大宮BL小説です。
閲覧ご注意ください。
最終話です。
「…お汁粉、こぼれる…」
抱き寄せられてしばらく…
大野さんの腕の中にいた僕は。
小さく呟いた。
パッと腕を離した大野さんは、ガシガシと頭を掻いて言った。
「…なんか他言うことねーのかよ」
「だって、スーツにお汁粉ついちゃうもん」
「…まぁそうかも知んねーけど」
「人が必死で」
「…愛の告白してんのにさ」
「…愛の、告白…なんですか?」
僕の言葉に…
ぶうたれたように、大野さんは言った。
「…それ以外になにがあんだよ」
秘密がなくなるなんて…
どうしてそんなこと、思ったんだろう。
こんな顔の大野さん…
きっと誰も知らない。
あんな俺様な告白も…
それとは正反対な甘い唇も。
大野さんの秘密を僕はいっぱい知っているじゃないか…
僕は、今更そんなことに気づいた自分が…
なんだかおかしくなってきて。
ふふっと笑った。
そんな僕が気に入らないのか…
ますます不貞腐れる大野さんの、唇に…
今度は僕が。
お汁粉味のキスを落とした。
目を真ん丸にした大野さんに、僕は言った。
「…今の、サインです」
「…は?」
「…デカい秘密を共有する」
「恋人になる、契約印」
そう言って…
飲みさしのお汁粉を、渡した。
「こんな甘いの、絶対飲めないし」
「多分一生好きにはならない」
「でも…」
「これを飲む、あなたは…」
「…あなたは、好きです」
「しょうがないから…」
「あなたのために」
「カフェクバーノ、ずっと作ってあげます」
「仕事だけじゃなく」
「プライベートでも」
「だから、あなたは…」
「他の人のは、飲まないで?」
ね?
と…
真ん丸な瞳に問いかける。
すると、大野さんは…
お汁粉をまた一気に煽って…
律儀にそれを、ゴミ箱に捨てて。
そのまま僕を、抱き寄せた。
甘い香りに包まれる。
秘密の香りは…
どうしようもなく魅惑的で…
幸せな色をしていた。
「じゃ、おまえもさ」
「俺が作る辛いカレー以外は食うなよ?」
「え」
「…えってなんだよ」
「それは無理でしょ」
「…なんでだよ!?」
「だってカレーなんて、お昼の定番じゃん」
「あなたが作るカレー以外食わないなんて、無理でしょ」
「なんだよそれ!」
「それいうならおまえ、コーヒーだって…」
「いやあなたコーヒー飲まないでしょ?」
「僕はカレー普通に食べるもん」
「全然違うじゃない」
「おまえ…」
「ほんとに…」
「面白ぇやつだなぁ」
そんなことを言いあいながら…
社内なのに抱き合う僕ら。
このデカい秘密がバレてしまうのも…
きっと、時間の問題だ。