side 智
甲子園のそばにある…
阪神高速の高架下。
いつもの俺の自主練場所。
夜もすっかり更けて…
人影はもうない。
要塞みたいなコンクリートの隙間から…
綺麗な月が見えている。
俺は、いつものように、縁石に座り…
イヤホンをつけて目を閉じる。
聴こえてくる、静かなピアノの音。
バイト終わりで熱った身体をクールダウンするために、いつも最初に聴く調べ。
そして…
高校時代に…
流れてくる音の中、二宮を感じていた…
その音符に乗ってステップを踏み続けた、調べ。
ベートーヴェンの「月光」
二宮はいつも…
この曲を弾いていた。
いつもなら…
第一楽章を聴くだけで。
身体も心も凪いでくるのに…
今日のその調べはまるで…
俺を責めるように響いてくる。
ぎゅっと唇を噛んで…
俺は拳を握った。
会えて嬉しかったのに。
ずっとどうしているか、気になっていたのに。
自分の言動を自分で責める。
気持ちがどうしても沈んでいく。
気分を変えたくて…
二楽章に変わったタイミングで、俺は立ち上がり…
ステップを踏み始めた。
少し明るい…
弾むような音達に…
身体を弾ませる。
でも…
心はずっしりと重いままだった。
身体と心がバラバラのまま…
第三楽章が始まる。
今の俺の乱れた心にピタリと合った、激しいリズムに…
全身を任せて踊り続ける。
変わってしまったのだろうか。
いや、きっとそうじゃない。
俺だけが変われないままなのか。
いや、きっと違う。
あの頃…
一心不乱にピアノに向かっていた二宮と…
ひたすらステップを踏み続けた俺。
きっと…
何も変わらない。
そうであってほしい。
俺はまるで祈るように…
月の光をわずかに浴びながら…
ただただ踊り続けた。
*次回は明日6時17分和子ん家です!
