじさんの家に預けられることになった。



車の窓から流れ込む風は、いつものそれとはどこか違う気がする。
この夏はボクに、いったいどんな思い出を残してくれるんだろう。



おじさんの家につくと、みんながボクを迎えてくれた。
何事も初めが肝心、
ボクは元気よく自己紹介をした。
ボクの名前は、久保田ボク。
さかさまにしてもクボタボク。



おじさんの名前は空野優作といった。
陶芸家なんだそうだ。
なんだか少しカッコいい。



空野の家には二人の子どもがいた。
一人は萌。
ボクより年上の中学3年生。
なんだかすごく大人っぽい。



もう一人は詩といった。
詩と書いて『しらべ』と読むらしい。
小学2年生なのに、なんだか少し生意気そう。



この家のお母さんは薫おばちゃん。
ボクのお父さんの妹なんだって。
なんだか少しお父さんに似ているかも。



自己紹介が終わると、お父さんは車に乗って帰って行った。
少し心細い気がした。



おばちゃんはボクが1か月を過ごす部屋に案内してくれた。
壁にはボクが小さい頃に見たヒーローのポスターが貼ってある。
誰の部屋なんだろう?



ボクはおばちゃんが干しておいてくれたというベッドの布団に飛び乗った。
やわらかくてふかふかで寝心地満点そうだ。
それにお日様の匂いもした。



夕ご飯までの間、ボクは庭に出て散歩をすることにした。
その途中、おじさんから夏休みの自由研究について聞かれた。
まだ何にするか決めてないんだよな。



そう、おじさんに言うと、おじさんは昆虫採集セットがあることを教えてくれた。
しかもボクにプレゼントしてくれるらしい。



おじさんの子どものおさがりらしいんだけど、うれしくて徒競走の後みたいに心臓がドキドキした。



庭に出ると、すでに太陽は西に沈みかけていた。



庭の片隅には牛小屋があり、一頭の乳牛が干し草を食んでいた。
それにニワトリも放し飼いになっている。
新鮮な牛乳や卵が採れるんだろうな。



夕食の準備をしていたおばちゃんがボクの姿を見ると、洗濯物は夜のうちに出してねと言ってきた。
でも、ボクは着替えは1枚しか持ってきていない。
荷物の準備をしたのはお父さんだ。
お父さんは結構おっちょこちょいなんだ。



するとおばちゃんは「お兄ちゃんのお古が着られるかなぁ」と言った。
お兄ちゃんって誰だろう。



そして夕食の時間が来た。
今日のメニューはカレーライスだ。
食卓には食欲をそそるいい臭いが漂っている。
ボクはカレーライスをかきこんだ。



食事が終わり部屋に戻ると、昼間にはなかったものが置いてあった。



それは、どんよりと悲しい夕焼け空をバックに、二機の複葉機が描かれたプラモデルの箱だった。



そして、箱の中身はおじさんの約束通りの昆虫採集セットだった。
明日、さっそく虫取りをしてみよう。



ボクは夏休みの宿題の一つである絵日記を書き込んだ。
これが寝る前の日課だ。



そして、一日が終わった。



翌朝、長旅の疲れからかぐっすりと寝たボクは、ニワトリの鳴き声で目が覚めた。



それから庭に出て、みんなでラジオ体操。
すがすがしい気分だ。



さあ、昨日は行けなかったところまで探検だ。
家の脇にある坂道を登っていくと、小さな畑に出た。
そこではおじさんとおばちゃんが何かしている。



ここはおじさんの家のトウモロコシ畑だったんだ。
おばちゃんは収穫を手伝ってとボクに言った。



トウモロコシの収穫なんてやったことがない。
でもなんだか楽しそう。
ボクは一生懸命カゴに収穫したトウモロコシを入れていった。



収穫が終わったら、また探検を続けた。
おじさんから借りた釣り竿を使って釣りもした。
初めてだったけど、20cmもあるニジマスを釣ることができたんだ。



ボクは夢中で遊びまわった。
少し薄暗くなってきた時、おじさんが迎えに来た。
もう、ご飯の時間になっていたみたいだ。



夕食を食べながら、おじさんはホタルの見られる沢のことを話してくれた。
ボクはホタルは見たことがない。
一度、見てみたかったんだよな。


でも、おじさんは夜道が危ないから、日が沈んでからは見に行ってはダメだと言った。
残念だなぁ。



翌朝、詩ちゃんが面白い所を案内してくれると言い出した。
どうやら決定事項らしい。



ご飯を食べ終わって縁側に行くと、すでに詩ちゃんが待っていた。
よほど案内したかったみたいだ。



詩ちゃんの案内、というか、どんどんと駆けていく詩ちゃんに置いて行かれないようについて行く。
小さな川にかかる橋の上で詩ちゃんは止まった。
この橋はおじさんが直したんだという。
大工さんみたいでカッコいい!



そして、詩ちゃんはまた駆け出す。
やっと追いつくと、詩ちゃんにダメ出しされた。
ゆっくり歩いてくれればいいのにな。



詩ちゃんは道端に咲く小さな紫色の花を指差し、蜜が美味しいと教えてくれた。
吸ってみると確かに甘くて美味しい。
なんて花か聞くと、ムラサキチューチューだと教えてくれた。
ヘンな名前。



ヒマワリの咲く広場まで来ると、おばちゃんがカメラを片手に待っていた。
ボクたちのことを写真に撮るためだと言った。
おばちゃんは昔、東京でカメラマンをやっていたらしい。



おばちゃんはヒマワリの前でボクと詩ちゃんを立たせるとパチリと写真を撮った。
出来上がるのがちょっぴり楽しみだった。



その晩、ボクは詩ちゃんとのことを絵日記に書いた。
無理やり連れだされたけれど、楽しかったからだ。



次の朝、食事終わりにおじさんが会合に出るため、今夜留守にすることを聞いた。
それが夜のホタル沢に行くたった一度のチャンスだった。



夕方、おじさんは会合に出かけていった。



よし、ホタル沢に行こう。
ボクはこっそり家を抜け出す。



ホタル沢につくと、小さな光が飛び回っているのが見えた。
これがホタル?



その光はなんだか幻想的で、とっても綺麗だった。



次の日、ボクは寝坊してしまった。
興奮してなかなか寝付けなかったからだ。



家を抜け出してホタル沢に行ったことを、おばちゃんは気づいていた。
あまり怒られはしなかった。
でも、今後は約束を守ろうと思ったんだ。



その日はこれといって何にもない一日だった。
こんな日があってもいいよね。



ヒューーーー、ドーーン
窓の外からそんな音が聞こえてくる。



花火だ!
こんなに花火を近くで見るのは初めてだ。
音が鳴り響くたびに、空気がびりびりと震えた。



ボクがこの家に来てからまだ一週間。
でも、いろいろなことがあった。
これからもいろいろあるんだろうな。
ボクはそんなことを考えながら、花火を見つめていた。




 


 

今回の記事では省いていますが、現地の子どもたちが登場し、ボクくんと触れ合います。
秘密基地があったり、そこで虫相撲をしたりと、ボクくんはこれまでになかった様々な体験をします。
それは大人になってからも思い出される大切な記憶じゃないでしょうか。
ボクくんが身を寄せている空野家では、ときおり男の子の存在が出てきます。
でも、空野家は4人家族。
それは8月12日に明らかになるのですが、『ぼくなつ』シリーズでこういったことが描かれているのを知りませんでした。
機会があれば、いずれこの続きも書きたいと思います。


 

【今回紹介したソフト】

 

 

 

 

★レトロゲームプレイ日記一覧 ~PSP~ >>