智『…超、海綺麗なんだよ』
『ほら』
大野さんはそう言うと…
真っ暗な画面を俺に見せた。
和「…なんも見えない…」
智『え、マジか』
和「マジかじゃないよ」
「…なんならアンタすら」
「闇に溶けて見えないし」
和「ホントにアンタ…」
「ちゃんといんの?」
まさか…
アンタが今いる場所は…
ガチで天国、なんてことないよね?
涙声の俺に多分気づいていない。
大野さんは少しも悪びれずこう言った。
智『わりぃわりぃ』
『ちょっと待ってろ』
携帯のライトをオンにしたのだろう。
フッと…
光がさして。
何かが画面を横切った。
一瞬だったけど、見間違えるはずもない。
それは、手。
大野さんの…
細い、長い、男らしい…
大好きな手。
それが見えただけで、何かが込み上げてくる。
智『ほら見えるか?』
『超綺麗な海だろ?』
ゴツゴツとした岩肌の隙間から…
キラッとコバルトブルーが見えた。
綺麗…
かも、しんないけど…
でも。
俺が見たいのは、そんなんじゃない。
俺が今すぐ見たいのは…
智『……かず?』
『見えてっか?』
呑気な大野さんの声が、波の音に溶ける。
不安が押し寄せる。
やだ…
俺の大野さんを…
俺だけの、大野さんを。
どこにも連れていかないで…
黙ったままの俺に…
『かず?』と不思議そうに大野さんが呼びかける。
その瞬間、俺は叫んだ。
和「…ばかっ!!!」
俺は携帯目掛けて、唾を飛ばしながら…
大声で怒鳴った。
和「ばか、ばか、ばかっ!!!」
「なんで俺のそばじゃなくて…」
「なんでそんなとこにいるんだよっ!!」
俺達の声で…
まるで魔法が解けたみたいに。
大野さんを闇から浮かび上がらせる。
携帯の中の大野さんは…
一瞬びっくりした顔をしたけれど。
泣いてる俺に、やっと気づいたのか…
呆れたように、笑っていた。