重松清さんの「きよしこ」
3月にNHKでドラマ放送していた。
重松さん自身の吃音だった幼少期から青年期を描いたもので、ドラマでは安田顕さんが演じていた。
原作が好きで録画しておいたけれど、放送した頃はそれどころではなくて、今頃になって見た。
三女は吃音こそなかったが、表出の難しさは同じレベルで辛さがあったのではと、録画を見ながら涙が出た。
いつもニコニコ人に合わせていた三女。
障害のある次女にも四女にも優しかった三女。
ママすごいね。お姉ちゃんすごいね。と母も長女も尊敬してくれた三女。
定型発達で成績も中の上だったが、生活の中で言葉を紡ぐ事が極端に下手だった。三女が何か話し出すと、何を言っているのかなかなか伝わらなくて、みんな首を傾げながら質問や補足をしながらやっと意味が通じる感じだった。伝えたいと思えば思うほどそうなってしまう様だった。そして、話すのをやめてしまう事もしばしばだった。
言語性よりも動作性が勝るタイプで、幼い時から運動神経に優れていたから、希望だった体操を習ってクラブで選手になった。毎日よく厳しい練習に耐えると感心していた。中学の部活で部長になった事で女の子の関係に疲れたのか、運動で有名な高校に入学したけれど、体操部はモテないからやめると続けなかった。毎回の大会や遠征の大変さと、大怪我もする競技だけに、私もホッとしてしまったところもあり、反対はしなかった。三女はすっかりモテる女子高生を目指す様になった。
モテる女子は言葉を紡ぐ必要がない。黙ってにっこり話を聞いてあげる方が圧倒的にモテる。そんな事も言っていた。三女の表出の方法は、どんどん見た目やInstagramなどに偏って行った。
お洒落なカフェに行きたがり、色気付いたお洒落な服を着たがった。長女と5つ離れているから、耳年増なところもあるなと、大目に見るところもあった。
家庭で制限をかけていたスマホに満足できず、友達の使わない端末を内緒で借りていて、Instagramのフォロワーは気付いた時には1000を超えていた。行方不明になってはじめて見てゾッとした。学校ジャージで写っているものに、怪しげなコメントが付いていても、律儀に返信をしていた。明らかに怪しいスカウトメッセージにも、浮かれて返信をしていた。承認欲求が暴走していたのだろう。彼女のInstagramはキラキラした美しい素敵な世界で、もはや砂の城だった。
リアルな世界では、承認欲求を満たしてやれなかったのだろう。被害にあった事を忘れたかったのかもしれない。言葉を紡げない事に、もっと手を差し伸べてやるべきだったと思う。言葉にできないその辛さに、もっと寄り添ってやればよかった。三女から見ると、独立心が強く言葉を自由に操る母や姉は、ただのプレッシャーでしかなかったのかもしれない。言葉に頼らない表出にもがいた三女の苦しさが、人と群れながらも孤独を深めていた真四角の写真たちに滲み出ていた。