大宮BL小説です。
閲覧ご注意ください。


























たどり着いた、ぐちゃぐちゃの僕を…



大野さんはただひとこと


「遅くまでお疲れさん」


と、労ってくれた。




なんか知らないけど、涙がでる。


ぐしぐし…と泣いていると「…ほら」とタオルを頭に被せてくれた。







大野さんの部屋は、いつもの甘い匂いではなく…

スパイシーで、オリエンタルな香りに包まれていた。



「腹、減っただろ?」
「…食え」



そう言って、大野さんは…
僕の目の前に、コト…と大きな皿を置いた。



「カレー…」



その湯気からは…

到底甘党のお子様舌の人が好みそうにもない、複雑なたくさんの香りがして。


それに誘われた僕のお腹は、キュルル…と音を立ててた。



「…ほら」



握らされたスプーン。

そっと掬って、口に入れる。





それは…
爽やかな辛さ。


大人味。


いろんな味が複雑に絡みあった…
まさに僕好みの、カレーだった。




『カレーのルーはバーモントカレー甘口以外認めない』


以前、僕にそう豪語した大野さんを思い出す。




僕は思わず言った。



「これ…」
「どうしたんですか…?」







一瞬の間の後…
大野さんは、照れ臭そうに言った。



「…俺が作った」





「…うそっ!」



「嘘ってなんだよ、嘘って」



「だってこんな…」
「こんな、大人カレー」



僕の声に、大野さんは…



「あー、まぁ…」

「なんつーか、その…」



急にしどろもどろになったかと思ったら。



「…作ってるうちに辛くなっちまったんだよ!」


「…でも辛すぎて食えねーから」
「おまえ、持って帰れ!」



そう言って…
いつものように…

いや、いつも以上に、乱暴に。

僕の頭をわしゃわしゃ…と撫でた。






そっぽ向いててもみみたぶは真っ赤で。

僕の頭の上の手は、玉ねぎの匂い。



きっと、作ってくれたんだ。

残業してる僕のために。



そう思うだけで…

辛いはずのカレーに…

優しい甘さを感じる。



ほんとのところはわからない。


大野さんが言うように…
作ってるうちに辛くなっただけかもしれない。



でも…


僕に作ってくれたって…
僕だけ勝手に思っておこう。



甘いのしかダメな人が…
僕のために作ってくれた。



そう思うだけで…



くだらない嫌がらせも。
聞こえるように言われる悪口も…


全部、全部…


なかったことに、できるんだから。






「美味しい…」

「すんごく、美味しいです…」



僕は…


大野さんが作ってくれた、大野さんが食べられないカレーを…


泣きながら、食べた。