「兄ちゃんお疲れ!」とバイト中にも関わらずビールを強要された私は、飲むふりをしながら二人の話が終わるのを待っていた。たまに漏れ聞こえる会話から、二人ともどうやらその筋の方らしい。その店は沖縄出身者のコミュニティのようだった。
突然職場から消えてどう思われてるのか不安だった私を、パンチのおじさんは「この兄ちゃんは良く働いてくれていい奴だ」と、マスターにしきりに褒めてくれた。その時、マスターが私にかけた言葉が、「兄ちゃん、イチャレバチョーデーだよ」だった。
一回会ったら友達、ということらしい。そのなんとも間の抜けた発音に少々意外な感じがしつつ、同時に妙な人なつこさを感じたものだ。
佐野の本にも、やたら親切で親戚のようになにくれと世話を焼いてくれる沖縄県人が登場する。沖縄県人というより琉球民族と表した方が適切かもしれないが、ともかく、その濃密な感じは、狭い島であるにも関わらず、東にも西にも開けた土地柄故の多様性(チャンプルー的な)がそのまま表出しているようである。
本書の題目は、本土発の沖縄レポートではわからない、アングラな面からオキナワを捉えてみようというものである。オキナワヤクザの抗争や、知事選の顛末、基地との微妙な距離感などは、まさに本土からの沖縄論、哀訴に満ちた被害者としてのレポートからは到底見えない。
そうした意味ではある程度佐野の試みは当所の目的を果たしているのだろうと思う。ただ、総花的な内容になっているので、もう少しという食い足りなさを感じる部分があるとも感じた。
それもこれも、沖縄が持つ問題の多さと幅の広さ故なのかもしれない。尖閣諸島ひとつ取ったとしても、利害関係者が何人も出てくる。掘り下げているつもりが、気づけば横穴になっているような、どこまでものびていく感覚を読んでいて感じた。
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