『目撃者「近藤紘一全軌跡1971〜1986」より』近藤紘一 | 閉店SALEがそんなに長いわけがない

閉店SALEがそんなに長いわけがない

タイトルとは無関係の極私的読書感想文

本書は、著者が書いたものだが、著者が編んだ作品ではない。彼の死後にいわば遺稿集として編まれたもので、編者は沢木耕太郎がつとめた。文庫の元になった単行本には、彼が記者時代に書いたニュース記事や評論なども含まれている。この文庫では、エッセイと小説だけを独立させて収録している。

近藤紘一の活動のルーツは、ベトナム戦争やカンボジア紛争にある。エッセイはもちろんだが、数少ない小説においても、その世界は彼が東南アジアで見聞きしたこと、が基盤になっている。

しかしながら、たった一編だけ全く異なる時期に書かれた作品がある。彼が亡くした最初の妻のために書いた「夏の海」である。

二度と戻ることのない温かな日々を綴るこの作品からは、近藤の絶望に近いほどの痛さをともなった悲しみが、胸の奥の方に感じられる。

あとがきで沢木も指摘しているように、近藤の作品には、ほのぼのとした日常の中に潜むある種の諦念といおうか、突き放したような描写が垣間見える時がある。

人生におけるなにかを放棄したような気持ちは、近藤作品の明るさの中に見える影となって、独特の魅力を形作っている。

その原点こそがこの「夏の海」で、この小品を読むたび彼の悲しみの深さに胸が詰まる。


『目撃者「近藤紘一全軌跡1971~1986」より』文集文庫/近藤紘一